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「変えたいのは、無関心でいられてきた人たちの意識」性にまつわるモヤモヤを読み解く漫画をSNSで発信

メディア「マンガでわかるLGBTQ+『パレットーク』」を運営する、株式会社TEIWA(タイワ)。社名は「対話」からきており、社会・ユーザー・仲間との対話を通じて、「らしく生きる人」のための新しい選択肢と、それを尊重する社会の実現を目指している。代表の合田文(ごうだ・あや)さんにお話を伺ってきた。

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「自分がやるべき仕事だと思った」副業で始めたジェンダー・セクシュアリティに関する情報発信を本業に

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(マンガでわかるLGBTQ+ 「パレットーク」Instagramのタイムラインより抜粋)

- 株式会社TIEWAの事業内容を教えてください。

「『らしく生きる』をもっと選びやすく」という理念のもと、メディア事業、講演・コンサル事業、そしてアプリ事業をしています。

メディア事業では、個人の体験をベースにした、性にまつわるモヤモヤを読み解く漫画を各種SNS(*)で発信しています。

講演やコンサル業では、「無意識の偏見とダイバーシティ」をテーマに、LGBT+の方を意識した商品づくりやマーケティング、心理的安全性を確保できる職場作りなどのサポートをしています。

アプリ事業では、ゲイおよびバイセクシュアルの男性向けマッチングアプリAMBIRD(アンバード)の運営をしています。当事者の声を聴き、類似アプリでは得づらかった安全性や内面性を重視した出会いの機会を提供しています。

*Twitter(6.6万人)、Instagram(4.7万人)、note(5,000人)など。( )内の数字は2021年8月時点でのフォロワー数。

ー どのような経緯で、株式会社TIEWAを立ち上げたのでしょうか?

もともと副業でジェンダーやセクシュアリティについて発信する仕事をしていたのですが、副業先から事業責任者のポジションを打診され、引き受けることを決めました。当時勤めていた企業を退職して転職したのですが、転職先の企業が解体されることになってしまって。幸いメディア事業だけは存続することになり、いまのTIEWAの土台となっています。

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(「パレットーク」編集部のメンバーたち。週1回お茶会と称して雑談する時間を設け、メンバーとの相互理解に努めている)

ー 勤めていた企業を退職して、ジェンダーとセクシュアリティについて発信する仕事を本業にしようと決めた理由を聞かせてもらえますか?

前職ではビジネス系SNSサービスの企業で働いていたのですが、そのとき耳にした代表の方の言葉がとても印象的だったんですね。「個人が生き生きと働くことができれば、企業も成長できるし、社会全体が元気になる」というような趣旨でした。

その後、LGBTQ+にフレンドリーな企業への転職支援イベントを担当する機会がありました。イベントへの反響がとても大きくて、そうした場を求めている方々が沢山いることを知りました。

個人が生き生きと働くためには、職場での信頼関係や心理的安全性が欠かせません。それなのに、本来の自分を隠して働かざるを得ず、悩みや苦しさを抱えている人たちがこんなにもいる。

学生時代からジェンダーやセクシュアリティに関心を持って学んできたこともあり、自分がやるべき仕事だと思いました。

アプローチしたいのは「ジェンダーやセクシュアリティに無意識・無関心でいられる大多数の人たち」だからこそ、SNS×漫画がいい

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(「パレットーク」「レズビアンの私がタクシーで経験したこと」より抜粋。レズビアンの女性がたまたま乗ったタクシーで運転手さんからの差別的な発言に遭遇した出来事についての作品)

ー「パレットーク」はどのようなメディアなのでしょうか?なぜSNSで漫画という形を選ばれたのでしょうか?

「パレットーク」ではジェンダーやセクシュアリティにまつわるモヤモヤを、一個人の経験として漫画で発信しています。

わたしたちが「パレットーク」のコンテンツを1番届けたいのは、ジェンダーやセクシュアリティについて、なんだか難しそうだなとか、自分とは関係ないと思っているような人たちなんです。たまたまマジョリティ側に属していたことで、そう思えてこれた人たち、といってもいいかもしれません。

だからこそ、受動的なメディアであるSNSと漫画の組み合わせがぴったりなんですよね。

SNSでは、自分から積極的に調べたり探そうとしなくても、タイムラインには常にいろいろな情報が流れてきますよね。なかでもコミックエッセイはとても人気があって、扱われているテーマに関心がなくても、ついついみちゃうってなりやすい。

受動的に情報を受けとりつづけることで、徐々に受けとり手の意識が変わっていく。もともとは自分ごととして捉えてなかったり、関係ないと思っていても、あるときふとそれまで受け流してきた違和感に気づいたり、周りにも(漫画で描かれているような)こういう人がいるのかもしれないと想像できるようになったり。そのような変化が起きるきっかけを「パレットーク」がつくれたら。

ー 最近ではどのような作品の反響が大きかったのでしょうか?

