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【連載小説】第二部 #3「あっとほーむ ~幸せに続く道~」真夏の夜の夢

前回のお話(#2)はこちら

前回のお話:
悠斗と翼に愛されたいと願うめぐの話を聞いていた父親の彰博は、ついにめぐの思いを受け容れ「三人暮らし」を許可する。そしてめぐが十八歳の誕生日を迎えたその日から悠斗の家での「三人暮らし」がスタートした。親の目がなくなり、念願の生活が始まったことでテンションの高いめぐは、布団に寝転ぶなり二人を誘うが……。

<翼>

 俺と目を合わせた悠斗は「困った子だよな」と言いたげな様子だった。が、俺の方はこのチャンスを逃したくなくて、躊躇うことなく傍らに寄り添う。俺が応じたことが嬉しいのか、めぐちゃんは満面の笑みを浮かべている。

「きゃっ♡ ドキドキするね」

「うん……。このまま食べちゃいたいよ……」

 いつもだってこんなふうに見つめ合っているのに、悠斗の家、しかも布団の上って言うだけで胸の高鳴りが半端ない。今言った言葉のままにキスしてしまおうかと思ったとき、めぐちゃんは「悠くんも来て!」と振り返ってしまった。

「……本当に贅沢な女だ。好きな男二人に挟まれて寝られるんだからなぁ」

 悠斗はそう言ってようやくそばに寄り添い、めぐちゃんの頭を撫ではじめた。愛おしそうに見つめる姿は父親そのものだったが、その様子を見ていたら段々「よしよし」されているめぐちゃんが羨ましく思えてきた。やっぱり悠斗はいい男だ。

「悠斗ぉ……。俺にもそんなふうに優しくしてくれよぉ。めぐちゃんだけ、ずるいじゃないか」

「はぁ……?」
 悠斗は完全に呆れている。
「お前の中の『赤ちゃん』はとっくに癒やしてやっただろ?」

「それとこれは別。悠斗は男も惚れる男。俺だってあんたには優しくされたいんだよ。なぁ、頼むよ」

 ごねていると「しゃーねーなぁ」と言いつつも俺の方へぐっと腕を伸ばす。

「せっかく三人きりの楽しい夜が待ってると思ったら、今日から始まるのは子守りかよ? つれえなぁ……」

 愚痴をこぼしながらも彼はちゃんと俺の頭を撫でてくれる。さすがは悠斗。頼れる父であり、兄であり、友人はひと味違う。

「ありがと、悠斗。大好きだよー!」
 感謝の気持ちを込めてめぐちゃんごと抱く。

「翼くんったら、暑いし苦しいよぉ……」

 めぐちゃんが悲鳴を上げる。冷房のついていない部屋で男二人に挟まれているのだから無理もない。けれども、汗まみれのめぐちゃんの肌感はだかんと匂いが俺を興奮させるのも事実。

(やばっ……。)
 とっさに悠斗のシャツを掴む。

(頼む、俺が本能的な行動に走る前に止めてくれ……。)
 ところが期待に反し、彼の口から妙な言葉が飛び出したもんだからますます高揚してしまう。

「めぐ、諦めろ。これはお前が望んだ現実だ。熱い体温が直に重なり合ったらどうなるか……。体験してみるか……?」

 そういうなり、悠斗はむくりと起き上がって着ていたTシャツを脱ぎ始めた。めぐちゃんは慌てて目を逸らした。俺も動揺して起き上がる。

「悠斗、いったい何を……」

「翼、お前も脱げ」

「うえっ?! で、でも……」
 妙な気分の時にそんなことを言われて頭がパニックに陥る。まさか、悠斗もその気になっちゃったの……? 口ではああ言ってたのに、いざとなったらやっぱり……?

