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我らの道 〜 多様性時代のマンダロア侍魂

桜も散り始めた、まだちょっと肌寒いロンドン。特に予定も無いイースターウィークエンドを、コンテンツ消費でダラダラと過ごしています。ラスアスも終わってしまった今、楽しみにしてるのはマンダロリアンくらいでしょうか。ちょうど今、ここロンドンで「スターウォーズ・セレブレーション・ヨーロッパ」というファンイベントが開かれていて、世界中のナード達が各々のYoutubeチャンネル引っ提げて集っています(一部地下鉄がコスプレ祭りになってます)。僕は行かないけど、せっかくなので便乗してスターウォーズエントリーです。(ちなみにこのイベント、毎年やってますが、来年は日本開催ぽいですよ。ナード襲来。)

依然拡大し続けるスターウォーズ・ヴァース

日本では映画9部作+αくらいの印象しかなく、しかも789のずっこけた感で「スターウォーズもオワコンやな」みたいな位置付けですが、その間アメリカでは「クローンウォーズ」という超人気アニメシリーズが15年以上続いてて、それを見て育った子供達が現役ファンとして今のスターウォーズを支えています。ポケモンとかワンピを見て育ったキッズが現役世代になってるような感じですかね。

僕はというと、スターウォーズは普通に好きだし一応Eps1-9全部見てますが、コアなファンからすればペーペーの浅いニワカです。スピンオフ系もあれこれ見てはいますが、ジェダイが出ないやつはあんまりハマらないのは不思議なもんです。ところが、マンダロリアンは超面白い。全員マスクマンでイケメンかどうかすらもわからない、寡黙キャラな上に表情演技すらない、更に相棒はマトモに喋れない。ドラマとしてはちょっとあり得ない、一見地味とも思える内容なのに、何故こんなに面白いのか。本編でもボバフェットとか何の思い入れもなかったんですが。

変なデザインのヘルメットと、ベスカー金属で作られた鎧に包まれ、腕からハイテク武器放出したり、ジェットパックで飛翔したり、冷静に現実的に見ればちょっと失笑モノとも言えなくもないんですが、そんな事言い出したらスターウォーズ自体無理になってしまいます。マーヴェルヒーローの全身タイツ然り、かっこいいものはかっこいいのです。

マンダロア侍

スターウォーズが侍映画にインスパイアされてるのは有名な話です。「時代劇」転じて「ジェダイ」とか、「隠し砦の三悪人」転じてC3POとR2D2とか。で、マンダロリアンもそこに立ち返るコンセプトで作られているようです。マンドーでお馴染みディン・ジャリンと、ベイビーヨーダでお馴染みグローグー(超絶可愛いあざとい)のコンビを主役に置いて、「子連れ狼」とか「用心棒」とかをなぞっています。音楽までそれっぽくてすげーかっこいい。シーズン3に入って、物語は主役コンビの冒険譚からタイトル通り「マンダロア人」スケールに広がってきて、「七人の侍」ぽくなってきています。今や日本から時代劇は消えてしまいましたが、マンダロリアンの方がよっぽど侍やってる感。いわばマンダロア侍です。

つい最近も、日本のアニメスタジオがスターウォーズを再解釈する「ビジョンズ」ってシリーズがありましたね。双方向に影響し合い成長拡大していくSW世界。日本人にも刺さりそうな素材なのに、なんかあんまり話題になってないっぽくて残念。米国オタクには絶大な影響力を誇るスターウォーズは、開祖スタートレックに並ぶ巨大宗教です。今やディズニー傘下になって、クオリティもポリコレも、ファンサービスやカメオ、ゲームやメディアミックスまで、緻密にデザインされた最先端・最高峰のエンタメです。(良くも悪くも)さすがの完成度。

今年創業100周年、スターウォーズもマーヴェルも、インディジョーンズもピクサーもジブリもガンガン飲み込んで巨大化していくディズニーつくづく恐るべし。今やストリーミング業界でも最強コンテンツホルダーとなり、キッズエンタメ、オタク界を統べるGAFAM級の魔王になりつつありますね。毎度の如く、日本はANIMEでニッチな戦いを挑むしかない。オタクの端くれとしては頼もしくもあり、日本人としては孤軍奮闘ラストサムライを誇るいつもの気分です。オタクもマジョリティになった昨今、ニッチこそオタクの真髄たる原理主義。

お家騒動から部族騒動へ

宇宙ダイバーシティが爆発しているスターウォーズ世界には、ウーキーだったりイウォークだったりの独自文化を持つ種族が多々登場します。そんな中でもマンダロア人というのはなかなか独特です。ハイテク武装戦闘民族でありながら、故郷を失い流浪の民となった、サイヤ人みたいな種族です。地位や肩書きよりも、誇りと名誉を重んじる。そういう古典的信条は、古代スパルタとか、中世のサムライとかハイランダーとかバイキングなどの民族文化を思わせます。

また「強力な教義や掟に縛られた閉鎖的コミュニティ」という面では、カトリック教徒とかオーソドックス系ユダヤ人とか、アルカイダ系ムスリムとかを思わせます。部族(トライブ)の中も、分派(ハウス)とか血系・家系(クラン)とかのサブカテゴリー分かれていたりして、中には過激派とかカルトっぽい集団もいて対立していたり。なかなか複雑で味わい深い。

