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新しい職業とIT



五十嵐 美樹
(サイエンスエンターテイナー/東京都市大学理工学部特任准教授)

 私は,全国各地で子どもたちに向けたサイエンスショーや科学実験教室を開催しています.実験道具は基本的には自作で,秋葉原にある秋月電子に行っては子どもたちに科学技術の楽しさを伝える方法を考えて実施しています.代表的な実験として,生クリームを入れたペットボトルを振り続けるとバターができる実験があるのですが,ただ振っても子どもたちに素通りされてしまうので,特技の激しいヒップホップダンスをしながら作ったりしています.そろそろこの演目もラズベリーパイに任せて振ってもらおうということも計画中ですが,残念ながら今のところうまくいっていません(笑).

 科学技術についてヒップホップダンスを用いて伝える仕事は,“ダンシングサイエンスエンターテイナー”と言ったところで,ありがたいことに「新しい職業名ですね」と言っていただくことも増えてきました.科学技術もダンスも好きで,どちらも仕事にしたいと考え求められる場所を探した結果,ダンスを交えたサイエンスショーをすることに至りました.今後,日本においては人口減少と科学技術の発展も相まって,このような新しい職業と言われるような活動をしていく方も増えていくのではないでしょうか.全国各地の中高生に向けて,科学技術にかかわる仕事が多様であることを伝えてほしいという要望もいただき,講演することも増えてきた実感があります.

 一方,東京都市大学の特任准教授としてチャイルドケアにかかわる学生に向けて,情報処理演習の講義を担当したりもしています.チャイルドケアといえば,いわゆるコンピューターや科学技術に直結するお仕事ではないイメージもありますが,保育園や幼稚園などでもSNSの運用や倫理の遵守,運動会の動画編集などについてのスキルを求められることがあります.保育園だけでなく,どの分野に行ってもこのようなITスキルを求められる時代の学生たちと対峙していくと,その伝え方について議論していく必要性も感じているところです.一方,自分が考えたことについてコンピューターを用いて表現できたときに学生たちが喜ぶ姿を見ると,コンピューターが人間の感情を動かす凄さを改めて感じます.サイエンスエンターテイナーは感情を動かす職業でもあるので,コンピュータそのものの凄さで感情が動く様子は感激いたします.

 新しい職業に就くとしても,科学技術と直結しないイメージのある職業に就くにしても,ITやコンピューターとは切っても切り離せない時代だと思います.子どもたちに向けた教育分野で言えば,プログラミング教育が小学校で必修化され,プログラミング的思考を身につけていくわけですが,子どもたちに向けた表現方法についても多様化していくことがこれからも楽しみです.ダンシングバターシェイクマシンの実現までには至っていませんが,子どもたちと一緒に作りながらショーをする日も近いのかもしれません.ぜひ読者の皆様と共創していきたいです.

(「情報処理」2024年7月号掲載)

■ 五十嵐美樹
 1992年東京都生まれ.幼いころに虹の実験を見て感動し,科学に興味を持つ.上智大学理工学部機能創造理工学科(物理学専攻)在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞後,自身が科学に興味を持つきっかけとなった科学実験教室やサイエンスショーを全国各地の子どもたちに向けて開催,講師を務める.現在は東京都市大学理工学部特任准教授として研究の傍ら,テレビやポッドキャスト(ドタバタ科学ラジオ),YouTubeなどで子どもたちに科学の楽しさを伝えている.