 めぐちゃんも同じことを思ったのだろう、戸惑いを顕わにする。
「ゆ、悠くん……? 誘ってくれるのは嬉しいけど……。そ、その前にシャワーを……」

 めぐちゃんが赤面して、もじもじし始める。その様子を見た悠斗は、にんまり笑った。
「かっわいいなぁ、めぐは。何を期待してんだか」

「へ……?」

「あのな。おれたち、夏場は上半身裸で寝るんだ。それを受け容れろって話だったんだけど? もしかして、イヤらしい想像でもした?」

「……もぉっ! 悠くんのいじわるぅー!」
 耳まで真っ赤になっためぐちゃんは枕に顔をうずめた。

「作戦大成功~!」
 悠斗はそう言うと俺に向かってピースサインを出したのだった。

◇◇◇

「……俺まで引っかかったわー」
 めぐちゃんがシャワーを浴びている間、悠斗と二人きりになったところで正直に告白する。

「本当に抱き合うのかと思ってドキドキしちゃったよ」
 ちょっと冗談っぽく言ったつもりだった。が、彼は真面目くさった顔で俺の肩を抱き、耳打ちをする。

「……あのくらいのおかしなテンションじゃないと、こっちもやってられなかったんだよ。……三人で寝るのを楽しみにはしてたけど、想像以上にやべーな……」

 彼の心中を知ってほっとする。
「悠斗もそうだったんだ」

「ああ……。でもその前にお前がこらえてるのに気がついて、これは笑い飛ばさないとダメだなって」

「おかげで助かったよ。ほんと、ありがとう」
 やっぱり悠斗と俺とでは経験値が違う、と思わされる。彼は続ける。

「……めぐは本当に魅力的な女だ。だからこそ、おれたち二人で大事にしていきたい」

「うん、それはもちろん」

「お前ならそう言ってくれると思ったよ。……そこで提案なんだが、三人で寝るのは今日だけにしないか? 毎晩これじゃ、身が保ちそうにない」

「……うん、それがベストだよ。ちょっと残念ではあるけど、これが三人暮らしの実情だよな」

 事を進めるのはたやすい。けれど俺たちは大人だ、これまで築き上げてきた関係を一晩で壊すようなことはしたくはないし、しちゃいけない。

 俺の答えを聞いた悠斗はうなずく。
「よかった。そのかわりと言っちゃあなんだけど……。明日からはまた一緒に寝よう。これまで通り、二人でさ」

「えっ?!」
 驚きのあまり声が裏返る。
「そ、そりゃあいいけど、俺でいいの?」

「……お前が隣に寝てないと安心して眠れない体質になっちゃったっぽいんだよ。だから、よろしく」

「えー……? てーことは、いつか悠斗からお誘いが……?」
 ちょっとドキドキしながら聞く。

「そうだな……。お前がどうしてもめぐを抱きたくなったら、そのときは代わりに抱かれてやってもいいよ」

 当然否定されるもんだと思ったのに、意外にもオーケーが出たので、またしても妙な妄想が渦巻く。

「ほんとに?! なら、早速今夜、めぐちゃんが寝たあとにでも……」

「おいおい、今日は三人の夜を楽しむんじゃなかったのか? お前とは明日な」
 どこまで本気か冗談か。今日の悠斗はいつもと違う。

(俺が浮かれているように、悠斗も浮かれているのかな。それを、彼なりにコントロールしようとしているのかな……。)

 めぐちゃんと二人きりだったらきっと羽目を外していたに違いない。でも俺たちには悠斗がいる。そして悠斗も、俺がいるから冷静でいられるんだろうなって思う。これが三人で暮らすと言うこと。俺はこの、進みそうで進まない、じれったい三角関係が本当に気に入っている。

「ねぇ、二人とも、脱衣所の外にいるの?」
 シャワーを済ませたらしいめぐちゃんの声が風呂場から聞こえた。

「ああ、いるよ」
 悠斗が返事をすると、めぐちゃんがとんでもないことを言い出す。

「ごめーん。着替えをここに持ってくるの、忘れちゃった。悪いんだけど、わたしの手持ちのバッグの中から下着をひと組、持ってきてくれない?」

「それを俺たちに頼みますか……」
「やれやれ、もうちょっと恥じらいを持って欲しいものだな……」
 俺と悠斗は顔を見合わせて笑い合った。

◇◇◇

 めぐちゃんに続いて悠斗と俺が順番にシャワーを浴びる。こざっぱりしたあとで冷房の効いた寝室に入る時というのは、どうしてこうも心地いいんだろう。実家でもアキ兄の家でも悠斗の家でも、それだけは変わらない。

 気持ちがいいからって、悠斗は本当に普段通り上半身裸のまま布団の上で大の字になっている。身体に自信のある男は行動が大胆だ。

 かくいう俺は、貧相な身体をさらしたくなくてTシャツを一枚着ている。そうでなくても三人で寝る以上、何かしら身につけていないと落ち着かない。

「歯磨きも済んだし、寝ようかなぁ。なんだかんだ言って、引っ越し作業も疲れたしねー」
 めぐちゃんがあくびをしながら横になった。

「そうだね。じゃあ照明を落とすよ。……悠斗も寝る?」

「ああ……」

 今にも寝てしまいそうな返事を聞いて、部屋の電気を消す。枕元の小さなランプの明かりだけになると俺もまぶたが重くなった。自分の布団に寝転ぶ。ほっと一息ついた途端、睡魔に襲われる……。

* * *

「……翼くん、まだ起きてる?」
 ウトウトしていると、隣で横になっているめぐちゃんがぽつりと言った。

「……眠れないの?」

「……そりゃあ、待ちに待った日の夜だもん。テンションは高いよねー」

 そういうなり、めぐちゃんが俺の布団に転がってきた。あまりにも大胆な行動だったから悠斗が何か言うかもしれないと、奥の布団に目をやる。しかし彼は上半身裸のまま、何も掛けずに眠ってしまったようだ。

