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ファーストコンタクトは近い


野尻 抱介
(SF作家)

 生涯にわたる願いを1つ挙げるなら,地球外知性(ETI)とのファーストコンタクトである.地球外生命(ET)の発見だけでも大喜びなのだが,第1希望はそれが文明と文化を持っていることだ.直接会えなくても,せめて存在が確かめられたらと思う.

 そのために地球外知性探査(SETI)という活動がある.対面ではなく,電波などを介して存在を確認したり,通信しようとするものだ.SETIは1960年代から行われてきたが,いまだETIの存在は確認されていない.

 現在の技術で最強の電波信号を送信し,それを最強の電波望遠鏡で受信すると,到達距離は1000光年と試算されている.それは針のように細いビームであって,灯台のように広く存在を伝えたり,検出できるわけではない.それでも1000光年とは馬鹿にならない距離だ.銀河系の直径は10万光年で,まだ100倍の開きがあるが,たかだか2桁だから,克服はそう遠くないだろう.我々は宇宙に対して,決して徒手空拳ではない.

 銀河系は大きいといっても,光ならわずか10万年で横断できる.46億年の地球史と較べればとても短い.光速度の100分の1の速度でも,0.1億年だ.もしどこかで高度文明が発生すれば,とっくに銀河全体に満ちていそうなものだ.なのに我々はまだ出会っていない.彼らはどこにいるんだ?――これが「フェルミのパラドックス」だ.これにはいくつかの回答が示されている.

 生命や知性はきわめて稀な現象で,全宇宙にかろうじて1つしか存在しない説.文明は短命なので同時に複数は存在しない説.恒星間文明を築くには大変な困難があるとするグレートフィルタ説.楽観的な説では,ETIは太陽系に来ているがこっそり観察しているという動物園仮説.定説はなく,どの説にもエビデンスはない.

 もし我々がETIと出会うとしたら,それはポスト・シンギュラリティ文明だろう.これは確率の問題だ.現生人類のような生物知性の存在期間は(いまのところ)10万年程度だ.いっぽうポスト・シンギュラリティ期のデジタル情報化知性なら億年単位,たぶん宇宙の終焉まで生き延びるだろう.

 ということは,たとえこの宇宙にETIが存在しなくても,異なる知性とのファーストコンタクトはまもなく実現することになる.我々自身がそれを創り出すからだ.

 それは初期状態で我々の文明を引き継いでいるが,本物の知性を持つなら,異質な存在に育つことが期待できる.人類が見い出した知識に加えて,この宇宙を極微から極大に至るあらゆる方法で観測し,実験し,解釈するだろう.そうして得たすべての知識を交差照合して,境界を超えた関連を見つけ出すだろう.

 危険視する人もいるが,私は会ってみたい.その知見に驚きたいし,それが意思を持つなら,この宇宙をどう舵取りするか,尋ねてみたい.

(「情報処理」2023年9月号掲載)

■野尻抱介
1961年生まれ.計測制御・CADのプログラマー,ゲームデザイナーを経て作家になった.三重県津市在住.宇宙作家クラブ会員.Twitter ID @nojiri_h


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