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レポート | 2024年8月のいとち | いとちの夏合宿ラッシュ

酷暑となった8月。学生たちも夏休みに入り、普段のいとちワークはほぼお休みとなりましたが、夏休みを活用し、全国各地からたくさんの学生たちが研修に来てくれました。そこで8月のレポートは夏のいとち合宿特集。どんな学生たちが、いったいなにを学びにきてくれたのか、そこでどんな時間が流れていたのかをご紹介していきたいと思います。

福島県立医科大学・いわき地域医療セミナー

8月に2回(1日と22日に)行われたのが、福島市にある福島県立医科大学3年生を対象とした「いわき地域医療セミナー」です。毎年夏恒例のイベントになっていて、「いとちプロジェクト」として受け入れるのは3年目となるでしょうか(9月にも予定されています)。

対話ワークショップ「いとちかいぎ」直後に撮影(8月1日開催分)
学生以外にも他職種のメンバーで対話を行います(8月22日開催分)

このセミナーは、いわき市医療対策課福島県立医大がコラボレーションしたもので、地域医療のリアルを実際の地域に見にいき、さまざまな学びの体験を提供しようというものです。1回につき、およそ15名ほどの学生が来磐(いわきに来るの意味)し、そこからかしま病院を視察するチームと、ときわ会常磐病院を中心に視察するチームと2つに分かれて、1泊2日のセミナーへ臨みます。

このうち、かしまチームは、病院に到着後、早速院内見学。さまざまな場所を巡りますが、特に薬剤部、リハビリ室などは多職種連携・チーム医療を体感できる場所でもあります。その後、かしま荘(特別養護老人ホーム)へ向かい、利用者さんの血圧測定やインタビューに当たってもらいます。

院内を見学するだけでなく、自分の血糖値を測定してもらいます!
かしま荘の入居者のみなさんとのインタビュー

学生たちからは、「これまで学生同士で行うことはあっても、現実の患者さんを相手にやるのは初めてだったため、とても勉強になった」というような声がたくさん上がっていました。現場でしか感じられないものを、しっかりと目で見て、心で感じてくれていたようです。

どんな言葉をかけるか? インタビューでは、一言一言が鍵を握ります

お昼休みのあとは、夕方まで「いとちワーク」を行いました。8月1日は日常的に行われている「インタビューワーク」を、22日は「まち歩き」をそれぞれ体験した後、多職種の皆さんと共に「医療とは?」「地域とは?」と根源的な問いを重ねていく対話ワーク「いとちかいぎ」に参加しました。

インタビューワークでは、病院の職員にさまざまな質問を投げかけながら、聞き出した情報をメモするだけでなく、その人に合う「キャッチコピー」をつけ、さらに、「その人たらしめている要素」を2つほど書き出して他己紹介する、というミッションが与えられます。

短時間で的確に質問し、記述するコミュニケーション力が求められますし、それを言葉にして他者に伝える表現力も求められます。

インタビュー中、リラックスした雰囲気づくりを心がける医学生

インタビューワークのポイントは、目の前の人の「いま、これまで、これから」を一本のストーリーとして理解すること。症状や痛みだけででなく、病気になる前を含めたこれまでの歩み、これからの希望まで含めて知ろうとすることが「全人的医療」につながっていきます。

じつはこのワーク、ライターや編集者向けに発案されたものであり、短時間ではありますが、インタビューとはいかなるものかを体験することができる中身になっています。異業種のコラボレーションから生まれた、いとちならではのワーク。学生たちも、普段とは違うチャンネルで「人を診る」ことを体験する機会となったのではないでしょうか。

一方のまち歩きは、かしま病院のある地域に、どのような風景があり、どのような暮らしが営まれているのかを歩きながら考えるワーク。こちらも、まちづくり系のイベントなどで、短時間で地域に対する解像度を上げるために行われるワークです。

学生たちには「かしまくんらしい表情を3枚撮る」というミッションが学生に与えられているため、いつもとは違う視点で地域を捉え、「かしまらしさ」を写真に収める必要があります。

かしま病院を出発し、鹿島のまちへ!

しかもこのまちを歩き、歩きながらコミュニケーションをしていくのがポイントです。地域の人たちが紹介するまちは、情報だけでなく「思い出」が入り込んでいるはず。よそ者目線で見たときにはなんの特徴もない風景に見えたとしても、誰かにとって大切で、その人と切り離すことができない風景かもしれない。そう捉えると、なにもない地域なんてものはないし、目の前の景色に、これまで以上に謙虚に向き合えるようになると思います。

こうしたアクティブなワークが終わると、これまで学んだこと、感じたことを総動員してさまざまな人と対話していく「いとちかいぎ」に入ります。いとちかいぎでは、各テーブルに入った看護師、社会福祉士などとの語りを通じて、現場で働く医療職の思いに触れてもらうのと同時に、職種によって見えている風景が異なることなどを、語り合うことで学んでいきます。

グループになって言葉を交わします
時に真剣に、時に笑顔で現場のみなさんの思いに耳を傾けます

また、いとちかいぎは、1分間考える⇨1分間話す、ということが繰り返されます。考え込むと「どツボ」にハマるような深いテーマですが、即興的に言葉を編んでいく技術が必要ですし、他者の言葉を聞きながら、自分の考えに肉付けしていく柔軟さも求められます。頭をフル回転して喰らいつく対話と思考の時間。改めて自分の考えを整理する時間になったようです。

