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JK売り子に取材をした話#2

前回の記事の続きを書く。

是非読んでみてください。

Profile.1 『京都出身 高校3年生 シズクさん』

窓際の座席に座ろうとしたけれど、彼女は、人目を気にしてか、店の一番奥の座席に向かった。座席に座るなり、彼女は切り出した。

「映画って、どういう映画撮ってるんですか?菅田将暉さんとかと会ったりしますか?」

今時の女の子なら大抵質問してきそうな内容だった。私は、オブラートに包みながらも、自分が性を題材に撮る映画を撮っていること、そして菅田将暉には会った事ないけど、この人ならあるよ、という芸能人の名前を出した。

彼女は目を輝かせて、興味津々に聞き入っていた。そして、すぐにこう切り出した。

「堂ノ本さんなら、特別にホ別2万でいいですよ!」

驚いた。人目を気にしたり、身バレを気にするのにも関わらず、そういうところは奔放なのか、と。それから、JK売り子はそれを専門にしているわけではないことにも驚いた。

「そういうこともするんですね」

と返した私に、彼女は軽蔑しますか、と尋ねてきた。そういう意図の発言ではないことを伝え、取材を始めた。

「まずいつからやってて、どれくらい売り上げてます?」

この質問に、彼女は口籠もった。と言うのも、彼女はSNS上では高校一年生と謳っていたからで、彼女は正直に自分が高校三年生の18歳であることを教えてくれた。やはり若ければ若いだけ、男からの連絡も増えるらしい。

シズクさんのJKビジネス〜高校一年生〜

彼女は、高校に入ってすぐ、両親が離婚したらしい。とはいえ、ついていった母親はキャリアウーマンで収入は安定していたそうだ。つまり、止むに止まれず始めたという訳ではない。けれど、彼女はどうも寂しかった。そんな時に、友人と遊びに行ったおり、ナンパをされた。相手は大学生の男で、寂しかった彼女は、その相手と一夜を共にした。けれど、その男は翌朝、自分が高校生なのを知るや否や、”縁切り料”として、1万円渡してきた。それが今の行動の発端だと彼女は振り返る。身を任せ、寂しかった心を一夜だけでも埋めてくれた人間が、お金を渡してきた。これに味を占めた彼女は、援助交際を始めたらしい。

高校一年生の1年間で、のべ15人程度と援助交際を行い、中にはずっとリピートしてくれる相手もいたらしい。相手は、初めての相手とは打って変わって、50代前後のおじ様ばかりだったそうだが、父親と離れた彼女にとっては、その年齢くらいの男性が一番落ち着いたらしい。けれど、高一の冬、事件が起こった。

いつもリピートしてくれていたおじさんと、いつものようにホテルにしけこんだ夜のこと。二人でお風呂に入り、談笑を交わし、行為に及んだ。そして、眠りについた頃、そのおじさんに一件の電話が入る。

「お父さん、今どこで何してんの!」

と怒る娘の声。それを聞いて、飛び上がるように起きたおじさんは、申し訳ないと言いながら、お金を置き、ホテルを出ようとした。彼女は、父娘の会話を聞いたせいで、より寂しくなっていた。

「今日は一緒にいようよ。お金はいいから」

と思わず言ってしまったらしい。その言葉に、おじさんは

「君とはそういう関係を望んでいない。お金の関係だと思っていたが、これっきりにしてほしい」

という旨の発言で返した。そして、机にいつもの3倍近くの額のお札を置いて、そそくさと出て行った。彼女は、そのお金を大事に財布にしまいながら、思わず泣き崩れたそうだ。

”自分は誰からも必要とされていない”

まさしくそう感じたらしい。どれだけベッドを共にしようが、どれだけ体を許そうが、結局誰も自分自身を求めていない。求められているのは、女子高生であることと、いつでもお金さえ払えばセックスできる手軽さだけ、そう感じた彼女は、それきり、援助交際をやめた。

ここまでの話を聞いて、私は一旦トイレに立ち上がった。彼女が性にしがみつくことで、父親との関係性を補完しようとしていたのは言うまでもないだろうが、では、その父親とはどういう関係だったのか気になった。それから、彼女自身が、父への憧憬を他のおじさんに重ねていることを理解しているのかも気になった。彼女の話ぶりからすると、どうも自分は例のおじさんに恋していたと、今でも思っているような口ぶりだった。

トイレから戻り、その話をしようとしたけれど、彼女が突然切り出した。

「堂ノ本さんは、聞き上手ですね。いい人なのが目に見えて伝わってきて」

「ありがとうございます、ソトヅラの良さには定評があります」

「実は私、大阪出身のアイじゃないんです。本当は京都出身のシズクなんです。どうせなら本当の自分を知ってもらいたいです」

と返してきた。もちろん偽名なのはわかっていたし、話し方的にも、京都ぽさを感じていたので、特段驚きはなかった。大阪の繁華街の土地勘がないのも、なんとなく違和感はあったし。けれど、何より自分を信頼して、本名を晒してくれたのが嬉しかった。彼女は丁寧に学生証を見せ、スマホを開いて、通っている学校の文化祭の写真を見せてきた。

