マガジンのカバー画像

再読(小説用)

11
長期休暇、3連休など読書に対し、まとまった時間が確保できた時限定で読み直したい作品集。
運営しているクリエイター

記事一覧

SFショートショート『未来研究室Ⅱじんわり編』&『未来研究室Ⅲ完結編』

SFショートショート『未来研究室Ⅱじんわり編』 私が四十歳を過ぎた頃、妻を不治の病でなくし、それから十一年もたっていた。長男は東京の設計事務所に勤め、長女は結婚して今は福岡に住んでいる。独り暮らしは気楽でもあるが、心寂しい夜もある。そんなある日の祭日に、写真展が催されるというので市民文化会館にやってきたのだ。 新潟の美しい自然の写真を鑑賞したあと、帰りがけに『未来研究室』と看板がつけられているのをみつけた。好奇心旺盛な私は、そっとドアをあけた。 「ようこそ。どうぞお入り

SFショートショート『蛍』

「浜中教授、蛍の養殖なんかで利益を生みだすことなどできませんよ」 バイオ科学工場の研究室で、助教授の玉岡が、五十をこえた浜中教授に反対意見を述べていた。 三十をすぎたばかりの玉岡は、若いわりに現実的な研究をおもにおこなっていた。浜中は最近蛍の研究にこり、是非とも養殖をして、日本中に蛍の光をと考えていたが、まだ資料を収集している段階だった。 浜中は、研究をはじめるとつねに自分の片腕だと信頼している玉岡の意見を聞いた。 「玉岡君。養殖といえば、鰻などの食用ばかりだと思われ

エンタメSF・SS『未来研究室』

   最近は婚活というものが流行っているらしい。ぼくはといえば、さすがに四十歳を越えるとそんな気持ちも色あせていた。 かといって、ひとり暮らしをしているせいか、ときどきは人恋しくもなった。そんなある日、ぼくの好きな絵画の美術展が開かれるというので、駅前にある文化会館にやってきたのだ。なんとなく生理現象がもよおしてきたのでトイレにいこうとすると、『未来研究室』と看板がつけられているのをみつけた。好奇心旺盛なぼくは、そっとドアをあけた。 「ようこそ。どうぞなかにお入りください

【漫画原作】イケメン俳優の弟に成り代わりってアリですか?【第一話】創作大賞中間審査ありがとうございました!

あらすじ 【イケメン俳優ばかりの2.5次元舞台に、人生迷子の姉が弟の代わりに出演!?】 バレエ一筋で生きてきたけれど、19歳で足に怪我をしてプロへの道を諦めたアキ。バレエという家族にも負担が大きいものに挑戦したのに家族に何も返せず、その上レールから放り出されたら出来ることもしたい事もうまく見つけられない自分に絶望していた。 そんな中、アキの弟・ヨウがスカウトされて舞台に出る事になったが、彼は稽古直前で事故にあい出演は難しくなってしまう。男女の姉弟ながらよく似ていた二人。弟

こちら後宮、華の薬湯屋【第一話】

あらすじ(ラストまで) 補足:みどころ(キュン・エモさ) ① 主人公・海里は中性的な美人なのですが、男性に免疫がないため男湯を見るのが恥ずかしく、「顔に醜い傷があるから」と嘘をついて麻袋を被って湯屋の仕事をしています。 アクシデントが起こって、麻袋が脱げた海里の顔に顔を赤くしてしまう男性陣のシーンはとてもエモいと思います……! ② また、海里は宦官というテイで働いています。それゆえ海里にドキドキしている男性陣は、「自分はそういう性癖(BL)だったのか……?」

「私の死体を探してください。」   第1話 (13話まで試し読み公開中)9/3(火)ドラマ放送スタート!!!

────森林麻美のオフィシャルブログ             脳内ストリップ──────  こんなことは信じられないと言われてしまうかもしれませんが、私にとってこの世における最大の謎は、ギザの大ピラミッドやバビロンの空中庭園のように人々が口々に「謎だ」と言うようなものではありません。  私にとっての最大の謎は人の「感情」なのです。いつも、捕らえることのできるはずのない、空気をつかむような心地で人の感情を想像します。それは他者のものだけではありません。私はときおり自分自身の

ぜい肉くん

 まず驚いたのが、我が家のドアチャイムが鳴ったということだ。思わずぜい肉だらけの体を揺すって扉の方を見てしまった。  そのときわたしは廉価なメーカーのカップ焼きそばを啜っているところで、部屋着のグレーの上下スウェット姿の上、仕事終わりなので当然ノーメイクだった。一見すると仏像が鎮座して焼きそばを食べているように見えなくもない、と我ながら笑ったこともある。  誰だ、と一呼吸置いて考えて、もう一度焼きそばを啜った。  某放送局の集金、は撃退しきれず、先日支払う契約をさせられてしま

アクマのハルカ 第1話 人の大切なものを奪うのは簡単よ

【あらすじ】300文字 教祖になりたいハルカは、クラスメイトが麻莉亜先生に向ける敬愛や思いやりを自分のものにしたい。そこで麻莉亜が生徒をどう思ってるか、虚偽の出来事を告げ口し、生徒の心を麻莉亜から引き離していく。 麻莉亜が気付きた時には、生徒達の気持ちは身体ごとハルカに取り込まれてしまい、教室には麻莉亜とハルカの2人だけだった。そこで麻莉亜は取り込まれた生徒達を解放するため、自分の思いを伝えていく。 協調性が求められる集団の中で、自分の意志で真偽の判断をすることが許されるのか

連載小説:トミー・ジョン#1

 損傷した肘の靭帯を切除し、他の部位から摘出した正常な腱を移植して患部の修復をはかる。  おもにプロ野球の投手が受ける手術で、いまは日本でもそれほど珍しい治療法ではない。医学的に見てもとくべつ難度の高い術式ではなく、日本で受ければ保険が適用される。そのため費用は高額にはならないが、対象がプロスポーツ選手であるがゆえに、より高度な医療体制は求められる。  側副靭帯再建術。  その術式を用いた外科的手術を、通称トミー・ジョン手術という。  術式が開発されたのは1974年で、考案し

ネゴシエーター〜学内トラブル交渉人 第1話 犯罪者にされた少年

【あらすじ】300文字 警視庁所属のネゴシエーターだった輝咲勇作は、立て籠もり事件という凶悪犯罪の犯人にさせられた少年の手から銃を手離させた。この仕事を最後に、事件を未然に防ぐ為の交渉人という新たな道を拓き歩み始める。犯罪がないから、複雑多様な出来事のどこに焦点をあて誰に交渉すべきか分からない。それでも諦めず一人一人の人生を切り拓いていく。別れても愛して欲しい元彼氏から離れ少女が夢に邁進できるように。理不尽な要求を突き付ける義務教育から少年を開放し伸び伸びと才能を発揮できるよ