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次世代の子どもたちが生きていく「新しい時代の常識」をキュレーションするタッタグリ

「トゥルルットゥル」という軽快な言葉が繰り返される、ピンキッツ(訳註:韓国発グローバル幼児教育ブランド)制作の童謡「サメのかぞく」は、いまや世界中の子どもたちが一緒に歌う童謡になった。「きれい」なママザメ、「つよいぞ」パパザメ、そして「かわいい」ちびザメという三サメ家族は、子どもたちに、ママやパパを修飾する言葉が何なのかをこっそり教えてくれる。ところで、この童謡「サメのかぞく」に表れる性差別的な歌詞が、アジアでしか通用しない事実を、多くの人はお分かりだろうか?消費者たちの要求からジェンダーレスな表現に翻訳された英語詞とは違い、日本語および中国語詞は依然として「つよいぞ パパザメ」「きれい ママザメ」と、そのまま翻訳されている状態である。

メディアから国境が無くなり、コンテンツを世界中の人々で一緒に消費する今だから、乳幼児対象のコンテンツに対する新たな視点を、私たちはともに考えていかなければならない。そこで今回は、乳幼児向けコンテンツのキュレーションと制作をする「タッタグリ(訳註:韓国語で、キツツキの意)」のユ・ジウン代表にお会いした。

*この記事は、韓国語記事からの翻訳記事です。(韓国語は、こちらから。)

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- こんにちは!タッタグリについてご紹介をお願いします。

タッタグリは、現在は乳幼児向けコンテンツを制作し、キュレーションする事業を行っています。タッタグリ独自のガイドラインに即した乳幼児向けコンテンツをキュレーションし、自分たちでコンテンツを制作して提供するサービスを運営しています。

<ブッククラブ・ウタタ>は、良質な絵本をテーマ別にキュレーションし、子育てガイドやワークブックと一緒に提供するサービスです。<ウタタプレイ>というサービスは、おもちゃや遊び場を提供しています。私たちのガイドラインを通過した、キュレーションできるおもちゃがなく、おもちゃは手作りです。紙人形や、様々な職業がわかるハングルのポスターなどがあります。

現在準備中のサービスは、「ウタタメディア」です。子どもたちにとって有害ではない、正しい認識を与えられるメディアコンテンツをキュレーションして提供します。また、子どもたちの成長度合いに合わせて伝えたいメッセージがある時に、それに相応しいコンテンツがない場合、私たちで制作して提供するといったサービスです。

「ウタタ」という言葉は、タッタグリ(キツツキ)が木をつつく時の擬音語です。堅固な世界をつついていく役割を、私たちタッタグリが担っているのです。 私たちの社名が「ウタタ」だと思っている方も多いんですよ。(笑)

- <ウタタ・ブッククラブ>は、タッタグリのガイドラインをもって絵本をキュレーションしているとおっしゃいましたが、韓国の絵本はいかがですか?基準を満たしていますか?

海外の絵本が主にキュレーションされるのは、惜しい点でもあります。ただ、国内の絵本が良くない!というよりは、私たち独自のガイドラインに適合する本自体が多くないのです。最近では少しずつ増えつつありますが、とにかく冊数が足りていない状況です。

- 映画のジェンダーバイアス測定に用いられるベクデルテストを参考にしてガイドラインを作成されたとお聞きしましたが、本当ですか?

はい、ベクデルテストも参考にしながら独自のガイドラインを作成しました。コンテンツの内容のみならず、絵本の挿絵や翻訳された言葉遣いなども、重要視している部分です。 

 例えば、元気な女の子が森を冒険する絵本があるとします。この女の子を描く時、どういった考えを巡らし、想像をしながら描いたのかを見るのです。森の冒険が好きな元気な子どもが、森に行くのにスカートを履いて行くこともあるかもしれませんが、スカートを履いた女の子が登場する絵本は山ほどあるのに、どうしてもスカートを履かせなきゃダメなのか?このような視点も持ちながら、絵本を注意深く読みます。

または、絵本の中で、当然のように母親が育児を担う設定だったり、多様な人種や体型の登場人物が出てこなかったり、そういうのも選別のポイントですね。韓国はいまだに多様性が社会のスタンダードになり得ていない段階です。アメリカやヨーロッパに行けば、人種の多様性は今や非常に基本的なイシューの一つじゃないですか。ですから、しっかりとそういうことが反映されているのだと考えます。

最近では、作家や編集者の方々が、このような変化をかなり認識されていると考えます。私たちが事業を始めたのが2019年で、まだ2年しか経っていないのにもかかわらず、その間にも多くの変化があり、良質な本が2020年には本当に多く出版されました。

- <ウタタ・ブッククラブ>のもう一つの特徴は何でしょうか?