大人との恋愛に憧れていた14歳の私と、性的同意年齢」と「LGBT法案の見送りで一人のゲイが思ったこと」でしょうか。社会構造や時事問題に関係するコンテンツへの反応が大きいですね。

2018年5月からメディア運営を続けてきましたが、「LGBTQ+?そういう人たちもいるよね」から、「多様なセクシュアリティをもつ人たちとどう一緒に生きていくのか」「自分たちの性のあり方ってどうなんだろう」というようなところまで、受け取り手の意識が変わってきているように感じています。

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(「パレットーク」「LGBT法案の見送りで一人のゲイが思ったこと」より抜粋)

ー とはいえ、ジェンダーやセクシュアリティをめぐる差別的な発言が話題になることもまだまだ多いですが、どう受けとめていますか?

怒ってますよ、もちろん。

わたしがこの活動を始めた頃、そうした発言を耳にしたときは、かならずしもその発言者だけが悪いわけじゃない、その人がそういう思想を持つに至った社会に問題がある、と考えようとしました。

でも、さすがにこうも繰り返されるとね…。ただ、怒っているし、怒る人がいて当然なんですが、その怒りをストレートに表すのではなく、クリエイティブに出していくことをやっていきたいですね。

わたしたちの目的は社会を変えることで、そのために、社会のマジョリティである無関心層の意識を変えていきたい。どうやったらそれを実現できるかを常に考えています。

「次世代へのロールモデルを作りたい」社会課題解決とビジネスの両立へのこだわり

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ー 社会課題の解決にはいろいろな手法があるかと思いますが、営利法人という形態を選んでいる理由はありますか?

お話したように、もともとそうだったという経緯があるのですが、社会課題を解決しながらビジネスとしても成立させる、ということにはこだわっています。

営利法人として利益を出して、きちんとした報酬を出して、一流の人材を雇う。それができれば、社会課題へのコミットが動機ではない人にも、会社にジョインしてもらえることになりますよね。そうすれば、結果として、その課題の解決に尽力する人数が増える、ということにつながります。

ジェンダーやセクシュアリティに関わりがない人はいません。本当は、全員が当事者。だから、無意識でいられてきた人たちにもじわじわ働きかけていって、みんなで考える社会課題というふうにしていきたいですね。

次世代へのロールモデルを作りたい、というのもあります。社会課題を解決しつつ、利益を出し、雇用をつくり、事業を成り立たせる。そうした企業への就職や、事業を作り出すこと自体も、一般的な就職と同じように、選べる選択肢にしていきたいですね。

ー 今後の展開について、教えてください。

教育事業に興味があります。いまSNSでやっていることを学校でやったり、教師になる人たちへもアプローチしていきたいですね。

わたし自身の経験ですが、リベラルな家庭で育ち、女子校に通っていたためか、高校卒業まではほとんど性差を意識することがありませんでした。ですが、大学に入った途端、急に女性性を意識させられるような機会に遭遇するようになり、すごく驚いたんですよね。

小中高時代は大半の時間を学校で過ごし、接する相手も限られています。だからこそ、そのとき属している環境が与える影響ってとても大きいと思います。

先日母校の先生から連絡を受けて、在校生向けに自分のキャリア変遷をお話しする機会がありました。とても嬉しかったですね。こうしたことを含め、教育にはぜひ関わっていきたいです。

教育課程の前段階へのアプローチという意味で、児童書の製作にも取り組んでみたいです。いまはジェンダーやセクシュアリティを学べる絵本も翻訳書で出てきてはいるのですが、日本社会の文脈に沿っているほうが子供たちにも届きやすいと思うんですよね。

将来的には、投資家になりたいです。社会課題に取り組むスタートアップを対象にした、ベンチャーキャピタルを立ち上げたいですね。わたしたちに投資してくれた方たちのように、今度はわたしたちが次世代をサポートしていきたい。

ー 最後に、社会問題解決のために奮闘しているアジアの社会イノベーターたちにメッセージをお願いします。

ほかのアジア諸国でどんな取り組みがあるのか、ぜひ知りたいです。表面的には異なる事情もあるけれど、掘っていったら共通の課題があると思うんですよね。お互いの事例を共有しながら、課題解決に向けて一緒に取り組んでいけたら嬉しいですね。

<写真提供> 株式会社TIEWA

◎株式会社TIEWA:公式サイト

◎マンガでわかるLGBTQ+「パレットーク」:TwitterInstagramnote

このインタビューシリーズでは、アジア各地で社会課題解決に取り組む人々の声や生き方をお届けします。以下の記事も合わせてどうぞ!


著者:森川裕美(もりかわゆみ)。ソウル在住6年。通訳案内士(英語)/ライター。小6の母。本が大好きで、1年で150冊前後読みます。コロナ禍でランニングを始め、ラジオを聴きながら漢江沿いを走っています。
発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
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