君のことで夢を見ていたい~天国の君へ。
雪混じりの雨の降る週末、ひとりで街に出た。
たくさんの開いた傘で賑わう交差点、歩行者天国。
そのスクランブルの一角にあるスタバの開けた大きなウィンドウに、交差点内を行き交う人達の姿と店内に座る人達が重なって映っている。まるで夢と現実のはざまの流れのように思えた。
もしもあのとき、ふたりして違う決断をしていたら……と思うと、もしかしたら今ごろは君と一緒に夢を選ぶように楽しい毎日を過ごしていたのだろうか? あのウィンドウに見える別々の光景のどれかが、自分の見たかった夢のように。
私は透明人間なのだろうか?……私はちゃんと存在してますか? すれ違う人に確認してみたくなる。なんだか私だけがこの世に参加していないみたいに、虚ろな気持ちでスクランブル交差点を歩いている。
みぞれ混じりの濡れた路面を歩きながら、もう会うことのできない君を想う。また明日会えるかのような夢を見るように……
そして、その切なさに押しつぶされそうにもなる。
それでもやっぱり君の微笑む表情を思い出すと、胸の奥で春の木漏れ日が気持ち良く揺れているような感じを覚える。
ついさっき立っていた場所とは反対側の角にたどり着き、濡れた傘を閉じて雨が止むのを茫として待つ。
ふと昔の思い出がよみがえる……
学生だった頃、明日のことでよく夜に電話をした。どこで待ち合わせるだとか、どんな服を着ていくだとか、何食べるだとか。今日あったことを細かく話したりもして、親が近くで聞き耳を立てているなかで、長電話をしたり。今みたくLINEとかメールなんてものがなかったから、話す内容も慎重に選んだりして。
だからなんだろうな……《明日を夢見る》なんていう表現が成り立っていた気がする。電話の中の君の声を聴くと明日が夢のようにも感じられた。
カチャンと受話器を静かに置く音。目が覚める。
というよりも、つかの間の温もりから肌寒い感覚に引き戻された。冷たい風が頬を叩く。交差点を行き来する人達で賑わう街の音がフェードインするように小さな音から入ってきた。あとは夢やら現やら。心の中で憂うように微かな笑みを作る。
できるものならもう一度、あの頃のように君を近くに感じながら、君のことで夢を見ていたいと思った。
天国の君に捧ぐ。
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