青年が気づき始めた”普通”の裏側【イワシとわたし 物語vol.5】
拍子抜けしてしまいそうなこの現実に彼は一種の焦燥感を覚える。
大人への憧れを感じていたあの頃から、気づいたら憧れたその年齢に彼は追いつこうとしていた。
大人というのは、もっと自分という存在が浮き立っているものかと思っていた。
しかし、今の自分はと言うと、彼には“普通”という言葉しか思い浮かばなかった。
普通。
普通という違和感。
想像していた大人像と今の自分の姿に距離を感じてならない。
夏の風物詩を目の前にしても、彼の頭の隅からその違和感が消えることはない。
涼しさを帯びる風が湿った額の熱を払う。
普通。
ぐるぐると踊るそうめん流し。
普通だと思っていたこれが普通でないと認識したのは、いつだったろうか。
ぐるぐるそうめんが回る横では、焼海老辣油と書かれた小瓶がぽつねんと佇んでいた。
辣油に焼海老。
焼海老。正月の雑煮が脳裏に浮かんだ。
小瓶を手に取る彼に店の男性が、
焼海老は鹿児島独自の文化なのだと教えてくれた。
知らなかった。
ここにも、普通の顔をして普通でないやつがいたとは。
彼は俯き手元を見つめた。
自分は“普通”と片付けていただけで、まだ何も知らないのかもしれない。
触れるものを普通であると片付けて、
その裏に隠れているアイデンティティを見落としているような、
そんな気がした。
それが、自分自身にも当てはまるのだとしたら。
その“普通”に気づけたら、自分が想像した大人に近づけるのだろうか。
彼は目隠しに手を掛けた。
model:soma Instagram(@soma_camera)
撮影:こじょうかえで Instagram(@maple_014_official)
撮影地協力:そうめん流し大野庵 Instagram(@ohnoan)
文章:橋口毬花 (下園薩男商店)
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