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SS【断罪者の天秤】
若い頃は悪さばかりしていた男。
周囲に迷惑をかけることが多かった。
しかし子どもができ、家庭を築いてからは少しずつ本来の情の厚さを取り戻していった。
自分がさんざん苦しめられた家庭環境や悪い人間関係。それを自分のこどもには背負ってほしくないと思ったのかもしれない。
ある日、公園で息子とキャッチボールしていると。息子の投げたボールが近くのベンチに座っていた男に当たった。
男が駆け寄り、謝っても返事は無い。
その男は黙々と取り憑かれたように、薄汚れた小さな布の切れはしで何かを磨いている。
よく見るとそれは銅でできた天秤だった。
翌日も子どもを連れて公園に来たが、天秤を持った男の姿はなかった。
数日後、交通事故に巻き込まれ病院へ運ばれた男。
気がつくと目の前には果てしなく続く魂の列。
最前列の先には人が乗れるほど大きな銅の天秤と大きさの違う無数のオモリ。そして公園で見た例の男。
ようやくぼくの順番が回ってきた。
「ああ、君か。君に会った時は休暇をとっていてね。私はああしてたまに現世に行くのさ。いい気分転換になる。こうして毎日罪人の罪の重さを計って行き先を振り分けているからね」
男は話を続けた。
「そもそもここに来る者は罪人ばかりだ。行き先はほぼ奈落と決まっている。ただ奈落も階層に分かれていてね、みんな同じ場所へ放り込むわけにはいかない。罪の重さによって振り分けているのさ。それが断罪者である私の仕事だ。ちなみにあの時、私の姿が見えていたのは君だけだったよ。死が迫っていたからだろうね」
どうやら男はここで、順番の回ってきた人間を次々にハカリに乗せているようだ。
ハカリに乗った人間に釣り合いそうなオモリを乗せ、バランスをとってその人間の罪の重さを計っているらしい。
重さによって送る場所を振り分けているのだ
男は黙ってハカリに乗った。魂の状態は無防備で、肉体がある時のように逃げることも暴れることもできない。
そうしたところでたちまち拘束されるだろう。
なぜなら最後尾が見えないほどの人間たち全員と、目の前で天秤を使っているたった一人の男とでは、天と地ほどの力の差があるのだ。それは理屈ではなく、感覚として男にも、並んでいる他の人間たちにも感じとれているに違いない。
一番小さなオモリと釣り合った男に対し、断罪者は言った。
「良い行いと悪い行いがそれぞれ積み重なり、最終的にどちらに傾くかは生き方しだいだ。悪い行いが消えることはないが、どちらに傾くかは本人が決める。おや? 君がここに来るのはまだ早いようだ。来た道を戻るといい。今の生き方なら、もうここに来ることはないだろう。気をつけて行きなさい」
男が来た道を戻り始めると、どこからか男を呼ぶ声が聞こえる。
ー そこで世界は切り替わった ー
遠くから聞こえる妻と息子の叫びに、男は意識を取り戻した。
終
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