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(左:タッタグリのウタタ・ブッククラブが独自開発した「読後活動ワークブック」、右:1つのテーマにつき、2冊の絵本と1冊のワークブックで構成されている。)

読書活動時に活用できるワークブックを一緒にお送りするのですが、これは私たちの手作りなんです。子どもたちに向けた内容だけでなく、読書後に子どもと会話する時に、保護者に役立つ内容も含まれているんです。本を読んで、自分の子どもと対話をすることって、簡単そうに思えますが、そうではないのです。また保護者の側も、気づかず内在していた差別的観点に気づくことがあるかもしれません。

- 子どもたちのために良い絵本をキュレーションするのに、その決定権は保護者が持っているということ、保護者を説得しなければならないという点が難しいポイントとなってきますね。「男女平等」は当然のことなのに、偏った見方をされて攻撃を受けたりもするじゃないですか。

はい、その通りです。そして保護者がどう考えているのか、保護者の価値観が非常に重要な部分です。保護者がダイバーシティ教育の必要性に共感しなければ、保護者を説得しなければなりません。また、私たちのサービスを購読してくださる方々は、ある程度関心があって始めてくださるかと思いますが、少し歪曲された見方をされはじめると、利用者の方々までも、「そうなの?」と混乱が生じる場合があります。そして保護者も人間なので、自らを正すことは簡単なことではないでしょう。

- 例えばどんな事例がありますか?

私たちが制作した絵本の中に、遊び場で元気な女の子がボール遊びをし、男の子がおままごとをする挿絵を入れたことがあります。この絵本をご覧になったある方から「なんで男の子なのに、まるであべこべな表現をするんだ?」という質問を受けたのです。でもこれはあべこべなのではなく、各々自分がしたい遊びをしているという描写なんですよ。女の子もボールで遊びたい時だってあるし、男の子もこまごまとした遊びをしたい時だってあるのに、遊びに性別は関係ないという認識がされず、大人の心の中で価値判断がなされるのです。

また、私が講義をする際には、保護者の方々に「SNSは非公開にして、子供の写真も投稿しすぎないように」という話を必ずします。誰かが自分の同意なく自分を撮り、それを不特定多数の人が見られる状況にする/される経験が、子どもたちにとっては至極当たり前になりつつありますが、この点に関しても考えてみなければならないのです。「他人の写真を無闇に撮るのはいけないことだ。それは犯罪になってしまう恐れがある。」という当たり前の話を、子どもたちが理解するには十分なほど、既にされた経験があるのです。非常に混乱が生じやすく、それが悩みの子どもたちもたくさんいます。

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- 大人の立場からはなんでもないことが、子どもたちにとっては混乱しかねないこともあるのですね。このように、タッタグリの子どもたちへのアプローチ法が持つ哲学や基準には、何か他との違いがあるのですか?

そうですね。子どもは「まだ大人になりきっていない」未完成の存在として扱われることが多いでしょう?それは、成人を基準に見ているからですよね。私たちは、この「基準」を大人に合わせないよう、多くの努力を重ねています。そして子どもたちは、こんな基準のせいで、人格そのものを尊重される経験が多くはないのですよ。だから、尊重される経験を与えるためにも、じっくり考えているところです。何かの企画や制作をする時にも、子どもたちが尊重されていると感じる経験を持てるように、かなり努力をしているほうです。

- タッタグリでも、この基準に合わせて進行していた事業を取り止めたり変更したことがあったりしますか?

私たちのキャラクターである、このタッタグリの名前は「タタ」というのですが、一度小さなパンフレットを作った時、タタにフィードバックを促すためのメッセージを言わせるのに、標準語ではない、若干子どもっぽいセリフを考えて、制作を進めていました。幸い印刷段階に入る前に、これは相応しくないという話が出て、修正して印刷をする事になったということがありました。

子どもたちが赤ちゃん言葉を使うのは、そう話したくて話しているのではなく、言語習得段階にあるからですよね。にもかかわらず、それを大人がマネするのは正しいアプローチではないと考え、標準的な文句に変更したのです。

- タッタグリは2019年にスタートしたとのことですが、2年という時間は事業運営において短いと言えば短いですが、 スタート時と現在で変化した点はありますか?

非常に多くのことが変わりました。私が初めてタッタグリをスタートさせた時は、子どもの目に触れては良くないコンテンツが世界に多く存在することから、そのようなコンテンツをしっかり選別しなければとだけ考えていました。しかし、そうしている中で、ただ選別することだけが正解ではないことに気づきました。もちろん選別は必要なことではありますが、それだけで解決できる問題ではないということです。子どもたちは、キレイな選別されたコンテンツだけを消費するのではなく、自分なりに世の中を渡って行かなければならないじゃないですか。

今考えているのは、子どもたちが自ら平等や違いについて認めることを学ぶ前に差別と固定観念をまず学ぶことがより大きな問題であるため、子どもたちが正しいことを自らで分別する目を持つことが、より重要なのです。それが、結局はリテラシー教育になるわけです。

例えば「天女と木こり」(天女が木こりに拉致されて結婚するという内容)という伝承童話を、以前は子どもに相応しくないコンテンツだとふるい落としていたとしたら、今は逆に読ませるべきだと申し上げます。その代わり、さまざまな目線に立って読むことをすすめています。天女の立場から読んでみたり、天女や家族の立場から読んでみたり。絵本だけではなく、現在はメディアコンテンツの消費量が圧倒的なので、<ウタタメディア>を準備している理由もここにあります。

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(男女平等の分野を越えて、新たな時代の常識を伝えるタッタグリのスペクトラム。出典:タッタグリホームページ)

- リテラシー教育は、全世代で今最も必要な分野でもありますよね。決して簡単ではないチャレンジのように思えます。どうアプローチされているのですか?