ジェダイの場合は、ジェダイオーダーという元締め組合こそあれ、基本的には一師一弟の独立部隊です(それはそれでまたかっこいい)。そしてそれに似たフォース能力とシステムを持つ暗黒面シスと戦う、というのがスペースオペラ本編です。が、基本的にスカイウォーカー家のお家騒動なので、文化面を掘り下げるには若干不向きでした。

一方マンダロリアンは、マンダロア人というコミュニティカルチャーを掘り下げようとしており、本編とは違った味わいがあります。ハリーポッターにおける「ウィザード社会文化」のように生活風習ディテールで独自の世界観を作り出していて、異文化探訪みたいな楽しみがあります。

また、このドラマは冒険モノのカタルシスの他に、おそらく「連帯によるオキシトシン放出」という快感を提供している気がします。仲間がいて心強い、誇らしい、気持ちいい、ってアレです。ただ、家意識・仲間意識が強いオキシトシン傾倒の人達は、同時に排他的になりがち、異端敵視しがち、という裏表もあるので、その辺はバランス大事ですね。じゃなきゃフーリガン的なヤンキーとかヤクザみたくなって、抗争まみれの民族主義とか国家主義になりかねません。今時麦わら海賊団とかやってる場合じゃないのです。

排他性vs多様性のアメリカ建国神話

主人公のディンとグローグーは、孤児として拾われてマンダロリアンになったので、純血ではありません。グローグーに至っては人種も違うしジェダイ系でもあります。そういう異端分子がマンダロア文化を尊重し、散り散りになったトライブを繋ぎ合わせて、マンダロア復興に向かっていくという、かなり胸熱な展開になってきました。閉鎖的コミュニティーを否定する事なく、しかし譲るところは譲って新時代の多様社会に適応していく。そしてそこでの決め台詞「我らの道」。かっけー。もうほぼ新・武士道じゃないっすか。

こういうバランス感覚っていうのは、さすが多民族国家アメリカ、て感じがします。日本はほぼ単一民族国家なので、普段自分が日本人であるという自覚や誇りを、本当の意味で感じる事はありません。「東京は〜大阪は〜」みたいな、基本トライブ内部での抗争に明け暮れているし、排他的純血主義も強いです。でも例えば僕も、ロンドンのような多民族社会の中で日本人で集まる時は、マンダロリアンのような気持ちになるものなのです。自分の属性を否定したくないし、誇りたい。それを社会的に排斥されたくないし、尊重されたい。そしてそれは他者にとってもそれぞれ同じ。自分が異分子になって初めて、SDGsとか多様性とかポリコレの重要性が認識できます。日本人なんて世界的にはドマイノリティだしね。アメリカには武士道みたいな独自の歴史哲学文化が無いにも関わらず、移民達がその辺の感覚をちゃんと紡いでいるのが面白い。

誕生からもうすぐ半世紀を迎えるスターウォーズ。オタキング曰く「SWは寓話でありアメリカの建国神話である」と。多民族が集って作り上げた新興人工国家アメリカ。多様な国民のアイデンティティをユナイトするために、イザナギイザナミだったりゼウスだったりアーサー王だったり、基礎となる建国の神話が必要だったという事です。「ならず者がやってきて原住民を殺しまくった」では神話にならないので、何かかっこいいやつが必要だった。で、そこにドハマリしたのがジェダイサーガです。どんな人種だって誇り高きジェダイナイトになれる。虐げられがちな少数民族弱者や、特に多くのオタク系陰キャキッズを救ったナード神話。国民的巨大宗教になるのも頷けます。マーヴェルにしろDCにしろ、アメリカのキッズエンタメは基本的に「多様性を認識しろ、マイノリティを救え」というコンセプトです。幼少期からしっかりポリコレ教育されてる訳です(じゃなきゃ国家運営できない)。そういう感覚を持って育っているので、ポリコレガーとか言われたところで何を今更なのです。

世界が多様であるというのは、単なる現実です。各々の好みに関わらず、事実としてそうなのです。それを認めないとか言ったって、それはただの現実逃避でしかありません。「多様性を認める」というのは、「その現実を認識し、その中でバランスを取る」という事です。異なる存在がいる、その存在を排他排斥するのか、その存在について学習して有効利用するのか。どっちが自分にとって得なのか。人類史をかけた実験の結果、後者の方が断然お得だという事が、既にデータとして出てますよ、という話です。だからそっちに行きましょうよ、と言っているのです。人々が国境を超えて、どんどん混ざり合うこの時代。それが今の時代感って事なんだと思います。

結局ディズニーのポリコレにまんまとやられちゃってる訳ですが、僕もマンダロア侍の一人としてそのコンセプトには賛同するので、このまま我らの道をガンガン行っちゃってください派です。あとグローグー愛しいよグローグー。シーズン3ももうすぐ終わりですが、シーズン4はいよいよジェダイ話も絡んでくるんじゃないでしょうか。その前に「アソーカ」(フェムヒーローw)も来るし、侍x侍でマッシュアップしてシン・武士道ブームくるか。まだまだ楽しめますねー。



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いつの世も、アーティストという職業はファンやパトロンのサポートがなければ食っていけない茨道〜✨