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【いまはもうなき旅の記録】 6. ホワイト・サンズ・バンガローの日々へ

2007年8月9日(木)
サムイ島のラマーイ・ビーチ南の外れにある集落のような宿「ホワイト・サンズ・バンガロー」。
僕はここでしばらく過ごすことにした。

誰かが2009年のバンガローを撮った動画が見つかった(ありがたい)。
そう、ここだ。たしかに2007年の僕はここに存在した。

中心街から離れていて、バンガロー付近には砂浜と海しかない。
そんな贅沢な暇を手に入れた僕は、この宿にいる人々を発見するたびメモに書き留めていった。

<ホワイト・サンズ・バンガローの住人>
 オーナー(肝っ玉母さん)-娘たち
 TRF似の姉さんと旦那さん(花火職人?)
 細美人お母さん-息子(スプラッシュ大好き)
 眼鏡の人-夫ジョン
 マーク・ハント似のバイク乗り-恋人のアジア女性(STAFF)
 足怪我しちゃってる人
 軽く不気味なおばあちゃん's
 ブロンド母さん-息子1(勉強中)息子2(ED HARDYキャップ)
 仙人(強)
 仙人(弱)ロイさん
 ダンディおじさんアレックス
 見るからに陽気なおじさんグウェン(ドイツ人)
 
3人の女バックパッカー
 ブロンド姉ちゃんと腕毛の濃い兄さん
 眼鏡のオタクっぽい男
 謎のヒゲもじゃ
 料金に文句のある3人の男女(1名笑えるくらい気強い)
 ノッポさん
 香水きついおばさん
 マスター〇〇っぽい人とその妻と子?(住んでる?)

不思議なことにこうして文字を打ち込み直していると、人々の顔がおぼろげながら浮かんでくる。この後、よく登場するキャラクターは太字にした。彼らの姿に関してはハッキリ覚えている。
宿泊者だけでなく、数ヶ月単位で暮らしている人もいるようだった。

【俺たちが(東京で)あんなにセコセコ動いている間、異国ではこんなにゆっくりした時間が流れてるのか。時の流れが遅い。犬がカワイイ。】

その犬には「パウロ」と名付けた。当時大好きだった映画『バニラ・スカイ』でペネロペ・クルス演じるソフィアが飼う犬の名前から拝借した名だ。
パウロはバンガローに居着いた野良犬で、人懐っこくどこまでもついてきて、初日から僕のコテージに入ってきて一緒に眠ろうとするような子だった。

1日で愛犬となったパウロ。

TRFのボーカルそっくりの姉さん特製の美味しいガパオライスをランチでいただき、お腹を満たす。昼休みはバンガローのスタッフも含む住人みんなが眠った。波の音と鳥の声だけが聴こえる、それこそが夢のような時間だった。

【予定を立てよう。明日もここで過ごす。むしろ8/13までここにいるのも悪くない。安いし、飯うまいし、人が好きだし、離れる気が起きない。8/13の昼は一度サムイを出て、スラートへ。8/25くらいには、ここに戻ってこようかな。やっぱいいよこの宿。】

スラートとは、あのバスで隣に座っていた彼女が降りた町だ。この時の僕はまだ、再会を願っていた。

【例えば、あのバス停に着くのが1分でも違えば、あのバス停に向かう車が1度でも止まれば、あのカウンターに並ばなければ、あの日を選ばなければ、あの笑顔に出会うことは絶対に無かった。それでも出会った。その奇跡に感謝しよう。悲劇でもない。あの時間がこの人生に存在したことを誇ろう。そしてまたあの笑顔に出会う奇跡を信じたい。】

夕刻の砂浜、細美人ママとパウロが横並びで座って海を眺めている様子はまるで絵画だった。
初日は町の方に出ず、バンガローで過ごした。みんな夜もすぐ寝るのか、このバンガローだけは真っ暗になる。星が夜空をどんどん埋め尽くしていくのを、愛犬パウロと一緒に数えた。

【人間にとって一番大事なのは、金でも権力でも美でもなくイイ服やモノ、暮らしではなく、言葉でもなく、なによりも優しさ。それが一番大切なことだと気付かされる。】

時はゆっくりぷかぷか流れていたが、僕の価値観は波を切る速さで変化していっていた。

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