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「情報処理」巻頭コラム

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情報処理学会 会誌「情報処理」のバックナンバーから,巻頭コラムを順次紹介していきます.IT専門家はもちろん,教育者,政治家,医師など、様々な業界の方々にご執筆頂いています.
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記事一覧

とって変わるもの

まなまる(永藤 まな) (ピアノタレント)  AIというものが認知され活用されるようになった近年,提起されることが増えてきた,「人間の仕事はAIにとって変わられるのか」という問題.スーパーやコンビニのレジはセルフが主流になり,無人の店舗なんかもある.  ファミリーレストランの配膳は陽気な音楽とともに可愛いロボットがテーブルまで来てくれる(可愛いというのは私の主観ですが……笑) .ネット上ではいわゆる”絵師”とよばれる方々がAIに職を奪われる!と嘆いているさまをよく見かけ

AI,判断と決断と説得

鈴木 寛 (東京大学公共政策大学院教授/ 慶應義塾大学政策・メディア研究科特任教授)  AIの劇的な普及により,人材育成やガバナンスの在り方について,歴史的な再構成が迫られている.筆者は,OECD Education 2030プロジェクトの共同創業メンバとして「学びの羅針盤」の作成に参画し,文部科学大臣補佐官として,2020年から各学校で実施されている学習指導要領の改訂に携わったが,強く意識したことの1つが「AIを使いこなし,AIにはできないことをできる人材の育成」であった

明るく楽しく元気よく,一緒に前に進もう!

アイシア=ソリッド (AIcia Solid Project /(株)アトラエ Virtual Data Scientist)  ハローワールド! アイシアです.結局タイトルにあることがいちばん大事,そんな話をお届けします.  最近,あらゆる領域で技術の発展が続いています.この記事を書いている2023年10月30日は,ChatGPTの公開からちょうど1年です.GPT-4で能力が大幅に拡張され,GPT-4Vで画像も扱えるようになり,GPT-4 Turboで論文くらいは読みこ

コンピュータ・サイエンスは蠱惑的だ.

堀元 見(YouTuber・作家)  「ゆるコンピュータ科学ラジオ」というYouTubeチャンネルを運営して生活している.コンピュータ・サイエンスについておもしろおかしく話す対話形式の番組だ.大学の専攻をこんな形で活用するとは夢にも思わなかった.  大学4年生のとき,機械学習についての難解な論文を読みながら,「僕に研究は向いてないんじゃないだろうか.YouTuberにでもなったほうがいいんじゃないか」と思った.普通の人なら気の迷いで済むのだけれど,当時の僕は脊髄反射で生き

歌舞伎の伝統と革新を追求する

中村 獅童(歌舞伎俳優)  歌舞伎は伝統的な芸能として扱われていますが,そもそもは大衆の娯楽として生まれ,約400年間もの間続いている芸能です.江戸時代にはその当時流行していたモノやコト,また能や狂言をうまく取り入れ,身近なものとして親しんでもらうことで発展してきました.  現在,伝統的な歌舞伎を演じる以外に,初音ミクさんと「超歌舞伎」という新しい歌舞伎を演じさせてもらっていますが,もし江戸時代にデジタルというものの存在があれば,私と同じように当時の歌舞伎役者もデジタルを

人生はゲームだ(後編)

松原 健二((株)SNK代表取締役社長CEO)  前号の兄の巻頭コラム「人生はゲームだ」を繋げていく.最初に本格的にプログラムを書いたのは1984年の卒業研究だった.元岡達先生の研究室で「プログラミング言語C」を片手にviに向かうと,世話好きな先輩がさまざまなテクニックを教えてくれた.コンパイルをバックグラウンドで走らせるとRogueをプレイした.自動生成のダンジョン,暗闇に現れるアイテムやモンスター,飽きのこないゲームデザインは今でも色褪せない傑作だ.経営者としてゲーム開

人生はゲームだ(前編)

松原 仁(東京大学次世代知能科学研究センター)  1970年代後半に最初に書いたプログラムは将棋だった.プログラミングを自習し始めたばかりの学生にとって将棋はむずかしすぎてまともに動くものはできなかった(ちなみに言語はFortranだった).情報科学科に進学してプログラミングにある程度習熟してから詰め将棋を解くプログラムを完成させることができた.大学院に進学してAIを研究することになったけれど,日本ではゲームを研究テーマとすることは到底許される雰囲気がなかったので画像認識や