ちなみにですが、2日目は、かしまチームと常磐チームが合流し、学びの振り返りを行うことになっているのですが、この振り返り会の司会を、昨年度の引き続いて、いとちプロジェクトメンバーの私、小松理虔が担当いたしまして、今回は、学びを振り返るグループワークと、付箋を使ったアイディアワークの2つをやってもらいました。

かしまチームも、常磐チームも、大学を出て実際の地域で学ぶのは今回が初めての体験だったそうです。これまではあくまでキャンパスが中心だったということですから、今回のセミナーはとても刺激的で、「いずれ医師になる」ということを強く実感する時間になったのではないでしょうか。

また、これは非医療職のいとちメンバーという立場で感じたことですが、3年生という、そこまで強く「医療」や「サイエンス」を内面化していない時期だからこそ、医療と地域をつなぐ考え方を柔軟に学ぶことができるのかもしれないと感じます。今後は専門的に知識をじっくりと蓄えなければいけない時期。そこに入る前に、全人的医療や地域医療の考え方を知れたことが、学生たちの今後の学びにつながればいいなと思います。

杏林大学・東北医科薬科大学合同いとちツアー

8月20日と21日は、杏林大学医学部&看護学部の学生と、東北医科薬科大学の学生とがごちゃ混ぜになった「いとちツアー」が開催されました。杏林大学からは、医学部が3名、看護学部が4名、さらに、東北医科薬科大からは医学部生が4名、ツアーに参加してくれました。

合同いとちツアーに参加したのは、なんと14名!!

といっても、最初から合同で企画されたわけではなく、同じ日に希望が重なってしまったため、一部のプログラムを同時に行うという形のツアーになった、ということが実際のところです。

ちなみに、杏林学生には昨年もツアーに参加してもらっていましたが、看護学生の参加は今回が初めて。これからは都市部で看護師になるのであろう学生たちに、地域医療のリアルを体験してもらえたのはすごく良かったと思います。引率の古川先生からも「いとちのプログラムは看護学生にこそ学んでほしい」という言葉を頂戴しました!!

いわきでの学びを深めた看護学生と古川先生

ここでは、杏林大学の学生に参加してもらったツアーについて紹介していきます。学生たちがまず臨んだのは訪問診療の同行。かしま病院では、市内全域に向けて訪問診療を展開しており、その診察に同行してもらうことで、現場でさまざまなことを実践的に学んでもらうことが狙いです。

診察も実際に体験!

ですが、研修が簡単に実現できるわけではありません。訪問診療の舞台は患者さんの自宅、つまり普段の暮らしの場であり、家族の方もいらっしゃいますし、ご本人の体調も関わりますから、当然、快く学生たちを迎え入れてくれる患者さんばかりではありません。

かしま病院が医師の育成や研修に力を入れているということを理解してくださっている患者さんの協力と、現場の医師や看護師たちの協力で、この訪問診療実習が成立しているということを、この場を借りて説明しておきます。

訪問診療は、暮らしの場に医療側が入らせてもらうという立場。丁寧なコミュニケーションが求められます。学生たちは、医師が患者さんにどのように語りかけているか、その家の状況などからどんな情報を収集しているのかを現場で感じ取ることができるはずです。さまざまな暮らしがあること。それは、病院から出てみないことには知り得ません。

また、杏林チームのみとなりましたが、いわきの沿岸部のツアーにも出かけました。いとちプロジェクトの私、小松理虔がガイド役となり、かしまから小名浜地区、江名・中之作地区を周り、沿岸の被災状況なども随時解説しながら、薄磯にある伝承未来館に行くというコースです。

津波によって壊れた防潮堤を前に

まちの復興が進み、当時の状況はもう伝承館のような場所でしか感じることができません。伝承館をフル活用しつつ、地域の被災の痕跡を語ることを通じて、リアリティを持って災害について学ぶ時間になったように思います。学生たちからも、「暮らし」からみる視点がいかに大切なものである感じられた、という声が上がっていました。

ツアー後のフィードバックで最も多かったのが、「他学部の学生との交流や多職種の皆さんとの対話が印象的だった」という声でした。特に医学生は、幼かい頃からの夢として医師になる道を選んだ学生も少なくなく、もちろん医師になりたくて医学部で勉強するわけですが、「どうしても医学一辺倒になってしまう」ということも語る学生もいました。

いとちプロジェクトには、人文系の学生も参加していますし、都市部の学生と地方の学生との間の「地域医療の捉え方」の違いなども見えてきたと思います。ともすれば同質的になりやすい環境に「よそ者」がいることで、自分が学んできたものに別角度から光を当てる時間になったのかもしれません。

ますます学べるかしまへ

今年の夏は、帝京大学医学部、一橋大学経済学部、杏林大学医学部・看護学部、東北医科薬科大学医学部、そして、福島県立医科大学、医療創生大学の学生が、かしま病院の研修&いとちワークに参加してくださいました。改めて、お越しいただきました皆さん、ありがとうございました。

一橋大学・経済学部のみなさん

かしま病院では、まちづくりや地域の「現場知」を組み合わせながら、地域医療・全人的医療を実践的に学ぶことができるプログラムを用意しています。地域の人たちも、病院の医療職も、そしてさまざまな分野で学ぶ学生たちも、互いに学び合うコミュニティづくりを目指していきたい。改めてそう感じる夏となりました。

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