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舞台が世の中に戻る日はいつ

私は大学・大学院共に舞台美術専攻で、卒業後も舞台やライブイベント関係の仕事をメインで続けてきた、ゴリゴリの舞台職の人間なのだが、新型コロナウィルスがここまでに猛威を奮い、まさか世界のすべてのイベント・舞台を中止させてしまうような事態になるとは考えもしなかった。
自分はイギリスに住んでおり、ロックダウンが始まる直前の3月は初のイギリスでの自分の舞台美術が初舞台を迎えるということで、非常に楽しみにしていた。小劇場だが、2つのユニークな舞台の美術をデザインしていた。制作も自ら行っていたので、セットの材料からなにから全部合わせて組み立てて、塗装したら完成というところまで来ていたのだが…

塗装予定日に、主催者から「公演を延期せざるを得なくなった」と連絡があり、その瞬間からパタッと自分の舞台の仕事が途絶えてしまった。
最初は自分の参加していた演劇の規模だけかと思ったが、その後はもう毎日のように、ロンドン中の大きな劇場が根こそぎその扉を閉じた。

正直、ショックはその時それほど大きくなかった。「また開く日が来るから大丈夫」程度にしか思っていなかった。

2011年に、東日本大震災が起こった際に様々なイベント・舞台が公園自粛をした時のほうが、悲しかった。私は当時18歳、大学入学の年で、夢にまで見た美大で自分が夢見てきた舞台美術の勉強がついに始まるっていうときに、とんでもない衝撃が走ったのを覚えているし、あれから日本は変わった。
美大もすごく消極的だった。入学して1-2年は現実的、よもや悲観的にしかとらえられなかった。とりわけ、舞台については自分はこれを信じてやっていいのか、分からなかった。
それでも自分は大学の中で自分が好きな分野をみつけて、それは日本ではできないことだというのを悟った私は、渡英することを決めたのだが、まさか、イギリスでこんなことになろうとは夢にも思わなかった。

だから、公演中止になった当初はまだぼんやりした感覚で、ロックダウンが始まって少ししてもあんまり実感が無いというか、危機感はそこまで感じられなかった。それよりも、新しい生活スタイルになれることに必死、という気持ちのほうが多かったかもしれない。特に舞台関係のことを気にする余裕なんてなかった。
今イギリスでロックダウンが始まって40日になる。生活にも慣れ、失った分を取り戻すため、副業を増やして生活している。もちろん元通りというわけにはいかないが、少しずつ改善はしている。
いろんなことに慣れてきて余裕が出てきた今、やっと舞台のことを考えるようになった。私が精魂注いできた舞台の世界。私はまだまだ駆け出しで、これからっていうときにこんな弊害にあうとは思わなかった。今まで色んなことがあって、それでもあきらめずに夢を追ってきたけど、こんなことがあって、さすがにくじけそうな思いが無いとは言い切れない。

東日本大震災の時に日本が変わったように、世界はこれを機に変わると思う。もう始まっているけれど、世界経済は下落するし、貧困問題は悪化するだろう。そんな中で、舞台が再開するのはきっと先の話になる。最近読んだ記事で、イギリスで舞台が再開するのは来年に入って以降だろう、と話されているらしい。

私のパートナーは法律の関係で働いていて、今も自宅から忙しく働いている。法律のように、必ず人が必要なものは切り落とされない。でも舞台のように、(舞台を見ることができるお金がある)人の心を潤すだけの存在は真っ先に切られてしまう。当たり前のことなのかもしれないけど、私はそれが悲しくて仕方がない。そして、自分がモットーにしてきた(人を自分が作った舞台で幸せにする)というのも、結局幸せにできるのは一部分の人だけなのかもしれないと思ったらなんだか空しくて。

2011年の学生だったあの時に考えたことを、今は労働者として、経験も積んだうえで今一度考えさせられている気がする。それも、今度は国を出れば解決するような状況ではない。

そうは言っても、結局自分が情熱をささげられるのは舞台だけなのはわかってはいるけれど、これだけ痛烈なことがあると、泣き言も言いたくなる。きっと舞台関係者、みんなそうなのだろうけど。

わずかな希望に向けて、今は我慢するしかない。今は自分のできる方法で生き延びて、その時が来たらまた、長年敷いてきたレールに戻れると良いな。



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