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【連載小説】#8「あっとほーむ ~幸せに続く道~」二股の末路

↓8話から、めぐ視点でお話がすすみます!↓

前回のお話(#7)はこちら

前回のお話:
めぐとの散歩から帰ると、翼が歌を披露していた。加えて庭の花でブーケまで作って待っていた。力の差を見せつけられた悠斗は策を練るが、すぐには思いつかない。何気なく庭に出てみると、見た花の名前が自然と浮かんだ。その時初めて、これは自分の特技なのだと知る。野上家に帰宅し、殺風景な庭を見た悠斗はそこに花壇を作ろうと決意する。

 

三学期初日。学校が午前中で終わったわたしは洋菓子店『かみさまの』のカフェスペースにやってきている。ここは友人・高野木乃香このかの父親が経営しているお店で、お客さんがいない時間は客引きを兼ねておしゃべりをしていいことになっている。

冬休みにはいろいろなことがあった。それを学校で話さず午後まで取っておいたのは、木乃香をびっくりさせるためである。

「えっ? めぐの彼氏って46歳なの?! 制服デートしたって言うからてっきり、いっこか2こ上かと思ってた!」 
 
 実際に話してみると、彼女の反応は予想以上で、椅子をひっくり返す勢いで驚いた。食いつきの良さに満足したわたしはそのまま話を続ける。

「でも、悠くんはすっごく優しいよ。まぁ、わたしが守ってあげたくなるくらい、繊細な一面もあるけど」

「そっか。それだけ年上なら、学校までバイクで送ってくれるのも納得」

「あー、今朝送ってくれたのは従兄いとこの翼くん」

「えっ?! 従兄がどうして?!」

「翼くんはわたしのことが好きなんだって」

「好きなんだって、って……。めぐはそれでいいの?」

「うん。だってわたしも翼くんのこと、好きだもん」

「ふ、二股……? かわいい顔して、やるわねぇ……」

「……もしかして、引いてる?」
 正直に話しすぎたかも……と、ちょっぴり歩み寄った発言をすると、木乃香は「……少しね」といって肩をすくめた。

「でもさ、実際どうするつもりなの? ずっと二股を続けるわけにもいかないでしょう? 最後にはどっちかに決めないと、めぐが不幸になっちゃうよ?」

「うーん……。でも今は、男の子同士で競い合ってるみたいだから、バトルの行方を見守っておこうかなって感じ?」

「え?! ってことは、めぐの二股は彼氏公認ってこと?! 何がどうなってるんだか……。ねぇ、お母さんはどう思う?」

 木乃香はすっかり呆れてしまったようだ。とうとう、店番をしている母親に意見を求めはじめた。

「カップルの数だけ愛の形がある。私はめぐちゃんのような生き方もありだと思うな。もちろん、それなりの責任と覚悟は必要だけどね」
 木乃香のお母さんはそう言って笑った。

「人の幸せを木乃香ちゃんが決めることは出来ないんだよ。めぐちゃんがそれを幸せだと思ったらそれでいいの。もし許せないっていうなら、木乃香ちゃんはそういう生き方をしなければいいだけの話」

「……確か、お母さんの友だちに『複雑なカップル』がいるんだっけ?」

「うん。時々ここへも来るよ。もし今度会う機会があったらぜひ話してみて。あ、でも頭のいい人たちだから、恋バナで浮かれた木乃香ちゃんに彼女たちの話は理解できないかも?」