世界を再構築するイノベーション

大串 正樹 (デジタル副大臣/衆議院議員(自由民主党))  かつて古代ギリシアのプラトン(Plato)の時代には,技術(テクネー)は知識ではないとされていました(技術<知識).その後,工業化が進み数次の産業革命を経て,知識としての技術にその価値を認めるドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)の「ポスト資本主義社会=知識社会」が到来しました.知識こそが唯一価値のある資源であるという20世紀の「ものづくり」の時代です(技術≒知識).そして時代はさらに進み,生

ファーストコンタクトは近い

野尻 抱介 (SF作家)  生涯にわたる願いを1つ挙げるなら,地球外知性(ETI)とのファーストコンタクトである.地球外生命(ET)の発見だけでも大喜びなのだが,第1希望はそれが文明と文化を持っていることだ.直接会えなくても,せめて存在が確かめられたらと思う.  そのために地球外知性探査(SETI)という活動がある.対面ではなく,電波などを介して存在を確認したり,通信しようとするものだ.SETIは1960年代から行われてきたが,いまだETIの存在は確認されていない.  

実装フェーズに入った都市デジタルツイン「PLATEAU」

内山裕弥(国土交通省都市局都市政策課 課長補佐)  国土交通省が2020年度からスタートさせたProject PLATEAU(プラトー)は,現実の都市空間が有する形状や意味といった情報を,「3D都市モデル」という標準化された規格に基づきデータ化し,これをオープンデータとして社会へ提供していく取り組みである.  政府では,2016年からSociety 5.0という技術コンセプトを打ち出し,「フィジカル空間とサイバー空間を高度に融合させたシステムの構築」を目指してきた.いわゆ

対話型AIがもたらすプログラミング教育の未来:時代の変革を迎える

坂村 健 (INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長/東京大学名誉教授)  この巻頭コラムの原稿を書いているのは2023年の2月だが,去年の11月にOpenAIから公開された対話型AIのChatGPTは急速に成長し,月間ユーザ数はすでに1億以上.ほんの3カ月で,これほどの伸びは変化が激しいといわれる情報通信の世界でも異常だ.つい先日にはマイクロソフト社が新ブラウザでChatGPTの機能と検索を統合,対抗してGoogleも社外に出していなかった対話型AIを順次サービスに組み

データ基盤から知識基盤へ

黒橋禎夫(国立情報学研究所長/京都大学特定教授)  20世紀の学術研究はさまざまな技術的革新をもたらしたが,同時に社会には環境問題,格差問題などの弊害も生まれ,人類はむしろ矛盾に満ちた世界で苦しんでいる.学術が,複合的な社会課題を解決し,真に人々の心の安寧をもたらすためには,人文・社会科学を含むさまざまな学術研究の協働が必要であり,それを可能にする土壌の構築が課題である.  これまでの20〜30年を振り返ると,情報学が社会および学術界に対して広範なインパクトを与えてきた.

音楽とテクノロジーの親和性について

伊藤 博之(クリプトン・フューチャー・メディア(株)代表取締役)  クリプトン・フューチャー・メディア(株)(以下,当社)はインターネット元年と言われる1995年に設立した.インターネットが世の中を根本から変えると気付き,いても立ってもいられず起業したのだが,当時の北海道大学職員時代に世間より一足早くインターネットに触れることができたのが幸いだった.当時は趣味のDTMで音楽を自作していた.DTM(Desk Top Music)機材が公務員のサラリーでも買えるくらいには手軽に

音楽にも時間は貴重

エバン・コール((株)ミラクル・バス 作曲/編曲)  劇伴音楽$${^{☆1}}$$の作曲家の人生は定められた制作期間の中で「時間管理」が非常に重要である.  データ転送技術の向上が作曲家に役立っていることがたくさんある.たとえば,大容量の楽器のライブラリ音源の購入とダウンロード.HDDやDVDも不要になった.クライアントの動画チェックも携帯で見るくらいの手軽さになった.オンラインで打合せを開くことも簡単になった.世界のどこででもリモートで録音をすること,音楽エンジニアと