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恋の駆け引き【ショートショート】1000文字

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
あい昂司こうじはトラットリアのカウンター席に案内された。
仕事終わり、22時を過ぎるとコース料理のメニュー表は下げられ、二人が入店したこの店はBAR仕様になる。
細長いメニュー表には革のカバーがかけられている。
開くと薄暗い照明に映えるようなアイボリーに濃いブラウンの明朝体で、両面を覆いつくすほどのドリンク名が書かれている。
ミックスナッツと数種のチーズ、キスチョコが添えられた銀色の平たい皿が、二人の前に差し出された。
「あたしはシャンディガフ。ジンジャエール多めでお願いできますか?」
「僕はハイネケンをグラスで」

ハイネケンにしたんだ。あどけない顔して。国産メーカーもあるのに。
じゃあ、あたしはプレモルでもよかったじゃん。
可愛く思われるかなって、ジンジャエール多めなんて言わなきゃよかった。
ただでさえ邪道なのに。
ビール飲みたい!

うわぁー、こなれてるなぁ。多めでって注文できるなんて。
ハイネケン飲めるかなぁ・・・確実に雰囲気に流されてしまったぁ。
モスコミュールって言ったら年下扱い確実だろうし。
あー、でもこの後どうしよぉ。ジャックダニエルとか?

二人の前にグラスが置かれた。
「お疲れ様」
愛は、昂司のグラスにそっと口づけするよう、自分のグラスを合わせた。
「お疲れ様です」
昂司は、愛が長いまつ毛を伏せながら黄金色の液体を取り込んでいく姿を見つめ、ゴクリとひとくち目を飲み込んだ。
「何か頼みましょうか?」
昂司は、横に置いておいた革のメニュー表を再度開いて、愛に見せた。
トラットリアの単品メニューが書かれている。

隣が食べてるのはサーロインステーキ?美味しそう!!
一切れが小さめにカットされてて食べやすそうだし、ソースの香りもいい!ガーリックと黒コショウかな。
焼き加減は・・・ミディアムレア?いいじゃん!
でも、やっぱりここはサラダから選ぶべき?
フレッシュバジルとフルティカトマトのカプレーゼ・・・無難だよね。

フルティカトマトのカプレーゼって!美味しそう!!
あ、隣が食べてるやつかも。甘くて食べやすいんだよなぁ。
モッツアレラは厚めにカットしてあるし、バジルソースの緑も鮮やかで綺麗だなぁ!
あー、でもハイネケンで始めたから肉料理から選んだ方がいいのかなぁ。
リブロース、ヒレ、ランプ、イチボ・・・ってなんだ?
無難にサーロインにしとくかぁ。

愛と昂司の後ろから、さりげなく声がかけられた。
「ご注文はいかがなさいますか?」

ひっそり参加させていただきます。
ショートショートを意識して(?)書いてみました。

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