「えー、ひどいなぁ。これでも城南高校受かったのにぃ」

「受かるだけじゃねぇ」
 木乃香のお母さんは再び笑った。

それからしばらく談笑を楽しんだわたしは、店で一番人気のケーキ『かみさまの樹』を買って家に帰った。

◇◇◇

帰宅すると、仕事前の悠くんが庭の整備をしていた。「ただいま」と声をかけると、悠くんはシャベルを動かす手を止めた。

「おかえり。今日はようやくレンガを敷き詰められたよ。少しは庭らしくなってきただろ?」

「うん。結局、一人でやらせちゃってごめんね。花を植える時は手伝うから」

「まぁ、いいさ。身体を動かしていれば無心になれるし、めぐが喜ぶ姿を想像すれば頑張れるってもんだよ」

「ありがとう。……ねぇ、ちょっと早いけどおやつにしない? ケーキを買ってきたんだ。二人だけでこっそり食べちゃお」

買ってきたケーキの箱を見せると、悠くんは子どもみたいに嬉しそうに微笑んで室内に入った。

手を洗い、さっそく紅茶の用意をする。お気に入りのダージリン。ティーポットに二人分の茶葉を入れる時、一緒に飲める人がいる嬉しさを感じるのはわたしだけだろうか。

紅茶を入れていると突然、後ろから抱きしめられた。ドキッとして振り返る。

「……どうしたの?」

「めぐが帰ってきてくれてよかった。実はちょっと……寂しかった」

「えー? 本当に子どもにでもなっちゃったみたい。これからお仕事でしょう? 大丈夫……?」

「ああ。でも、めぐの姿を見て声を聞いたら落ち着いた」

「それならいいけど……。無理しないでよね? 花壇だって、春までに完成すればいいんだから」

「無理はしないよ。……ああ、いい香りだ。めぐは紅茶を入れるのもうまいな」

「ここのケーキとの相性は抜群だよ! さ、食べよ食べよ!」

テーブルに向かい合って腰掛ける。
「いただきます」

わたしと悠くんの特別な時間。彼の笑顔を見ているとわたしも安心する。ケーキを食べながら噛みしめる幸せ。自然と笑みがこぼれる。

◇◇◇

悠くんがスイミングのコーチの仕事に行ってしまったあとは、両親が時間差で帰ってくる。最近はこれが我が家の、悠くんを加えた新しい生活パターンである。夕食を済ませたあとで翼くんが遊びに来るのも、もはや日常だ。

木乃香このかには「二股」だと言われたけれど、別に二人をもてあそんでいるつもりはない。むしろどちらも大切にしたいから、一対一で会えるならそういう時間を持ちたいとさえ思っている。夜にやってくる翼くんと近所の散歩をするのもそういう理由からだ。

悠くんと違い、翼くんはわたしにぴったり身体をくっつけて歩きたがる。わたしが寒がりなのを知って、少しでも互いの熱を感じられる距離で、と考えているらしい。

月が綺麗な夜だった。見上げた空は吸い込まれてしまいそうなくらいに澄み渡っている。ずっと見ていたら心の曇りもなくなってしまいそうだ。

翼くんが白い息を吐きながら言う。
「新学期はどうだった? 俺が学校まで送ってったことで何か言われた?」

「うん。送ってくれたのが従兄だって言ったら、彼氏じゃないの? って突っ込まれたけど、どっちも好きだからって話したら、ちょっと……引かれちゃった……」

「えっ、本当にそう言ったの……?」

「やっぱりダメだったかな。二股かけてるって言われちゃったんだけど……」

慌てて言葉を継いだが、翼くんは「そういうことじゃなくて」と言って首を横に振った。そして立ち止まるなり、わたしの身体を塀に押しつけた。

「めぐちゃんにとっては、あいつが……恋人なの? 俺のことは従兄で、恋人とは認めてくれないの……?」
 その言葉にハッとする。彼の優しさに甘えていたことを、今更ながらに反省する。

「……翼くんのことも大好きだよ。だけど、翼くんはやっぱり従兄って気持ちが強くてそれでそんなふうに……」

言い訳にしか聞こえないとしても、なんとか想いを伝えたかった。けれどもそれで納得する翼くんではない。恥ずかしさから顔を逸らしたらあごを掴まれ、無理やり正面を向かされた。真剣な目がこちらを見ている。

「……俺はただの、優しい従兄にはならない。鈴宮ほどのんびり構えるつもりもないし、いつまでも二番手でいるつもりもない」

「翼くん……」

「俺は従兄である前に一人の男だ。めぐちゃんのためなら歌も歌うし、花だって贈る。だから、俺を恋人だと言ってよ。ううん、もっと特別な存在だって言ってよ……」
 そう言ってわたしの手を取る。そして小さな箱から指輪を取り出すと左の薬指にはめた。

「俺と結婚してください。一生、大事にするから……」

愛をささやいた唇が重なる。温かい吐息が顔にかかる。真似事とは違う。これがホントの、大人のキス……。翼くんの本気を今、改めて知る。

(ごめんなさい、わたしが間違ってた。こんなにも愛してくれていたなんて……。)

