いわし園芸

【いわし園芸】赤い靴

noteブログシティのかたすみにある、note商店街。このたびこちらに園芸ショップを開店しました。当店では季節の草花を取り揃え、お客様にご提供していきたく存じます。

あと、私、大のおしゃべり好きでして、お店に立ち寄って頂いた際には、少しお話にお付き合い頂ければとても嬉しいです。そういえば、さっき、背の高い女の子が、こんな話をしていったんです…って、すみません。花を見に来てくださったんですもんね。私としてもしゃべってばっかりじゃ店がつぶれちゃいます。

その女の子、街を歩いていたら、スカウトされたんですって。有名なモデルも所属している芸能事務所らしくて、「すごいね」って言ったら、慌ててかぶりを振るんです…

その人に、ぜひオーディションを受けに来てくれ、と言われました。返事を渋っていると、彼は「お近づきのしるしに」と、肩に下げたボストンバッグから、箱を取り出しました。「このブランド、知ってる?」「はい。すごく高いやつ」「さっき立ち会った雑誌の撮影現場で、新商品のサンプルをくれたんだ。似合うと思うから、あげるよ」 彼はゆっくりと箱を開きました。促されるままに中を覗くと、小さなリボンのついた赤い靴が見えました。

家に帰り、ベッドに腰かけて靴を取り出しました。親には黙っていました。まだ誰とも触れ合ったことのない新鮮な革の匂い。こんな素敵な靴を、今までの人生で貰ったことがありません。そっと足を差し入れると、高揚感と、こんなものを貰ってほんとうによかったのか、という気持ちが同時に訪れました。わたしは気持ちを整理するために目をつむりました。

しばらくすると、なぜか急に、誰かに見られているような気配を感じたんです。不審に思って目をひらくと、そこはもう自分の部屋じゃなかった。わたしは薄暗いステージの上に立っていました。そして、周りには、息を潜めて様子をうかがう大勢の人たちがいた。

ステージには、わたしのほかに3人の女の子がいて、そのうちのひとりがわたしに小声でささやきました。「大丈夫だよ。皆でずっと頑張ってきたんだから、今夜もきっと上手くいくよ。初めての単独ライブ、絶対に成功させよう」 彼女はわたしのことを知っている。でもわたしは彼女が誰なのか分からない。戸惑っているうちに、頭上に備えられたライトが一斉にステージに照射されました。待ちかねた、とばかりに先ほどわたしに話しかけた女の子が観客にむかって叫びました。「今日は、わたしたちの初めての単独ライブに来てくれてありがとう。まずはデビュー曲を歌います!」

音楽が流れ、それまで深海の魚のように沈黙を守っていたお客さんたちが、いっせいに歓声をあげる。色とりどりの、無数のケミカルライトが振りかざされる。場内はたちどころに熱を帯び、その中心、煌々と照らされたステージの上で、わたしは踊っていました。身体が勝手に動いて、軽やかにダンスを披露しているのです。あの赤い靴を履いて。靴がわたしをすっかり操っているんだ、呪いの靴だと、気づきました。

「助けて!」と客席にむかって手を伸ばしても、みんな、熱狂を帯びた視線をこちらに返すだけ。そのとき、先ほどの女の子が近づいてきたんです。悲しそうに笑っていました。「ここに立ってるのが、恐くなったんだね。あなた、やっぱりわたしたちとは違ったね」 スポットライトに浮かぶその顔を見て、驚きました。彼女はわたしと瓜ふたつだった。そして、つぎの瞬間、思いきり突きとばされたんです。わたしはステージから転がり落ちました。

「あなたがいなくなっても大丈夫。わたしたちは、あなたの代わりだよ。赤い靴を履いて、死ぬまで踊りつづけるんだよ」

彼女は真夜中に自分の部屋で目覚めました。びっしょりと汗をかき、心臓が破れそうなほど高鳴っていたそうです。靴はどこにも見当らなかった、とのこと。あ、話、長かったですか? お引き止めしてすいませんね。なにぶん好きなもんで。お客さんも何か面白いことがあったら是非教えて下さいね、はい、では。


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