Q四企画

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このアカウントでは、プロ野球界を書いた土尾GMシリーズを連載しています。こちらで架空の日記、体験記を投稿しています➡️https://note.com/koujijyokakuu

最近の記事

急病のため、次回の投稿は十月になる予定です      Q四企画

    • 連載小説 魔女の囁き:7

       岩瀬が帰国して二週間後に、河合の一軍復帰戦があった。  ビジターのナイトゲームで、私は生中継のネット配信の映像をGM室の大型モニターに映して観戦していた。遠征六連戦の初戦で、スケジュールの都合上、私は今回の遠征には帯同していなかった。河合の復帰戦はホームゲームで、という話も幹部ミーティングではでたのだが、今回はあえて遠征先で一軍に復帰させることにした。理由は明確にあった。その遠征先が、河合の産まれ育った地元だからだった。  私が河合を視察にいった翌週、岩瀬自身が二軍の試合で

      • 連載小説 魔女の囁き:6

         岩瀬が米国へ発った一週間後だった。各部署からあがってきた報告書のなかに、二軍の監督と打撃コーチからのものがあった。ふたりの報告書の内容は、どちらも自身の打撃をがたがたに崩されて二軍で調整中の河合のことだった。状態がすこぶるいいというのだ。岩瀬が考えた復帰メニューを毎日忠実にこなしているという。まだ二軍で調整をはじめてから一ヶ月も経っていない。岩瀬の見解では、一軍にもどるまで早くても二、三ヶ月かかるだろうと予想していた。  翌日私は二軍のホーム球場に足を運んだ。直接自分の目で

        • 連載小説 魔女の囁き:5

           一週間後の試合を迎えた。ホームのナイトゲームで、私が球場入りしてほどなく試合前のスターティングメンバーの発表がおこなわれた。対戦相手の先発投手の名前は聞くまでもなかった。ローテーションの変更はなく、事前の調査で予測していた通り、今回岩瀬が攻略法を考えた例の投手がマウンドにあがる。  私はこの試合を岩瀬と柴田と三人で球場で観戦することにしていた。観客席の最上階にある関係者専用の特別観覧室で、前面はすべてガラス張りで座ったまま球場全体を見降ろすことができる。横の壁には大型のモニ

        急病のため、次回の投稿は十月になる予定です      Q四企画

          連載小説 魔女の囁き:4

           河合をがたがたにした最初の投手を丸裸にした、と岩瀬から報告が入った。あらゆる角度から徹底的に分析して、攻略法を見つけた、ということだ。河合を二軍に落として十日が経っていた。   河合がまったく打てなくなったのは、すべてこの投手が執拗に欠点を攻める投球をしたのがはじまりだった。そこから河合の打撃は崩れていったのだ。  この投手はもともとプロのなかでも一線級で、河合にかぎらず、うちのチーム自体あまり相性がよくなかった。ただ今回の河合に対する投球でいえば、優秀なのはそのチームにい

          連載小説 魔女の囁き:4

          連載小説 魔女の囁き:3

           結果は意外に早くでた。岩瀬の忠告を蹴って一ヶ月も経たないうちに、河合の打撃は絶不調に陥った。  対戦相手の投手たちも、ただ河合に打たれていたわけではなかった。ある球団に優秀なスコアラーがいた。その球団との三連戦で、河合は相手投手に岩瀬から指摘された欠点をとことん突かれた。見ていて明らかに、欠点を見抜かれた上での投球であり、配球だった。  その三連戦で、河合はまったく打てなかった。それだけであればまだよかった。ほかのチームも河合の欠点に気づき、以降対戦する全球団の投手に、徹底

          連載小説 魔女の囁き:3

          連載小説 魔女の囁き:2

           二日後、関係者全員がGM室に集まった。先日岩瀬からあがってきた報告書を受けての対応だった。対象の選手の河合には監督と打撃コーチが同行していた。監督とコーチはユニフォームを着ていて、河合は練習着姿だった。こちらは岩瀬と私のふたりで、計五人でのミーティングになる。  監督と打撃コーチは、若干表情が硬かった。当事者の河合は涼しい顔でGM室に入ってきた。いまここにいる五人のなかで、河合がいちばんリラックスしているように見えた。 「で、なんなんですか、きょうは。おれもGM賞でももらえ

          連載小説 魔女の囁き:2

          連載小説 魔女の囁き:1

           思わず、おっ、といいたくなるような内容の報告書だった。そういった報告書が今月に入ってからいくつかあった。すべて、同じひとりの幹部からあがってきたものだった。  今回私が着目した報告書には、ある自軍の選手の分析が詳細にまとめられていた。今季レギュラーポジションをとった、いま絶好調の二十二歳の野手だ。シーズンがはじまってここまで打ちまくっている。報告書には好調を裏づけるさまざまな指標の数字が並んでいた。その数字に対する個人的な見解のコメントもあった。そこまではふつうの報告書だっ