キスを繰り返すたび彼の想いが入り込み、心ごと支配されていく。けれどもそこにはやはり翼くんの優しさが含まれていて、わたしを組み伏せてやろうという強引さは感じない。優しさの分だけ、心地よい。彼の熱を、刺激をもっと感じたい……。そう思わせる彼の魅力に取りつかれていく……。

ところが、心地よさは唐突に終わった。誰かが強引に翼くんを引き剥がしたのだ。

「野上っ! おれのめぐに何してんだよっ……!」

そこには、眉を吊り上げた悠くんの顔があった。仕事帰りなのだろう、すぐそばにバイクが停めてある。翼くんに夢中でまったく気配に気づかなかった。

怒りの収まらない悠くんが、翼くんの顔めがけて拳を突き出す。が、拳は余裕の笑みを浮かべる翼くんにあっさり掴まれてしまった。

「何って、見たから怒ってるんだろ? キスだよ、キス。あんたは我慢してるのかもしれないけど、俺はあんたより先に二人の距離を縮めていくよ。今し方、プロポーズもした」

「……何を焦っている? めぐはまだ高校生だぞ?」

「はぁ? あんただって、高校生の時はエリ姉とキスしてたって聞いたけど? 自分のことを棚に上げて良くもそんなことが言えるな」

「……めぐ。帰るぞ。後ろに乗れ」
 悠くんは怖い顔のまま、バイクの後ろに乗るよう指示した。

「なんだよぉ。まだ散歩の途中なんだけど? めぐちゃんは俺が責任を持って送り帰すよ」

「おれはめぐに言ってるんだ。早く乗れ!」

従わなければ悠くんを失ってしまう……。わたしは翼くんに申し訳無さを感じながらもバイクに乗った。悠くんはすぐにエンジンを吹かす。

「ごめん。後で連絡するから……」
 一言だけ告げたが、翼くんの耳には届いただろうか……。冷たい夜風がわたしと悠くんの間を通り抜けていく。

◇◇◇

「怒ってる……よね?」

「ああ。めちゃくちゃ怒ってる」

「許して……くれないよね?」

「そうだな……。たとえめぐがその指輪をあいつに突っ返したとしても、簡単には許せないな」

帰宅してすぐ、翼くんとの出来事をありのままに話した。嘘はつきたくなかった。けれど、正直に話したことで余計に彼の機嫌を損ねたのは間違いない。なんの弁解もできないことを、わたしはしてしまったのだ。

――最後にはどっちかに決めないと、めぐが不幸になっちゃうよ?

木乃香に言われたことを思い出す。あの時はこうなる未来を予想できなかった。自分の想像力のなさを呪う。

どちらからも好かれたい。待ってくれるというのなら、今は恋愛を二倍楽しみたい――。そんなワガママがいよいよ通用しなくなったことを知る。このままでは本当に不幸の道に進んでしまう。なんとかしなければと思うが、今はその方法も思いつかない。そこへ追い打ちをかけるように悠くんが言う。

「もし、めぐがこのままおれを翻弄するようなら……。心苦しいが、おれはここを出て行くよ。めぐのことは好きだけど、振り回されるのはごめんだからな。幸い、親の残した家があるし、そこで暮らしていくことは出来る」

「そんな……」

「そのくらいおれたちは本気ってことだ。高校生の恋愛ごっこをしたいわけじゃない。めぐと新しい家庭を築きたいって、本気でそう思ってるんだよ。でもなけりゃ、翼に言われて幼稚園で仕事したりしないし、翼だって、指輪そんなものを用意してポケットに忍ばせておくはずがないじゃないか」

「だけど……」
 反論しようと立ち上がったが、続く言葉は相変わらず出てこなかった。悠くんはため息を吐く。

「……やっぱり、しばらく会うのをやめよう。翼にも言っておく。めぐの浮かれ気分が落ち着くまではそうするのが互いのためだってな」

「…………」

「会わないうちに、やっぱり恋愛ごっこがしたいって結論づけたなら、おれも翼もめぐを諦めるしかない。なに、めぐが友だちとして会ってくれるならちっとも寂しいことはないよ。それに、翼だっていいやつなんだ、あいつが本気を出せばすぐに似合いの人が見つかるだろうさ」

すねてしまうのは簡単だった。でも今ならそれが幼稚な態度だとわかる。わたしは今までのように拗ねることも言い返すこともできず、ただただ黙ることしかできなかった。


(続きはこちら(#9)から読めます!)



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