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至福の時間

喫茶店で結構な時間を話し込んだのは、止まないぼくの質問と好奇心が理由だった。
もちろんそれだけでなく、過去に三國さんが出演されたドキュメンタリー番組などの話題になったのは、やはりぼくが拝見したことを伝えたい衝動に駆られたためである。

「一番最初のドキュメンタリーでは、こう言われてました」

「ニューヨークのフェアでは、こんな料理を作られていましたよね」

「スイスのホテルでフェアをされたときには・・・」

「横浜のホテルでプロデュースをされたときの番組では・・・」

「行きつけのお鮨屋さんでは、年間366回食べてるなんて話されていて・・・」

この調子で話していると三國さんは、「そうだっけ。そんな昔のことをよく覚えているね」と驚いた表情をされた。

「はい。当時、三國さんが出演された番組は多分、全部観ていると思います。番組表に三國さんの名前を見つけたら必ず録画して観てましたから」

これを書いてて思ったけれど、いま振り返ると我ながらちょっとコワイ。話しているときは夢中だったけれど、ぼくが三國さんの立場だったらきっと引く気がする。
それでも、取り立てて人に自慢できるようなことのないぼくが何であれ、三國さんを驚かせることができたのは嬉しかった。もしかしたら呆れられていたのかもしれないけれど。

もう一つ、驚かれたことがある。
そろそろお店に戻ろうというとき、ふと訊かれた。

「パンって、どれくらい売っているの?」

これくらいです。と答えると「パンって、そんなに売れるものなの!?」と、かなり驚かれた。
今度はその表情に呆れた印象がなかったので率直に驚かれたのだと思うと、やはり嬉しかった。決して売上の数字そのものをドヤりたいといった気持ちだったのではない。以前からぼくには、常に次のような考えがあった。

売上が多い=お客様の人数が多い
=それだけ多くの方からご支持をいただいているということ。

それもパンという比較的単価の低いものであることは三國さんも重々承知なわけで、ちょっと誇らしい気持ちにもなった。

このごく普通の喫茶店での時間は、どんな高級店や豪華なお店へ行くよりもぼくにとっては至福のひとときであり、かけがえのないものだった。
大切なのは「何を」よりも「誰と」というのは、本当にその通りだなぁと思う。

お店へ戻り、しばらくするとイベントがはじまった。
店内は三國さん人気で満席。コラボというより、もはや一兵卒のようなぼくは、もちろん盛り付けなど助手としての仕事に勤しんだ。大変だったのは書くまでもないけれど、それでもとにかく楽しくて仕方がなかった。
デザートまで出し終えたぼくらはお客様1組ずつにお礼とご挨拶へ回り、こうしてイベントは大盛況のうちに終了した。

今回でこの話を完結しようとしたけれど、この後のことを書こうとしたらまた話が逸れて長くなりそうなので、今日はこの辺りで。

つづく

きのこを強火で焼かれる三國さん


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