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2020年 医療介護データ新時代 3つの誤解(医療介護データ研究所を開設した理由も紹介します)

こんにちは。今回は、医療介護データ新時代ともいえる2020年代におけるデータ活用の3つの誤解について解説します。

今回の内容は、私が医療介護データ研究所をnoteで開設した理由にも繋がりますので、その点についても書いていきます。他の記事をご覧になって、「医療介護データ研究所って何?」と思われてこのページにたどり着いた方にも、ぜひ見てもらえたら嬉しいです。

2020年は、医療介護データ新時代の幕開け

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2019年ももう終わりに近づいていますが、今年は「医療介護データの利活用が今後益々進んでいく」とあちこちで耳にした年でした。

厚生労働省は、2017 年1月に「データヘルス改革推進本部」という組織を立ち上げ、医療介護データの利活用に向けた準備を進めてきました。2017年7月に公表されたデータヘルス改革推進計画・工程表では、2020年度から健康・医療・介護ICT本格稼働と示されています。2020年は、医療介護業界にとって、データ活用の新時代になることでしょう。

データヘルス改革推進計画

直近の2019年9月のデータヘルス改革推進本部では、「今後のデータヘルス改革の進め方について」というテーマで話し合われ、データヘルス改革によって目指す未来が示されました。

8つのサービスとその先の未来

データ活用が今まで以上に進むことで、医療介護業界も大きく変わっていく可能性があり、私も単純にワクワクする気持ちがあります。

ただ、気を付けなければいけないこともあります。医療介護データ新時代には3つの誤解が潜んでいます。


【1つ目の誤解】あなたに必要なデータが、手に入る時代になるとは限らない。

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みなさんは医療介護データ新時代に、どんなイメージを抱かれるでしょうか。

データ活用が進む以上、少なくとも私たちの生活や仕事で実際に活用できて、私たちに何らかのメリットがあってほしいですよね。

私の知り合いはこんな風に言っていました。

国が提供するデータベースにアクセスすれば、必要なデータを簡単に得ることができる時代になる。これからはデータを作ることに時間をかけるのではなく、頭を使うことに時間をかける時代になる

確かに、そんな時代になることが理想的ですよね。データを作ることはプロセスであり、ゴールではありません。エクセルを駆使して、データを作ることに膨大な時間をかけてしまっている現状はナンセンスです。

しかし、現実的には、”必要なデータを簡単に得ることができる”ようには、なかなかなりません。

データを使うということはどういうことなのかを、分解して考えてみると7ステップに分けることができます。

1、データを集める

2、データを加工する

3、データを解釈する

4、データを伝える

5、データで意思決定する

6、データをもとに行動する

7、データから成果を得る

7つのステップ

データを使う以上、何らかの成果に繋がらなければ意味がありませんので、成果を得ることをゴールにしています。

例として、職員満足度調査をする場合のことを考えてみましょう。ゴールは、職員の離職率を下げることとします。

まずは、人事担当者が職員満足度調査のアンケートを作成し、職員に対してアンケートを実施。結果を回収します。(ステップ1 集める)

回収したアンケートを勤務年数別、役職別、職種別等で分けて、平均値や中央値、データのバラつき等を算出します。(ステップ2 加工する)

算出したデータからそこに潜んでいる課題と解決策のヒントを掴みます。例えば、「勤続3年を境にして、職場への定着意向に大きな差が出ている」とか、「上司を尊敬できないと回答している人が多い部署ほど、定着意向が低い傾向にある」といったイメージです。(ステップ3 解釈する)

データを解釈しただけでは、求める成果を得ることはできません。データを解釈した後は、そのデータから得られた知見を経営層や上司、現場の職員に伝える為に、資料に落とし込み、報告します。(ステップ4 伝える)

経営層や上司、現場の職員は、報告を受けて納得ができれば、「じゃあ実際に、離職率を下げるために、何をしようか」と、具体的な取組みを検討します。その取り組みで離職率が下がりそうだと思えれば、その取り組みを実行する意思決定を行います。(ステップ5 意思決定する)

そして、実際に対象の職員に周知し、行動に移して(ステップ6 行動する)、うまくいけば成果を得ることができます(ステップ7 成果を得る)。

これは職員満足度調査をする場合の例ですが、他の分析をする場合も基本的な流れは同じです。

このように考えてみると、単にデータを手に入れるだけなら簡単にできるかもしれませんが、成果を得ることを目的にして、必要なデータを得る為には、想像以上にたくさんのステップを踏まなければいけないということがわかります。

また、どんな成果を得たいのかによって、データの集め方も、加工方法も、解釈の仕方も、伝え方も異なります。

私たちがデータを使いたいとき、そのデータの使い方は千差万別です。国がどんなにデータ提供を頑張ったとしても、あらゆるパターンのデータの使い方に対応することはできません。そう考えると、データ新時代においても、あなたに必要なデータが、手に入る時代になるとは限らないのではないでしょうか。