その写真を見るに、どこからどうみても普通の女子高生で、私は目の前の彼女と写真の彼女を同一視しづらかった。

先ほど気になったことを聞くタイミングを逸し、そのまま彼女の高校二年世の話に移った。

シズクさんのJKビジネス〜高校二年生〜

傷心の彼女にも春はやってくる。高校2年生に進級するや否や、同じクラスの男の子に告白されたらしい。特段、気になっていた相手ではなかったが、断るのも悪いと思い、交際が始まった。これまでのおじさんへの相手とは違い、ラブホテル以外の色々な場所へと出かけ、夏休みには二人で海へ行ったりと、すごく楽しかったらしい。けれど、彼と一緒にいても、次第に寂しさを感じるようになった。

例えば、ショッピングモールに行っても、休日の映画館に行っても、どこへ行っても親子連れの姿があって、仲良さそうに歩く父と娘の姿を見るのが苦しかったそうだ。そういう光景をつい目で追ってしまう自分に嫌気がさした上に、交際相手の男の子が、親子連れを見るたびに、何度も「結婚しようね」とか「あんなふうになりたいね」と言ってくるのが心底嫌になった。そして、二人は1年間の交際を持って、破局へと至った。

確かに、彼女の境遇からすると彼の発言はなかなかに残酷なものだとは思うが、今時、離婚した家族なんてのは珍しくなく、なぜそこまで父親という存在に固執しているのか、やはり気になった。

「お父さんの話を聞いてもいいですか」

そう尋ねた私に彼女は苦い顔をした。変だった。「はい」と言ったきり、随分と長い沈黙が訪れ、彼女は何か言おうと口を開こうとはするが、声が出なかった。何か頭によぎって、これを言おうか言うまいか悩んでいる、そういう行動だった。私自身も何度もそう言う経験があるからよくわかった。ようやく何かを発する、そう思った時、彼女の瞳が湿り出した。ああ、泣くんだろうな、と思ったら、やはり泣いた。止めどなく溢れる涙だった。泣きたくないのに出る涙だった。

「泣きたくない時に出る涙ですね」

と、そのまま伝えた。目一杯に抱えた涙が、頬を伝った。溢れる涙が、川が氾濫するかのように、勢いを増した。時間にして5分ほど、私は黙って彼女が泣き止むのを待った。私にも、そう言う経験がやはりあったから、こういう時は何も言わない方がいいのだとわかっていた。

「すいません、もう大丈夫です」

と言い出した彼女の瞳はまだ濡れていて、大丈夫だとは思えなかった。彼女は、お父さんの話を始めようとして、でもやはり、また洪水のように涙が出た。その辺りで、周りのお客さんも啜り泣く音に異常さを感じていた。店員さんが、どうやら私が泣かせたと勘違いして、彼女の元にゆっくり近づき、「大丈夫ですか」と声をかけた。なんだか、私の周囲全体が私をDV男か何かだと思っているようで、視線が痛かった。だから、結論を急いだ。

「言いにくかったら大丈夫ですけど、シズクさんはお父さんに殴られたりしてましたか?」

涙を拭う彼女の動きが止まった。当たりだと思った。

「日常的に、怒鳴られたり、無視されたり、お母さんのことも殴ったり、でも小さい頃はいいお父さんだったり」

そう続けると、彼女の涙は止まった。鼻声で、うんうんと首を小さく縦に振る彼女を抱きしめたくなった。抱きしめるわけにはいかないから、私は私の話をした。自分の父親の話をして、だから自分は父親の実像から離れた、本当の父親的存在を他者に見出してしまうことを話した。雫さんもそうですか、と尋ねると、わからないと一言返ってきた。

けれどずいぶん落ち着いた彼女は、こう呟いた。

「私、お父さんとセックスしてました」

衝撃の発言だった。けれど、だから性にしがみつく彼女の思考を理解できた気がした。と同時に、型にはめて彼女を理解しようとしている自分に、もっと衝撃だった。性的虐待をされていた人間は性的に奔放になったり、性に溺れる傾向がある、みたいな文章を読んで、彼女を理解するに等しい。それは、人と人との交流ではない。私はなんのために取材をしているのだ。文章ではわからないから人に接しているのではないか、と改めて自分を律した。

今回は、長くなったのでこの辺りで。明日、この衝撃の告白と、雫さんがJ K売り子を始める話、それから以降の交流の話を書いて、終了です。


お楽しみに!!

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