ファーストステップ司法書士52「相続は絶対にしなきゃいけないの?【相続の承認・放棄】」
Aは父Bの子ですが,ある日突然Bが事故で亡くなってしまいました。そこでAがBの身辺整理をしていたところ,100万円のお金が見つかりましたが,その後,500万円の借金があることが分かりました。Aはこれら全てを相続しなければならないのでしょうか?
☑ 参考条文 ☑
【915条】
①相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。…
【920条】
相続人は,単純承認をしたときは,無限に被相続人の権利義務を承継する。
【921条】
次に掲げる場合には,相続人は,単純承認をしたものとみなす。
[ニ]相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
【922条】
相続人は,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をすることができる。
【939条】
相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。
【1】意義
相続の開始によって,当然に相続の効果が相続人に帰属しますが,相続人はこれを,①無条件に承認するか〔単純承認〕(920条),②相続によって得た積極財産を限度として被相続人の債務等を弁済するという条件付きで承認するか〔限定承認〕(922条),相続による効果の帰属を全面的に拒絶するか〔相続放棄〕(939条),この3つのどれかを選択できます(※1)。これらの相続の承認・放棄は,相続人が,自己のために「相続の開始があったことを知った時」から3か月以内になされなければなりません(915条)。これを熟慮期間といいます。なお,この熟慮期間内にこれらの相続に関する意思決定を行わなかった場合,単純承認したものとみなされます(921条2号)。これを法定単純承認といいます。
※1 上記の事例だと,それぞれ次のような結果になります。
【単純承認】
預金・借金を無条件にどちらも相続します。
【限定承認】
積極財産である預金の100万円を限度に債務である借金を返済すればよいということになります。Aは自分の財産からお金を返済する必要はありません。
【相続放棄】
初めから相続人とならなかったものとみなされ,一切の財産を相続しないので,預金も借金も相続しません。よって,何の財産も取得しません。
【2】趣旨
単純承認は,全面的に被相続人の財産を相続する形式であり,借金などのマイナス財産が少なく,預金などのプラス財産が多い場合などに使います。限定承認は債務の過大な相続から相続人の利益を保護する制度であり,プラス財産とマイナス財産のどちらが多いのか分からないときなどに使います。相続放棄は,被相続人のマイナス財産から相続人を保護するための制度であり,被相続人の財産が明らかに債務超過である場合などに使います。
【3】解答
被相続人であるBの財産が明らかに債務超過であることから,AはBが亡くなって,自分が相続人になることを知ってから3か月以内に,相続放棄をすることが考えられます(915条,939条)。
★やってみよう!★
【過去問 平成13年第21問ア】
☑ 相続人が自己のために相続の開始があったことを知らない場合でも,相続の開始の時から3か月が経過したときは,単純承認したものとみなされる。
➠× 法定単純承認は,相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に承認・放棄を行なわなかった場合に効果が発生します。
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