もちろん、逆に、国が想定するパターンの使い方をする、一部の方にとっては、必要なデータが手に入るようになる可能性があります。

しかし、そこにも誤解が潜んでいます。


【2つ目の誤解】国が目指しているのは、便利な世の中を作ることではない。

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データヘルス改革と聞くと、なんだか国が便利な世の中を作ろうと頑張ってくれているような気がします。しかし、国が目指しているのは、単に便利な世の中を作ることではありません。本当の狙いは、医療費・介護費などの社会保障費を抑制・削減することです。

2020年度一般会計歳出・歳入の構成

政府は2019年12月20日に2020年度の予算を閣議決定しました。2020年度の予算の総額は過去最大で約102.6兆円です。そのうち、社会保障費は35.8兆円で、予算総額の約35%にあたります。これだけでも十分、社会保障費の大きさを感じますが、実質的な政策経費で見てみると、より社会保障費の大きさが分かります。予算のうち23.3兆円は国債の利子や償還に使われる費用ですので、この費用を抜いた、実質的な政策経費は79.3兆円です。政策経費に対する社会保障費の割合は約45%にも上ります。

社会保障費は国が最もお金を使っている領域であり、その規模は政策経費の半分に迫っています。これから益々増えていくことも予測されており、国が社会保障費を減らしたい気持ちもわかります。

もう一度、国が掲げるデータヘルス改革の8つのサービスとその先の未来を見てみましょう。

8つのサービスとその先の未来

特に、国が2021年度以降に目指す未来として掲げている4つの項目(資料の右側)に注目してください。国が”目指す未来”なわけですので、データの利活用を進めるうえで国が目指す成果(ゴール)は、この4つが中心となります。この4つに繋がるデータは提供されやすく、この4つに繋がらないものは提供されにくいと考えられます。

1つめのゲノム医療・AI活用の推進については、まだ開発を支援するという段階にとどまっており、具体的にいつどのようなアウトプットが出るのかは明確化されていませんので今は置いておきます。

2つめのPHR(パーソナルヘルスレコード)の推進とは、私たち一人ひとりが、自分の診療録をスマホ等で閲覧できるようにする取り組みです。PHRの推進をすることで、健康管理・予防と、重複投薬の削減が進むと言われています。どちらも医療費削減のキーワードであり、社会保障費の削減に繋がります。

3つめと4つめの情報やデータベースの利活用は、現場の役に立つことに思えます。しかし、実質的な狙いは、”患者情報のデジタルデータ化”にあります。現状、保険料を医療機関や介護機関に支払う審査支払機関は、膨大な資料のチェックを人の力を使って行っています。紙のデータも多いことから、かなりの人件費がかかっています。チェックすべき資料が全てデータ化され、自動的チェックするシステムが完成すれば、チェック業務を行う人件費を大幅に削減できます。国は、患者情報のデジタルデータ化によって、支払基金業務の効率化(資料内の※印で記載されている)を実現したいのです。

このように、国は社会保障費の抑制・削減に向けた取り組みとして、データの利活用を目指しています。もちろん、その副次的な効果として、私たちにも恩恵はあると思いますが、私たちを便利にするためだけにデータの利活用を推進しているわけではありませんので、過度な期待は禁物です。


【3つ目の誤解】医療介護データ新時代では、みんなが幸せになれるわけではない。

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”あなたに必要なデータが、手に入る時代になるとは限らない”ということ、”国が目指しているのは、単に便利な世の中を作ることではない”ということをご説明してきましたが、それでも、2020年代の医療介護データ新時代では、今までよりも多くのデータが手に入るようになることは間違いありません。

国はデータを広く公開することで、民間にもっと活用してほしいと思っています。民間の生産性が向上することは、もちろん国としても喜ばしいことだからです。

国が公開するオープンデータについて、このように話す人がいます。

国が公開しているオープンデータは、誰でも使えるもの。オープンデータの公開がどんどん進めば、みんなにとってより良い社会になるはず。

しかし、ここにも誤解があります。

オープンデータを本当に誰でも使えているのかというと、実は医療介護のオープンデータを活用できている人はほんの一握りです。

なぜ、一握りの人しか活用できないのかというと、1つめの誤解で説明した通り、データを使える状態にするのが難しいからです。

オープンデータがあってもそれだけでは、成果に繋がる情報を出すことはできません。オープンデータを本当の意味で使える状態にするためには、データに対する一定の知識を持った人が、それ相応に時間をかけて、データを収集・加工・解釈する必要があります。データに対する知識が不足していたり、データに対する知識はあってもデータを収集・加工・解釈する時間がなかったりする場合、データを使うことはできません。

では、医療介護データを有効活用している一握りの人達とは、どのような人達なのでしょうか。

例えば、資本力のある病院は、医療介護データを有効活用が可能です。

某医療コンサル会社が提供する病院経営分析ツールは、”高度急性期病院の4割が導入している”ということを売りの1つにしています。高度急性期病院とは、まさに資本力のある大病院です。

医療コンサル会社等が提供する病院経営分析ツールには無料で提供されているオープンデータが使われています。しかし、分析ツールを利用するには、高額なコストがかかります。

