#46 オーストラリア初日
人物、バンド名等説明
・アボリジニ:オーストラリア大陸と周辺島の先住民。ただし、アボリジニとは差別的な響きがあるという。近年では配慮からアボリジナル、アボリジナル・ピープル、アボリジナル・オースチラリアンという表現が一般化しつつある。
・セキュリティ:日本ではあまり見られないが、海外では小さなライブ会場でも用心棒のような屈強なセキュリティが入り口に立つことが多い。そして仕事上ほとんど融通が利かないが、ライブを観てくれて仲良くなる場合もある。
#46 オーストラリア初日
到着した当日のライブなのだが、俺は髪の毛を立てなければならない。アメリカのときは、長いモヒカンを全て細い三つ編みにしていたので、立たせていなかった。
しかしアメリカツアー後に、恥ずかしながら逮捕されたことがあり、逮捕が過去1度や2度ではないために、髪を切らないと懲役刑になってしまう可能性があると弁護士に言われ、泣く泣く断髪したため短くなっていた。
髪形はモヒカンのままなので、たいした意味がないと思うかもしれない。しかし2カ月ほどの留置場や拘置所の拘留中に、横を伸ばせば、一見ツーブロックのような普通の髪型に見える。
高校生時代にモヒカンにしたときの、学校に見つからないための手段と一緒だったのだが、結局、お上的な権威はどれもみんなたいして変わらない。うわべだけ整えておけばいいといった、唾棄すべき価値観しか持ち合わせていない。
裁判で運良く懲役刑は免れたのだが、切ってしまった髪の毛を眺めていると「これは立てられる長さだな」と思い、それ以降10年ぶりぐらいに、ライブのときには髪を立てるようになっていたのである。
日本からドライヤーも持って行き、現地のスプレーも入手して、パーティーが続く中で髪の毛を立てる用意をし始める。ドライヤーのプラグを海外用の変換コンセントに差して、スイッチを入れる。うんともすんとも言わない。
「あれ?電圧が違うのかな?」
海外仕様もできるドライヤーをわざわざ買ったので、電圧を変えてスイッチを入れる。しかしまたもや、うんともすんとも言わない。
「だめだこりゃ」
オーストラリアの電圧にこのドライヤーが対応していないらしく、ドライヤーなしで髪の毛を立てるしかない。これは過去30年以上モヒカンであり続けた俺でも初めての体験だ。逆毛と手の熱を駆使してなんとか立てることはできたが、納得のいかない仕上がりである。しかしどうにもならないので、そのままライブへ向かった。
金もなく物価の高いオーストラリアでドライヤーを買うなど到底無理だ。借りるにしても壊してしまう可能性もあるので、ドライヤーなしでこのツアーを乗り切ることとなる。
30年以上に渡るバンド活動とモヒカンの髪型も今年で35年目。音楽での表現以外に、日本や海外、様々な場所での演奏経験や、10代から社会をドロップアウトした視点の文章を雑誌やWEBで執筆中。興味があれば是非サポートを!