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ファーストステップ司法書士11「冗談で言ったことって無効なの?【心裡留保】」

Aはその気がないのに,友人Bに冗談で「僕の車を10万円で売るよ。」と言い,売買契約を交わしました。後日,Bは10万円を持ってきて「車を渡してよ。」と言ってきました。Aは冗談で車を売ると言ったのだからこの契約は無効でしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【93条】
 ①意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても,そのためにその効力を妨げられない。ただし,相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り,又は知ることができたときは,その意思表示は,無効とする。

☑ 用語解説 ☑
『 表示行為 』・・・例えば,果物屋でりんご1個を買う場合に「りんご1個,買います」と言うこと。
『 内心的効果意思 』・・・例えば,果物屋でりんご1個を買う場合に「りんご1個,買おう」と思うこと。
『 善意』・・・ある事実を知らないこと。「良いことをする意図」という意味ではありません。
『 悪意』・・・ある事実を知っていること。「悪いことをする意図」という意味ではありません。
『 有過失 』・・・不注意,落ち度があること。


【1】意義

心裡留保とは,意思表示の際に,意思表示をした者(表意者)が,表示行為に対応する効果意思のないことを知りながらする意思表示をいいます(93条)。例えば,上記の事例では,Aは心の中では「車を10万円で売る気はない」と思っていますが〔内心的効果意思〕,「僕の車を君に10万円で売るよ」と言っています〔表示行為〕。このように「内心的効果意思≠表示行為」となっていますが,Aはそれを知りながら意思表示をしています。このように嘘や冗談で意思表示することが心裡留保です。心裡留保による意思表示は原則として有効です(93条1項本文)。しかし,契約の相手方が,本人が真意でないこと(嘘や冗談で言っていること)を見破っているような場合〔悪意〕や,注意すれば知ることができたような場合〔有過失〕には,無効になります(93条1項但書)。

【2】趣旨

心裡留保では,内心的効果意思と表示行為が一致していないことを表意者自身が知っていますから,表意者を保護する必要はありません。そこで取引の安全を考慮して,表示どおりの効果を生ずること,つまり契約を有効にすることを原則としました(※1)。ただし,契約の相手方が内心的効果意思と表示行為の不一致を知っている場合,または知ることができた場合には,取引の相手方を保護する必要がないので無効としました。
※1 「冗談だったからあれは無効」といった主張が常にまかり通ってしまったら取引の安全は図れませんよね。

【3】解答

Aは冗談で言っているため,この意思表示は心裡留保によるものです。よって,この契約は原則として有効ですが(93条1項本文),Aがいつも冗談ばかり言っていて,相手方Bが,Aには売る気がないことを知っていたり,普通なら売る気がないことを知ることができた場合には無効となります(93条1項但書)。

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【過去問 平成3年第8問ア】
☑ Aが真意では買い受けるつもりがないのに,Bから甲土地を買い受ける契約をした場合において,Bが注意すればAが真意でないことを知ることができたときは,売買契約は無効である。
➠○ 相手方が有過失であれば,その心裡留保による意思表示は無効となります。

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