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書評「協力のテクノロジー」

協力のテクノロジーを読みました(松原 明, 大社 充 著  学芸出版社)。

「社会活動団体」はたいてい、自分たちのことを棚に上げている。
大学3年生のときにふと、そんな感覚になったことがありました。

「社会をより良くする活動」を他人に勧める一方で、他の団体が勧めている別の「社会をより良くする活動」をやっていない。やっていないどころか知りもしない。それでなぜ、自分たちが唱える「社会をより良くする活動」が人に受け入れられると思っているのだろう?と、漠然とそんな不公平感を感じた事がありました。そんな10年前の疑問を、この本が解いてくれました。

この本はまちがいなく、今まで読んだ本の中で一番読むのに時間がかかりました。職場の昼休みに少しずつ読み勧めたとは言え・・・3ヶ月?くらいかかりました。一気に読むなんて無理です。この本。和食のフルコースを5分で食べきるくらい無謀です。

それ程、この本の背後には膨大な歴史がある。様々なシーンで、人々が手を取り合って困難に立ち向かってきた歴史が。概要だけでも追うのに苦労しましたが、追わねばという気持ちが止まりませんでした。

この本がどんな本かというと、一言でいうと

「目指す方向が異なる人々が力を合わせる方法を紹介する本」です。

この本読んだら、きのこの山派とたけのこの里派が喧嘩せずにお互いの売上を伸ばすでしょう。また、メガソーラーの事業者と自然保護団体が一緒に活動するかもしれません。

キーワードは"相利"。
「あなたが欲しいものと、私が欲しいものは違う。だから、両方を手に入れる方法を力を出し合ってやろう。」

この「両方手に入れる方法」が相利です。2者が互いにできることを出し合って(合力して)、この相利を開発し、実行する。すると、両者は互いのポリシーを変えずに、各々の目的を達成することができます。

これはきわめて理論的な、拒否感すら覚える机上の空論感が強いアイデアですが、筆者はそれを「NPO法の成立」というつよつよ実例を出して読者をぶん殴ってきます。その理路整然とした戦略と、自我喪失してない??大丈夫??と思えるほどの強い共感能力を見せつけられ、部活動や大学サークル、市民団体、プロジェクトチームなど、何らかのチームづくりを過去に経験した人はここで一度死にます。すごすぎて。

でも、その後必ず晴れやかな気分で蘇生することができます。
ぱああぁ~、って(笑

「あぁ~!あの時、あの人(団体)と喧嘩しちゃったけど、こうすりゃよかったのか!」と。あなたは泣きながら立ち上がるはずです。我慢して読んでください。

説得力を醸すのは一発限りの実例だけではありません。この実例は、筆者が古今東西のありとあらゆる「力の関係性」を分析した結果に基づいています。先ほど歴史と言ったのはこれを指します。武力によって強いられる協力。金銭と交換される協力。威信が引き出す協力。それらの力のはたらくシーンと、弱点を分析した結果、筆者は今の時代に合った「力を合わせる方法」を導き出しています。そしてその方法は一方的でも排他的でもない。

筆者は同時に、小さな協力から初めて、その小さな火をたき火のように大きくしていく方法(ストーリー仕立てにする方法)を示しています。僕たちはどうあがいても物語が大好きなので、うまいやり方だなぁと膝を打ちました。「ナラティヴコミュニケーション」とか「共感力」とかに興味がある人は馴染みがある考え方だと思います。

社会的な課題や価値観が次から次へと増えていく社会の中で「僕らのこの活動に力を貸して!」と叫んだって、それは他の団体との力の奪い合いにしかならない。互いを消費し合う結果にしかならない。そうではなく「あなたの困りごとは、あの人の困りごとと組み合わせたら両方解決できそうだから、一緒にやったらどう?」と提案する。テクニックや資金のマネジメントではなく、異なる者同士の「関係性のマネジメント」で解決する。そんなやり方を、この本は紹介しています。この記事の冒頭で言及した社会活動団体は、互いの力を奪い合うのではなく、かといって距離を置くでもなく、お互いにできることを出し合って、共通の目標を作るべきなのだと思いました。

この本を読んでいる途中で、何度も何度も、星野源の「ばらばら」という曲が頭の中に流れました。このとおりだと思うし、この通りの世の中になれば良いなと思いました。

世界は ひとつじゃない

ああ もとより ばらばらのまま

ぼくらは ひとつになれない

そのまま どこかにいこう

(ばらばら / 星野源 2010年)


おわり。


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