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散文【光】


ぼくは昔、人間関係のトラブルで仕事を辞めたんだ。

幸いすぐに次の仕事が見つかってね。

でも辞めた直後はひどく落ちこんでた。

そんな時に、なんとなく目について買ってきたのが千ピースのジグソーパズル。

完成したら壁に飾ろうと思っていたからフレームも買ってきたんだ。

どんな絵かって? 

バベルの塔さ。

もちろん完成させたよ。

一ピースでも足りなかったら絶望しただろうね。ただでさえ人間不信に陥っていたから。

だからそんな時くらいは、自分の見たいものだけを見るようにした。

見たくないものは見ない。



ぼくはテレビを観ない人なんだ。

そもそも部屋にテレビは無い。

テレビなんて嘘やネガティブな情報ばかり流す洗脳装置みたいなものだとぼくは思っているからね。

たんに昔と比べておもしろい番組が少なくなったってのもある。

昔はかじりついて観ていたのにね。

何が好きだったかって?

ぼくが好きだったのは映画やアニメ、それにサバイバル系かな。

一番記憶に残っているのは、アイドルがわずかな水と食糧だけで、外国の砂漠や密林、それに氷の大地なんかを目的地に向かって旅するやつさ。

サバイバルのプロがやってもおもしろくない。素人がやるからおもしろいんだ。



そうそう、ジグソーパズルのバベルの塔は確かに完成させた。

でもぼくが今登っている塔は、どこに続いているのかも、その頂上からどんな景色が見えるのかも分からない。

なぜなら今も建設中だからさ。


ぼくはどちらかというとインドアな人間だけど、最近は少しだけキャンプに興味が湧いてきたんだ。

ちなみに世の中が混沌としてくるとキャンパーが増えるらしい。

なんとなく分かる気がするよ。



ぼくは家に居る時は小説を書いていることが多い。

物語を創るのが好きなのさ。

ありがたいことにファンもいるんだ。

だから続けられる。


ぼくはバベルの塔には興味があるけど、神さまなんて信じていない。

信じているのは自分自身だ。

もし神さまがいるとしたら、それはぼくや君の心の中。


君も気づいていると思うけど、ぼくらの登っている塔は傾いているんだ。

ピサの斜塔みたいにね。おもりで倒れないように押さえてる。

そう、この国は傾いている。いや沈みかけているんだ。

つまりこれからの時代は生きているだけでサバイバルさ。

おもしろくなってきたね。

君はどうする?

ぼくはね、ワクワクするんだ。

なぜかって?

ほら、暗い夜道で家の明かりが目立つように、暗い場所から明るい場所はよく見えるだろ?

つまり暗く混沌とした世界では、ふだんは気にもとめないような小さな光の大切さがよく分かる。その美しさもね。


これから先はもっと暗くなるだろう。

そんな時、ぼくの創る物語が無数にある小さな光の一つとなって夜道を照らせたなら、ぼくは自分のやってきたことを後悔せずにすむ。

もしも君の周りが暗くて何も見えなくなったとしても、ぼくはいつも同じ名前で夜道を照らしているよ。

君のために、そしてぼく自身のために。


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