          連載小説 魔女の囁き:1

          連載小説 魔女の囁き:プロローグ

           昔のことをすこし想いだした。  私がある球団でスカウト部長をしていたころのことだ。  ある日、当時所属していた球団の代表がめんどうを見てやってくれとひとりの球団職員を連れてきた。現場の広報担当として入ってきた新人だったが、気が強くて周りと揉めごとばかり起こして配置転換されてきたのだ。  当時彼女はまだ二十代の前半で、日本のアマチュアの女子野球を早期に引退して、プロ野球の裏方の世界に入ってきた。彼女の口癖は、いつかプロ野球球団のオーナーになる、だった。  彼女は十代の

          連載小説 魔女の囁き:プロローグ

          連載小説 hGH:12 終

           マジック一で迎えたホームのナイトゲームの当日、私は選手たちよりも早い午前中に球場入りした。きのうの夜にテキストメッセージを送った柴田はすでに一塁側のダグアウトで待っていた。グラウンドに選手やコーチやスタッフたちの姿はまだない。グラウンド整備の職員が数名いるだけで、球場はがらんとしていつもより広く感じられた。  「どうしたんですか、GM。こんな早い時間から話があるとは。しかもきょうこれから優勝が決まるかもしれない球場で」  私が歩みよると、柴田はいった。 「キャッチボールの相

          連載小説 hGH:12 終

          連載小説 hGH:11

           ペナントレースの優勝マジックが一になった。  私はきょうの自軍の試合をGM室の大型モニタで観戦していた。ビジターのナイトゲームで見事な逆転勝利をおさめた試合だった。今回の遠征は、スケジュールの都合上チームに帯同せず、地元に残って球団業務をこなしていた。遠征中のすべての試合に勝っても優勝は決まらない状況だったこともあり、むりにスケジュールを調整する必要はなかったのだ。  逆転勝利とはいえ、きょうの試合も勝つべくして勝ったという内容で、チームは変わらず好調を維持している。マジッ

          連載小説 hGH:11

          連載小説 hGH:10

           ベンソンのほんとうの帰国理由がわかった。  委託企業に調査を依頼して二週間ほどで報告が入った。調査員が直接球団事務所にやってきた。書面と口頭の両方で詳細に報告を受けた。  私はその調査結果にすくなからずショックを受けた。予想していたものと内容がかなりちがっていたからだ。帰国と退団の原因はベンソンにはまったくなかった。すべて、ベンソンの妻にあったのだ。  ベンソン夫妻はもともと日本の文化にリスペクトを持っていた。だが、妻のほうにはリスペクト以上のものがあった。とくに、日本人の

          連載小説 hGH:10

          連載小説 hGH:9

           ベンソンの帰国理由がわかった。  ベンソンの代理人から連絡が入ったのは翌日で、ベンソンの完全帰国と正式な退団の意向を聞かされた。球団としては本人と話したかったが、法を駆使した文言を盾に、直接ベンソンと連絡をとることを禁じられ、本件を深く追求することも禁じられた。年俸は、日割り計算で早急に振込むよう指示してきた。随所に米国の法をちらつかせての要求だった。どちらが被害を被っているのかわからない、ずいぶん一方的ないい分だと私は思った。  自国から遠く離れた、言葉も文化もまったくち

          連載小説 hGH:9

          連載小説 hGH:8

           ペナントレースの公式戦がはじまった。  チームは開幕から好調なスタートを切り、同一カード三連戦を二勝一敗のペースで順調に勝ち星を重ねていた。どの試合も投打の歯車がしっかりとかみ合った理想的な戦い方をしていて、敗けた試合でも内容は悪くなかった。現在ペナントレースで首位を独走している。戦力的にもうちが頭ひとつ抜けた状態で、とくに攻守のバランスに秀でたチーム編成になっていると私は自軍の現状を分析していた。ここ数年見てきたなかでも、いまがいちばんいいチーム状態かもしれない。  今季

          連載小説 hGH:8

          連載小説 hGH:7

           六億でも落とせなかった。  足もとを見られた。選手本人にではなかった。代理人と代理人の会社にだった。    結局、出来高をふくめて七億円で契約が成立した。むこうのいい値が通った形になる。うちの球団のなかではダントツで最高年俸だった。ほかの選手のことを考えると、契約は『裏』にせざるを得なかった。  代理人は一時期日本に住んでいたこともあるという米国人だった。うちの戦力を詳細に分析していた。うちがベンソンを必要としている事実をはっきりと認識されていた、ということだ。むこうはまっ

          連載小説 hGH:7

          連載小説 hGH:6

           柴田がGM室に進捗状況の報告にきた。先日獲得することで決めたふたりの選手との交渉の経緯についてだ。 「富樫のほうはもうほとんど決定です。関係者全員が合意しています。あとは、正式な書類のやりとりだけです」  富樫は、柴田がどうしてもとっておきたいといった三十六歳の野手だった。富樫の所属球団との話し合いで、一対一のトレードが成立する。こちらからだすのは、うちではあまり戦力として考えていなかった選手で、それを踏まえると、とくに悪いトレードではないと私は思った。年俸は若干富樫のほう

          連載小説 hGH:6