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取るに足らない雑記
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#短編

ペルセポネーへの餞

ペルセポネーへの餞

夢を見た。
午前4時。夜も明けきらない内。海中にいるような薄暗い青が部屋の静寂を告げる。
まだ起きる時間でもないのに意識はしっかりと覚醒していて、高鳴る胸の音が空っぽの体内で激しく拍動している。ベッドサイドに置いていたペットボトルを手に取り、温くなった水を喉に流し込みながら今見た夢を逡巡する。

春の陽が差す公園。頭上には満開の桜、足元には芽吹いたばかりの色鮮やかな花々が咲いていた。遠くにはネモフ

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指先 

指先 

翻る裾を、僅かに弛む袖を、私の辿々しい指が掴もうとしてはするりと離してしまう。ねえ、貴方に触れるのが怖いのです。このまま振り向かないで、ただ前だけを見ていて。振り払っても良いから、期待だけはさせないで。
この指が私の精一杯の気持ち。

優しい声。暖かい眼差し。
思い出の中に残る貴方の一瞬一瞬の姿。朧げになっていく記憶に何度溜め息を吐いたことでしょう。

見上げる程の背丈。仄かに香る煙草の匂い。

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