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実装フェーズに入った都市デジタルツイン「PLATEAU」


内山裕弥(国土交通省都市局都市政策課 課長補佐)

 国土交通省が2020年度からスタートさせたProject PLATEAU(プラトー)は,現実の都市空間が有する形状や意味といった情報を,「3D都市モデル」という標準化された規格に基づきデータ化し,これをオープンデータとして社会へ提供していく取り組みである.

 政府では,2016年からSociety 5.0という技術コンセプトを打ち出し,「フィジカル空間とサイバー空間を高度に融合させたシステムの構築」を目指してきた.いわゆる「デジタルツイン」と呼ばれるものだが,これまでは「手触り感」のあるプロダクトが世の中に共有されることはなかったように思う.そういう意味では,プラトーは我が国初の「誰でも扱える」都市デジタルツインのデータといえる.

 プラトーを初めてリリースしたのは2020年12月末だったが,当初はGIS(地理空間情報システム)や3DCGなど一部の界隈で話題になっていただけだった.実際,当初のプラトーはリーディング・プロジェクトとしての性質が強く,多くの業界,地方公共団体,大学などは「様子見」の姿勢だったように思う.

 単なるPoCではなく,デジタルツインの「実践」を積み重ねていくためには,とにかくデータ提供量を増やし,データを扱うナレッジを生み出し,実際に手を動かす開発者のコミュニティ育成が必要だと考えた.そこで,2020年3月には全国約60都市,約1万km2という世界でも例のない規模での3D都市モデルのオープンデータ化を実現するとともに,XRやモビリティ,エネルギーなど多様な分野でプラトーを活用した実践的なユースケースを生み出した.毎年恒例となっているハッカソンも2020年が初開催だった.

 そして2023年4月現在,プラトーのデータ・カバレッジは全国約130都市,約2万km²にも及び,プラトーを活用したサービスやプロダクトの発表なども続々となされている.2020年当初と比べれば隔世の感だが,今日では,もはやプラトーは「当たり前」の存在になりつつあるといえるだろう.プラトーのみならず,メタバースやデジタルツインの概念もすっかり定着し,相互に影響を与えながら着々と実装が進んでいる.

 プラトーの社会実装のためには,もう一歩,この動きを進める必要がある.最も重要なのは,プラトーを国土交通省が主導するプロジェクトから,国,地方,民間,大学等の多様なプレイヤがフラットに連携して推進していくエコシステムへと進化させていくことである.そのためには,技術やアイディアを持ったプレイヤとのパートナーシップをより強固にしていくことが重要になる.彼らの熱意が,いまだ見ぬデータの価値を引き出してくれるからだ.

 実は,プラトー(PLATEAU)というネームは,「結節点」とか「自立・分散」のような意味を持つ哲学用語からとっている.データがほかのデータとつながること,そして,さまざまなプレイヤが新しく出会い,連携していくことで,新しいソリューションが生まれていくこと.これこそがプラトーのビジョンであり,我々が目指すエコシステムそのものであるといえる.

(「情報処理」2023年7月号掲載)

■ 内山裕弥
 1989年東京都生まれ.首都大学東京,東京大学公共政策大学院で法哲学を学び,2013年に国土交通省へ入省.水管理・国土保全局,航空局,大臣秘書官補等を経て現職.


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