初めは私たちが「ジェンダー・センシティビティ(性認知感受性)」と「男女平等」の観点を込めて事業をスタートさせましたが、今はその枠組みが広がりました。そしてこの枠組みの名前は「新たな時代の常識」です。私たちがキュレーションのテーマとして選択している「人権」「環境」という事柄は、次の世代にとってはもう「常識」になるはずなのです。

子の英語教育には際限なく投資するけれど、それは子どもがグローバル人材として育ってほしいという心が投影されているわけじゃないですか。しかし、いくら英語が上手でも、世界基準に沿ったアティチュード(姿勢)がなければ、限界は非常に明確なんですよ。そのような事例も多く、これは私自身の話でもあります。(笑)

また、私たちのサービスについて、女の子たちをエンパワーリングするとか、女の子用のサービスとして見る方々も初めのうちはかなり多かったですね。ですが、多様性を認め、自己の固有性を尊重することは、性別関係無く皆に必要なことですよね。男の子たちが生きる上で求められるマンボックス(男らしさ)も、健全なことではないんですよ。「価値」中心的なメッセージよりは、子ども一人一人の人生にかかる影響に焦点を合わせ、訴求しています。

- それこそ、現在と未来を同時に作り上げるプロジェクトですよね。子どもたちが仲間としてこのようにしっかり育っていくこととともに、タッタグリはどんな未来を計画していますか?

5年後くらいには、私たちの事業が絵本やメディアを越えて、あらゆる分野で子どもを対象にしたキュレーションをするプラットフォームになっていることを願います。子どもに関連した何かを購入する人々が、安心して来訪し、商品を選択できるようにするとか、子どもが退屈な時に「YouTube見せて」ではなく「ウタタ見せて」といってもらえるような、そういった変化を期待しています。

また、オンライン上の世界が本当に重要になりましたが、いまだに法的な基準も明確ではなく、子どもたちがどうやってオンラインでの活動をしていかねばならないか、教える機会も多くはなく、そういう時にガイド役を担える、代表的な場にしていきたいです。

そして、私たちは本当に性教育が得意なんです。力を入れてやっているので、コンテンツの出来も良く、その分広く知らせたいと強く思っています。

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(タッタグリには子どもを社会の仲間としてアプローチすることが非常に重要だという理念が込められている。写真出典:タッタグリホームページ)

-国境を越えて知られるように、しっかり記事を作成します。(笑)今回のインタビューは日本語と中国語に翻訳されて、国外のアジアのソーシャルイノベーターたちにも届くことになります。ユ代表は、アジアという概念をどう受け取りますか?どんなインスピレーションが湧きますか?

アジア圏特有の雰囲気ってあるじゃないですか。儒教的、家父長制、そして社会の雰囲気も他地域とは違いますよね。こういった部分で、共に深く考えていけることが多いと思います。

私は本当に、女性の伝記シリーズを作りたいと思っているのですが、伝記は主に一つの世界、白人男性をメインにリストアップされていて、アジア人自体も少ない中、その中で女性なんてもっと少ないでしょう。最近は、元フィギュアスケーターのキム・ヨナ選手だとか、国際的なスター、現存の方々が児童書向けに注目される場合もありますが、伝記自体が与える趣は、また違うものがあると思うのです。なので、どちらも必要だと考えます。

いくつかの出版社と話をしたことがあるのですが、うまく話がまとまらず、どう進めていけば良いか悩んでいます。韓国の女性偉人だけでなく、アジアの女性偉人に範囲を広げられたら、より意味を持たせられるのかなと思います。

- アジアのソーシャルイノベーターたちとのコラボレーションの可能性も開かれていますね!

はい、コラボのお話はいつでも大歓迎です!(笑)

実は、アジア圏が持つ共通の歴史的/文化的背景から、西洋とは少し異なるアジアの女性たちの姉妹愛というのは明らかにあると思っています。そして、私が今でさえ経験している不合理が、次世代に続かないようにという願いも同じだと考えます。「サメのかぞく」が国境を越えて方々に広がったように、私たちは絵本でアプローチをしていますが、タッタグリのコンテンツとアプローチ方法も、違う国の人々にもインスピレーションを与えられると考えます。

<写真提供>タッタグリ

<関連サイト>タッタグリホームページ

著者:Jeong So Min(チョン・ソミン)。公共文化企画者、市民一人一人が追求し創っていく公共性を信じています。過去には、個人プロジェクト型市民参加活動に関する研究を進めました。
翻訳:福田梨華
発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
このインタビューシリーズでは、アジア各地で社会課題解決に取り組む人々の声や生き方をお届けします。以下の記事も合わせてどうぞ!
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