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『にんじん太郎』〜ベッドサイドストーリー〜

【とある夜、子供に語ってきかせたおはなし】

むかしむかし、あるところに、にんじんが大好きなにんじん太郎という男の子がいました。
にんじん太郎は、おじいさんとおばあさんと一緒に暮らしています。

ある日、にんじん太郎は言いました。
「おじいさん、おばあさん、ぼくは鬼ヶ島にいる、悪い鬼を退治しに行ってきます」
おじいさんとおばあさんは、びっくりしましたが、にんじん太郎を応援することにしました。
おばあさんは、にんじん太郎が大好きなにんじん団子をもたせてくれました。

さて、にんじん太郎が歩いていると、向こうから何かがやってきます。
ワンワン!ワンワン!…なんでしょう?

『イヌ!』

はい、あたりー。
イヌがやってきました。

イヌはにんじん太郎のそばへ来て、
「にんじん太郎さん、にんじん太郎さん、なんだか良い匂いがしますね」
と言いました。

にんじん太郎が
「それはにんじん団子の匂いだよ。とっても美味しいんだ」
というと、イヌは
「にんじん団子!なんて美味しそうな響き!ねぇ、にんじん太郎さん、そのお団子をひとつくださいな。そうしたら、ぼくはあなたの鬼退治についていきますよ」と言いました。

こうして、イヌが仲間になりました。

にんじん太郎とイヌが歩いていくと、また向こうから何かがやってきます。
ウッキキー!ウッキキー!
…なんでしょう?

『サル!』

そうだね、よくわかったね。
サルも、にんじん団子を食べたいなーと言ったので、にんじん太郎はサルにも1コ、にんじん団子をあげました。
「にんじん太郎さん、ありがとう。ボクも鬼退治についていきます!ウッキー」
こうしてサルも仲間になりました。

にんじん太郎とイヌとサルが歩いていると、今度は向こうから何かが飛んできます。
バサバサバサッ!バサバサッ!
なんでしょう?

『トリ!』

あたりー。トリがやってきました。
トリが、なんだか良い匂いがするなぁと言うと……

『ねぇねぇ!』
うん?
『ふつうのトリも!』

(え、ふつうのトリってなんだ…?)
えーっと……あ、また向こうから何かがきました!バサバサッ!バサバサバサッ!

『ふつうのトリー!!』

はい、そうですね、ふつうのトリでした。
トリと、ふつうのトリも、にんじん太郎にお団子を1コずつもらって、仲間になりました。

にんじん太郎とイヌとサルとトリとふつうのトリは、鬼ヶ島に向かいます。

鬼ヶ島について、そっと物陰から様子を伺うと…
パリパリポリポリ…音が聞こえてきます。
なんと!
鬼ヶ島にはたーっくさんのにんじんがあって、鬼が生のまま、にんじんをかじっていたのです。

「わ!なにをしているんだ!」

にんじん太郎は思わず叫んでしまいました。

その声に鬼もびっくり。
鬼は、怯えながら話します。

「お、おいら…にんじんが、大好きなんだ。だから、村の畑から勝手ににんじんを盗ってきてしまったんだ…。ごめんよ、ゆるしておくれよ…」

それを聞いて、にんじん太郎は言いました。

「鬼さん、にんじんが好きなのはわかるよ。にんじんって、とーっても美味しいもんね。でもね、村のみんなが一生懸命育てたにんじんを、勝手に盗ってきてしまうのはいけないよ。それにね…」

にんじん太郎は、笑顔で言います。

「にんじんは、生で食べるより、お料理したほうがずっとおいしいよ!」

それを聞いて、鬼はびっくり!

「なんだって⁈
こんなに美味しいにんじんがもっとおいしくなる方法があるのかい⁈
どうかその方法を教えておくれ。おいらはもう、にんじんを勝手に盗ったりしないから!」

こうして、にんじん太郎は、鬼に、お料理を教えることになりました。

にんじん太郎と、イヌと、サルと、トリと、ふつうのトリと、鬼は、みんなで仲良くにんじんパーティーをしました。

おしまい♪

***************

今よりももっと、息子が小さかったとき。
なかなか眠らない息子に、昔話を聞かせようと思ったことがあった。

当時息子は、なぜかニンジンが大好きで離乳食ではいつもニンジンだけが真っ先にお皿からなくなっていた。

なんのお話にしようかなぁ?もも太郎?
と思っていたら息子が
ニンジン!ニンジン!
と言うから、ニンジン太郎?と言ってみたら、キャッキャッと笑って、ニンジンたろう!ニンジンたろう!とくり返しながら布団の上を転がって笑う。
もも太郎のお話をアレンジしながらどうにかこうにかお話をしてみたら、まだ物語がちゃんと理解できている様子ではないのに、息子は、ニコニコ笑っていた。

そのときから、我が家では定番のおはなし。

少し大きくなってきたら、息子がイヌやサルを、鳴き声から言い当てるようになった。
息子には、トリと、ふつうのトリも出してって言われるけれど、「ふつうのトリって何なんだろう……」と思いながら、いつも話をしている。

最近では、お布団に入ってからヒソヒソと耳もとで、ちいさな声でお話をするのが息子のお気に入り。

「ねぇ、ママ」
――なあに?
「ヒソヒソして?」
――いいよ。なんのおはなしをしようか。

きっと今日も、そんな会話をして。

「にんじん太郎!」って元気な返事が返ってくるんだろう。

だから、私は、また。
ちいさな耳のそばで、おなじ話を。

何度でも。

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