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暴走だったのか、そんな気はする(仮)

いきなり余談になちゃうけれど。

前回の文末に ”円キャリー・トレードの正体” と思うことを述べたけれど、そこでふと思ったことがある。
若い人はリアルタイムで実感はないだろうけれど、誰もが知っているであろうリーマン・ショック。
これは米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことがきっかけとなり、世界的な金融危機に波及した出来事。というのは多くの人が認識している通り。そして、そのリーマン・ショックが起こる引き金となったのが、サブプライムローン問題だったことも多くの人が知るところだと思う。

このサブプライムローン問題を超平たくいえば文字通り、債務(住宅ローン)の返済能力や信用がないような人にまで「マイホームが持てますよ」と、やってしまったのが原因だった。
それにしても、彼らは90年代初頭に起きた日本の土地バブル崩壊から何も学ばなかったのね。

それはさておき。

サブプライムローン問題、リーマン・ショックが起きたことがきっかけで、当時も今回のような円キャリーの巻き戻しが起こり急速な円高になったとされている。
けれど、そもそもこの米国バブルの一端を担い、それを助長させたのが低金利による円キャリーの資金だったのではないか。そうだとすると間接的ではあるけれど、あの世界的な金融危機を招いた最初のきっかけも、日本の低金利政策だったのではないか、という憶測。

で、ここからが本題。

この駄文をずっと読んでくださっている人で少し勘の良い人なら、 ”おや?” と思われたかもしれない。

サブプライムローン問題、リーマン・ショックが起こったのは2007年〜2008年。
黒田・前日銀総裁が総裁に就任されたのが2013年3月。

そう、今日はちょっとだけ黒田・前日銀総裁の擁護をしてみたい。ちょっとだけ。

これまで日銀が買い入れをしてきたのは、国債だけではない。
日経平均などに連動したETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)などといった金融資産も市場から買い入れてきている。
そしてこれを始めたのも、ゼロ金利(正確にはゼロではないけれど)を導入したのも黒田・前総裁ではない。
こうした前例のない政策を施したのは黒田・前総裁の印象が強いけれど、ゼロ金利は黒田・前総裁から3代前の速水・元総裁が1999年に、またETFの購入は黒田・前総裁の前の総裁である白川・元総裁が2010年から始められたものになる。
無論どの総裁も不況、デフレをなんとかしようと思われてのことだった(そうであってほしい)。

白川・元総裁時代、日銀には ”長期国債残高を保有できるのは、日銀券発行高の範囲内とする” という「日銀券ルール」があったらしい。もちろんこれは、財政ファイナンスを懸念してのもの。
それでも不況をどうにかしなければ、と考えられた白川・元総裁は、国債やETFを買い入れるために日銀券ルール適用除外の基金を創設される。
苦肉の策ではあったけれど、それでも理論派で慎重な白川・元総裁は「ゼロ金利下でいくら量的緩和をしても実体経済への効果はほぼなく、それより過剰な金融緩和はバブルを招く恐れがある」と危惧されていたことから、ETF購入額の上限を4500億円とされた。
こうして不況、デフレから脱却するために白川・元総裁は、出来ることの中で慎重に追加緩和を進められた。

ところが白川・元総裁が就任された時期というのは、リーマンショックや東日本大震災、欧州危機などが立て続けに起き、急速に円高が進行するという最悪のタイミングだった。そのためその慎重さを ”デフレ克服に後ろ向き” と捉えた世論の厳しい批判を受けることになる。

今振り返れば、その先見の明、慧眼に敬服するばかりなのにね。

こうして世の中の閉塞感、空気を読んだ安倍元首相、黒田・前総裁コンビがリフレを掲げ登場し、アベノミクスを開始する。

”黒田バズーカ” とまで呼ばれた2013年の異次元金融緩和開始によって日銀券ルールは撤廃され、2%の物価目標に向けたETFの購入は年間1兆円に拡大された。
ところが思うように物価上昇が起きなかったことから、その後も日銀による購入は2014年に年間3兆円、さらに2016年には年間6兆円に引き上げられる。
そして2020年のコロナショックの時には、買入れ目標を年間12兆円にまで引き上げたけれど、結果的にこの年は 7.1兆円に留まった。それでも過去最大額に達している。

かつて白川・元総裁時代、日銀には ”1%ルール” なるものがあった。 
株式市場が前場(午前の取引時間)に1%を超える株安だったときには日銀が買い支えるというものだけれど、黒田・前総裁の異次元緩和が始まって以降、このルールもないに等しく、購入額が増えることになった。

こうして振り返ると、安倍元首相と黒田・前総裁による暴走だったように映る。

あれ、黒田・前総裁の擁護にならなかったなぁ。

しかし、これがぼくの思う結論、というわけでもないんだなぁ(われながら意味深だ)。

つづく

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