「悠斗は寝てるみたい。……安心してるのかな。実家に戻ってきて」

「そうかもしれないね。このまま寝かしてあげよう」

 二人で顔を見合わせ、小声で会話する。何だか、親が寝てしまったあとで起き出した子どが、親の目を盗んで普段はできないことをしてやろうと考えているような気分。

 めぐちゃんもそう思っているようだ。俺を見つめる目は、何かを企んでいる、いたずらっ子の目だ。

「……キスしていい?」
 めぐちゃんがささやきながら迫ってきた。俺は悠斗をチラリと見てから、ゴクリとツバを飲み込む。

「……今日は……キスだけだよ? それ以上は……ダメだ……。俺が……おかしくなっちゃう……。三人の関係が……壊れちゃう……」

「……うん。分かってる。だから……ちょっとだけ……」

 対面したまま顔を寄せるめぐちゃんと唇が重なる。めぐちゃんの、シャワーを浴びたあとの濡れた髪に指を絡めて引き寄せる。普段より熱い息を吐きながら、互いの舌を探りながらキスを繰り返す……。

(ああ、もう、だめだっ……。)
 めぐちゃんの上に身体を載せる。意識が朦朧として、もう自分が何をしているのかも分からない。

「翼くんのこと、もっと知りたい……」
 しかしめぐちゃんは嫌がるどころか、俺の中の悪魔を突き動かそうとするかのようにささやく。誘われて、心が揺らぐ。

「俺だって知って欲しいし、知りたいよ……」

「じゃあ……。悠くんには内緒で……」

 めぐちゃんは微笑んで起き上がり、自身の着ているネグリジェのボタンに指を掛けた。一つ、二つ、三つと外されていくにつれ、胸元が顕わになっていく。なかなか外れない四つ目のボタンを外すのに手を貸したら、ネグリジェが肩から滑り落ちてブラ一枚になってしまった。

「……綺麗だよ、めぐちゃん」

 豊かな胸に顔を埋め、高鳴る心臓の音を感じる。いや、これは俺の心臓の音かもしれない。とにかく、お互いに緊張しているのが分かる。

 涼しいはずの部屋にいるのに汗が出る。Tシャツを脱ぐ。そしてそのままめぐちゃんの背に腕を回して、汗ばむ身体をぴったりとくっ付ける。

「愛してる」

「うん、わたしも」
 再び見つめ合い、唇を重ねながらブラのホックを外す。ついに彼女の美しい裸体を目にすることができる……。

 期待に胸を膨らませたその瞬間、目の前の裸体がなぜか悠斗にすり替わった。えっ? と思う間もなく彼の低い声が響く。

「殺してやる……! お前の中の『暴れ馬』を……!」
 大きな両手が俺の首を絞める。く、苦しい……。どうしてこんなことに……。

* * *

「この野郎……! 早く目ぇ覚ませっ……!」

 ハッとして目を開ける。そこにはやっぱり悠斗の顔があって俺は首を絞められているが、辺りは明るい。

(ゆ、夢……?)

「お、起きたからっ……! 首を絞めんのはやめてくれっ……!」
 慌てて声を出す。悠斗はようやく力を緩め、俺から離れた。
「ったく……。起こすならもうちょっと優しくしてくれよなぁ……」

「はぁ? その台詞、そっくりそのまま返してやるよ」

「え?」

「どんだけエロい夢見てたのか知らねえけど、俺をめぐだと思って抱くのはやめてくれよなぁ」
 夢の内容を言い当てられて困惑する。追及されては困ると思って慌てて話題を変える。

「……っていうか、なんで悠斗が隣に? 俺たちの間にはめぐちゃんが寝てたはずだろ?」

「……寝相の悪いめぐがおれの方に転がってきて目が覚めちまってな。仕方なくお前の近くで寝直したら、こっちはこっちで抱きついて来やがる。……おかげで眠いったらありゃしない」
 悠斗はわざとらしくあくびをした。

「……そういえば、めぐちゃんの姿が見えないけど?」

「もう起きてるみたいだぜ? いい匂いがするだろう?」

「もしかして、食事の支度を……?」
 幸せな夢を見られたうえに朝食付きとは……。なんて贅沢な朝だろう。幸福感に浸っていると悠斗に小突かれる。

「夢の続きを妄想してんじゃねえよ。三人暮らしを機に、お前はエネルギーの発散方法を見つけるべきだ。性欲が暴走するのは困るだろ、お互いに」

「……そういう悠斗はどうなんだよぉ?」

「おれには水泳があるから。結構発散できるぜ? お前も始める?」

「うー……」
 コントロールできていないのは俺だけか……。反論できない自分が情けない。だけど悠斗は優しい言葉をかけてくれる。

「……まぁお前は若いし、それでいいと思うよ。ただなぁ、今日からまた男二人で寝ることを考えると、毎晩抱かれるのはつれえなって。ま、おれはいい男だから、お前が抱きたくなる気持ちも分かるんだけどさ」

 男の俺が寝ぼけて抱いてもこの対応である。これが鈴宮悠斗の優しさ。本当に頭が下がる。

「ごめん……」

「謝るのはよせ。そんなのは織り込み済みだ。気にするくらいなら三人でなんか暮らさねえよ」

「さすがは悠斗。……本当にありがとう」

「そう、それでいい。……んじゃ、朝飯にするか」

「だね」
 気持ちが落ち着き、ようやく笑顔が作れた。悠斗も笑う。そしてちょうどその時めぐちゃんから声がかかる。

「ごはんできたよー!」


(続きはこちら(#4)から読めます)


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