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僕はテレワークに向かない ~偶然性の欠如により李徴は虎になる~

 コロナ禍により、当社でも多分にもれずテレワークが実施されている。今はもはや週1出勤である。もともとテレワークを推奨している会社だったので、これまでも何度かやったことがあり、抵抗は少なかった。しかし、連日となると色々感じるところがあったので、手垢がついたテーマではあるが書き記したい。

テレワークの利点

 とにかく、作業は捗る。あまり話しかけられないので、黙々と手を動かすため、進捗は非常に良い。通勤がないのも楽だ。ただ、次の観点から、自分はテレワークに向かないなと思う。

テレワークの欠点

 これはタイトルどおり、とにかく「偶然性の欠如」の一言に限る。私は、外見は理性的・論理的に見えるらしいが、自分としては、非常に感情的で直感的な人間だと思っている(これについてはまた後日noteを書きたい)。その性格の発露の仕方として、セレンディピティを非常に重視した仕事のスタイルとなっていった。Wikipediaでは、セレンディピティを次のように定義している。

素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

 これについては、意図してどうにかできるわけではないが、私は大切にしている。例えば、雑談をしているうちに、新たな企画のアイディアを思いつくことがあるし、たまたまトイレで一緒になった幹部に仕事の相談をすると良いアドバイスがもらえたり、ということがある。これらはすべて「偶然」が引き起こすものである。

 しかし、テレワークは、このような偶然は起きない。テレワークでのコミュニケーションは、チャットやメール、音声・映像通信がメインとなる。これは、私のような人間からすると、非常に使い勝手が悪い。それは、慣れやリテラシーの問題ではなく(むしろ得意分野)、構造的な問題であると私は考える。なぜなら、これらは、「いつ・誰と・どのようなコミュニケーションをとるか」を作為的に選択しなければ、決してコミュニケーションが生まれないという代物だからである。

 その結果、テレワークでのコミュニケーションは、次の2種類のコミュニケーションしか生まれない。つまり、①現在の仕事に関する事務的な報連相と②“お友達”との雑談である。

 ①は当然必要とされるものであり、これのみに着目すると、リテラシーさえあれば、あまり日頃の業務と差が出ない。一手間加わることにはなるが…。②はどうであろうか。これは、一見すると、その雑談からひらめきや発見をすることも可能だと思うかもしれない。

 しかし、私は②について、楽しいし、精神衛生上必要ではあるが、仕事上はあまり意義がない、むしろそれをメインにするのは有害だと考えている。“お友達”はどうしても一緒にいて心地よい人に限られてしまう。そうなってしまうと、考え方が狭まってしまうのだ。また、チャットでの雑談は閉鎖的であるため、せっかく面白い話をしていても別の人が参加できないのである。そのような環境ではセレンディピティは期待できない。

 以前noteで有名になった、おかき大明神氏の「いつか怪物になるわたしへ」が指摘していたことだが、「年を老い、自分の興味の幅を狭めてしまうと、性格が先鋭化し、怪物になってしまう」のである(山月記の李徴のように)。また、アニメ「攻殻機動隊」においても、似た思想が語られる。主人公が属する警察のサイボーグ部隊「公安9課」に配属された唯一生身の人間であるトグサが、「なぜ自分がここに配属されたのか」と主人公の草薙素子に問う。すると素子は、

戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死。

 と答える(セリフ回しが無駄にかっこいい)。

 山月記にせよ、攻殻機動隊にせよ、個人や組織が健全であるためには「心地悪いもの・異質なもの」を取り入れることが大切であると説いている。居心地のいい者だけで固まることは、長期的に見ると自分にも組織にも毒となるのだ。学校だったら口も聞かないであろう人、尊敬できない人、高圧的な上司、面倒くさい先輩、やる気のない後輩、そのような職場での悩みのタネになりがちな人とのコミュニケーションが、案外自分の視野を広げてくれていたのだと、この数週間で気づくことができた。

 また、先日久しぶりに出勤したところ、たまたま幹部や知見のあるOBも出勤していたため、思い切って今担当している企画の案をみていただいた。すると、非常に身になるアドバイスをいただくことができた。これは、チャットやメールでは絶対にできないなと痛感した。

今後はどうなるのか

 おそらく、こういう考えはもう古いのだろう。近い将来的、このテレワークがスタンダードになっているかもしれない。また、近頃流行りの「フリーアドレス」でも似た問題があると思っている。そうなったとき、私のような人間は今までと同じような成果を出せるのだろうかと不安になる。

 解決策としては、セレンディピティを、プライベートな所属組織に見出したりすることも考えられる。機密保持の観点などから、職場ほどではないだろうが、似た効果は得られるかもしれない。既にテレワークが主流な会社では、この問題をどう乗り越えているのだろうか。
 
(以上)

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