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仮説としての人的資本開示・活用に向けた「経営戦略と連動した人事戦略」の策定ステップ

2022年の研究テーマは「経営戦略をドライブさせる人事KPIの設定」でした

5月に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート2.0」の中でも最も重要だと言われている「経営戦略と人事戦略の連動」

人材版伊藤レポート2.0の内容を簡略まとめ

最も重要だが最も科学されていないであろうこの領域において一定の解を見つけることで、経営の中での人事の役割をできる限り定量的に示せるようになりたい、というのが研究をはじめたきっかけでした

研究は個人ワークとして続けていたものと1年間通わせていただいた人事プロフェッショナル講座での共同研究と合わせて、国内外約100社の事例を調べました

今回はその研究の中で感じた課題や仮説をまとめてみたいと思います。まだまだ完成度60点といったところですが、少しでも参考になる部分があれば幸いです!

以下記載している内容は個人としての見解であり、会社を代表するものではありませんのでご了承ください

「経営戦略と人事戦略の連動」が求められる背景

内閣官房・非財務情報可視化研究会より公開された「人的資本可視化指針」にある説明が分かりやすいので引用させていただきます。無形資産が企業価値の源泉となる中、資本市場に対して人的資本の価値をどう高めるのか説明を求められている、ということですね

競争優位の源泉持続的な企業価値向上の推進力は「無形資産」に

人的資本への投資はその中核要素であり、社会のサステナビリティと企業の成長・収益力の両立を図る「サステナビリティ経営」の重要要素

・今や多くの投資家が、人材戦略に関する「経営者からの説明」を期待

・経営者、投資家、そして従業員をはじめとするステークホルダー間の相互理解を深めるため、「人的資本の可視化」が不可欠

「人的資本可視化指針」非財務情報可視化研究会

「経営戦略と人事戦略の連動」を言語化できている企業は多くない

求められる背景踏まえて、人材版伊藤レポート2.0や人的資本開示指針を参考に、以下2つの観点で国内外の統合報告書を読み漁りました。

[A] 独自性のある開示(人的資本投資が競争力につながるストーリー)
[B] 比較可能性のある開示(投資家が企業間比較の観点で重視)

結果、[B]にあたる比較可能性のある開示を一定進める企業は多い一方で、[A]にあたる「経営戦略と人事戦略の連動」を説得力ある形でアウトプットできている企業はまだまだ多くない、というのが実態でした(このあたりの結果詳細は別の形でまとめようと思います。また、この企業の言語化は分かりやすいよ!面白いよ!というのがあればぜひ教えてください🙌 )

海外事例になりますが、ドイツ銀行やマクドナルドは人材に特化したレポートを出していて、[A]にあたる内容についても触れられていて参考になりました
Deutsche Bank HR Report 2021
McDonald’s 2021–2022 Diversity, Equity & Inclusion Report

フレームワークを使って「経営戦略と人事戦略の連動」を整理してみる

上記のような課題感を踏まえ、代表的なフレームワークである「価値協創ガイダンス」「IIRC(国際統合報告評議会)」を活用してみようと調査していたのですが、「経営戦略と人事戦略の連動」を“シンプルに”表現することは難しい、と感じていたところ見つけたのが、リクルートワークス研究所が公開している「1枚で語り切る 経営戦略と人材・組織戦略」でした

「1枚で語り切る 経営戦略と人材・組織戦略」リクルートワークス研究所

経営戦略を「ミッション」「中期目標」「事業戦略」、人材・組織戦略を「人材ポリシー」「組織方針」「人事戦略」で整理し、両者の結節点を「重点方針」とすることで経営戦略と人事戦略のつながりを可視化するシートです

参考までに自社の外部公開されている情報のみで整理してみたものが以下です(個人の解釈が含まれる部分はグレーアウトしています)

Culture Doc, FY2022 Sustainability ReportFY2023.6 1Q 決算説明資料 より

シートの説明にも書かれていますが、最適な重点方針が一発で見つかるものではありません。広げる〜捨てる〜見極めるといった検討ステップを踏みながら、仮説として作成した重点方針を、経営戦略と人事戦略を行ったり来たりしながらブラッシュアップすることで精度を高めていきます

「経営戦略と人事戦略の結節点」からKPI(またはNSM)を設計する

フレームワークを使って経営戦略と人事戦略の関係を整理・ブラッシュアップしたら、結節点となる重点方針を計測可能な指標化してみます

ここで具体的な事例で示せないのは残念なのですが、取り入れてみたい考え方としてNSM(North Star Metrics)を指標としたいと思います

NSMはプロダクトを対象とした指標として使われているもので、KGIとKPIというシンプルな構造では毀損されてしまいがちな「プロダクト体験」という重要な要素をカバーし、ビジネスとプロダクトの持続的な成長を実現するために採用されているものです(NSMについての詳しい説明はこちらのnoteで)

“ビジネスとプロダクト”の関係を“ビジネスとヒト”に置き換えても有効なのではと考えるのが今回の仮説です。特にヒトは感情を持った資本でエネルギーがプラスにもマイナスにも大きく振れます(EX:Employee Experienceが重視される背景ですね)「経営戦略と人事戦略の結節点」には“事業価値と人的価値の向上を両立する指標”が必要だと考えました

NSMをコーポレート機能に転用しようというのはPMから経営戦略室にGo Bold異動したyodaさんのアイデア

この“事業価値と人的価値の向上を両立する指標”を見つけるのは容易ではないと思いますが、自社オリジナルのNSMを探索する価値は十分にあると思います

また、従来は人事部門からの積み上げになりがちな人事施策をこの指標をもとにしてスッキリ(紐付かないものを精査)することができる、というのもこの整理の狙いです

設定したNSMを追いかけることで事業価値と人的価値双方に好影響があるか検証する

「経営戦略と人事戦略の結節点」の探索と同様、いきなり正解を見つけることは難しいと思われます。まずは仮説で良いのでNSMを設定し、一定期間施策を実行した上で検証し、フィードバックを重ねることで最適な指標が見つかってくると思います

この検証を行うためには人事領域におけるデータを適切に取得し、分析することが必要です。個人的に人事データ活用はここ数年取り組んできたテーマ(↓昨年末のnote)なので、この「経営戦略と人事戦略の連動」を科学することで、より上位概念からデータが活用される環境をつくっていきたいと考えています


いかがだったでしょうか
2023年3月期決算から義務化される有価証券報告書への「人的資本の開示」に向けて検討・準備を進められている人事・コーポレート・経営の方も多いのではないかと思います

開示内容は各社段階的に進めていくことになると思いますが、開示を目的とするのではなく、本質的な取り組みとしての「経営戦略と連動した人事戦略の策定」「経営戦略をドライブさせる人的資本の有効な活用」が増えていってほしいと思います

2022年は一旦ここまでですが、2023年も研究→本業でのアウトプット→研究…は続けていきたいと思いますので、少しでも参考になったよという部分があればシェアやコメントをいただけるととても嬉しいです!


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