資本力のある大病院であれば、そうした高額な分析ツールを利用することができますが、中小病院等はなかなか利用できないのが現状です。

また、大手製薬会社も、医療介護データの有効活用が可能です。大手製薬会社は自分たち専用のデータ分析ツールをシステム会社に作らせています。近年、エンジニアの人件費は高騰していますので、このような特注のシステムを作る場合、数千万円の開発コストがかかります。それでも、オープンデータを有効活用することが必要と考えて、各社が分析ツール開発を行っています。

このように、医療介護データ新時代では、みんなが幸せになれるわけではありません。

オープンデータを有効活用できるだけの資本力のある病院・企業は、データからより大きな利益を生むことができるようになりますが、資本力がない病院・企業・個人はオープンデータを十分に使いこなすことができません。そして、両者の格差は大きくなっていきます。

もちろん、オープンデータは誰でも手にいれることができますので、なんとかデータを利用している病院・企業・個人もいますが、その場合、データを作ることに多大な時間をかける必要があり、生産的ではありません。

2020年代は、データを使える人と使えない人の間で、大きな格差が広がる時代になります


新時代を切り開く為の挑戦として、医療介護データ研究所を始めました。

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私は医療介護経営に関わるコンサル会社で10年以上勤務しています。また、コンサルタントとして個人でも活動しています。その中で、この格差が広がる危機感を感じています。

医療介護業界は元々、資本力のある病院・企業の既得権益が強い業界ですが、医療介護データ新時代になることで、さらにその地位を確固たるものにしていく可能性があります。

私としては、個人の活動も大事にしたいですが、このままでは資本のある組織に所属しなければ、やっていけない時代になるのではないかと思っています。

そんな危機感から、資本力がなくても医療介護データを活用できる世の中にしたいと思うようになり、医療介護データ研究所(このnote)を始めました。

私は、大学では物理学を専攻し、基礎研究をしていました。(もともとは研究者になろうかと考えていました。)基本的な統計学も学び、データを扱うのは得意な方です。

学生時代、6ヶ月程度の長期入院をしなければいけない時期があったのですが、そのときには暇だったので、ひたすら数学の問題を解いてました。特に、やらなくてもいいのに数学の問題を解きまくるぐらいには数字が好きです。

そんな私だからこそ医療介護×データという領域で出来ることがあるのではないかと考えています。

そして、多くの人が効率的に医療介護データを活用できる世の中にできれば、業界が活性化され、新しい才能を発揮する人も現れ、これまで以上に良い業界にしていくことができると信じています。

医療介護データ研究所を通してやりたいこと

データを使った会議

医療介護データ研究所では、データを使う人達が「自分達で作るデータ分析ツール」を提供したいと考えています。

無料・もしくは低コストで、多くの人に医療介護データを提供するには、その方法がベストであろうと考えています。

分析ツールを使う人と、分析ツールを作る人が一緒であることがポイントです。

分析ツールを使う人と、分析ツールを作る人が分かれると、どうしてもコストと品質の問題が発生します。

コストの問題は、分析ツールが高くなることを指しています。分析ツールを作る人にも生活がありますから、分析ツールを作る人は、どうしても分析ツールによって収益を上げなければいけません。そして、医療介護業界は狭い業界のため、分析ツールを使う母集団が少なく、収益をあげようと思うと分析ツールを高額にするしかないのです。

品質の問題は、品質が悪くなることを指しています。1つめの誤解で説明した通り、データを使う為にはその目的にあった、データの収集・加工・解釈が必要になります。そのため、データを使う人以外が作成した分析ツールは、使いづらいことが多いのです。本来、データを使う人にしか、本当に必要なデータ分析ツールは作れないのです。

 ∇ 病院や施設の事務・企画職にとって必要な分析ツール

 ∇ 医療職・介護職にとって必要な分析ツール

 ∇ 医療介護コンサルタントにとって必要な分析ツール

 ∇ 記者やライター等の情報発信者にとって必要な分析ツール

使う人によって、必要な分析ツールは違いますので、それぞれの領域で仕事をしている方に賛同いただき、一緒に分析ツール作っていくことが私の夢です。

もちろんデータ分析ツール自体を作るところを、全員でやるわけではありません。そこは私を含めデータの取り扱いが得意な方で対応し、どういった分析をしたいのか、どういったアウトプットがあれば使えるのかという意見を言ってくれるアドバイザー的な役割を多くの実務経験者に担ってもらうのが良いのではないかと思っています。

理想は、大きく持っていますが、まずは私の想いに賛同してくださる方達を増やしていかなければいけません。

そこで、今の私に出来ることとして、noteでの情報提供を始めました。

私自身が使う分析ツールを私自身が作って、以下のマガジンで公開しています。分析ツールは無料で使えるGoogleデータポータルを使用しています。

noteを見ていると、医療介護系で一定の支持を集めていらっしゃる方は、200人以上のフォロワーがいるように見受けられましたので、まずはそこまで、情報を発信し続けたいと思います。

200人以上のフォロワーを集めることができたら、夢に向けて、次の展開に移りたいと思っていますので、ぜひ考え方に共感いただける方はフォローお願い致します!

一緒に医療介護の新時代を切り開いていきましょう!

今回は以上となります。お読みくださりありがとうございました。

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