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大量プレーンオムレツ

⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)

高校生の頃
はじめて父親と2人で
旅行に行くことになった。

家族3人での旅行すら
まともに行ったことがなかった僕は
少し困惑し
少し緊張していた。

まず場所を決める。

父親は

香港か福岡どっちがいい?

と聞いてきた。


どんな二択やねん!

はじめは思った

僕は海外に2人で行くことが
不安だったため
福岡と答えた。

そして迎えた旅行の日
ホテルに着くと
まずご飯を食べに出ることになった。

中洲と呼ばれる繁華街に赴き
とりあえずブラブラする。

有名ラーメンチェーンの一号店や
大行列ができている餃子店などを
通り過ぎて
僕たちは一軒の屋台の
のれんをくぐり抜けて
小さな椅子に並んで腰掛けた。

おでんや餃子
焼き鳥やラーメンなどを
適当に注文する


どれも美味かった。

さすが福岡だ。

一見、簡易に見える様々な調理器具や
食材の保存方法の一つ一つに
こだわりが溢れている。

僕は少し前に見たテレビ番組を思い出した

番組の中で、あるコメンテーターが

「ダイエットしたいなら福岡に行くな」

と言っていた。

その理由が納得できた気がした。

ホテルに戻り、
シャワーを浴びると
移動の疲れからか
すぐに眠りについた。

朝目覚めると
朝食バイキングに行く。

少し寝坊したので
時間があまりない
僕たちは急いで出かけた。

ホテルのバイキング会場に着くと
色とりどりな料理が並んでいる。

僕たちは各々でトレーに
食べ物を乗せていった。

ん?

僕はある一つのコーナーを見つけた。

そこには小さなフライパンを構えた
コック帽を被った男性が立っており
横に卵液やチーズ、
細かく切ったハムや刻みネギなど
食材が並んでいる。

列に並んでいるお客さんが
そのシェフからオムレツを受け取った。

なるほど

これは各々の好みの食材を使って
オムレツを作ってくれるコーナーか。

僕は大の卵好きだ

急いで列に並んだ

自分の番になる

「何か入れますか?」

シェフが聞いてきた

「なにも入れないでください」

僕は答えた

シェフが卵液をフライパンに流し
オムレツを作ってくれる。

途中フライパンをトントンしたり
手慣れた様子で
作業を進める。

なんだこの人は

カッコ良すぎる

単純作業ではあるが
このホテルで朝
寝ぼけた顔をして
バイキングに来る宿泊客を
楽しませるため
ただただひたすらオムレツを作る。

そんなシェフである彼の
仕事人感がヒシヒシと伝わってきた。

オムレツを受け取り僕は席についた。

オムレツを一口食べる。

うますぎる

フワフワしていて
フワフワしていて
フワフワしている

僕はすぐにまた
オムレツコーナーに並んだ。

前の客が
様々な注文を入れる

せっかく他の食材があるのだ
当たり前だろう。

僕の番がくる。

「なにも入れないでください」

すぐに伝えた。

シェフは何一つ表情を変えず
またオムレツを作りはじめる

受け取ると
そくさま席に戻り
またオムレツを口に運ぶ。

2回目でもこんなに美味しいのか。

感動が止まらない。

昨日あんなにも美味しい飯を食ったのに
まだ福岡は飯だけで
僕たちをこんなにも楽しませてくれるのか。

僕はすぐに食べ終えると
またオムレツコーナーに行った。

もはや誰も並んでいない

他の宿泊客は早々と切り上げ
部屋に戻っている

僕は

「なにも入れないでください」

こう告げた

シェフは
真顔のまま、また作業に取り掛かる。

バイキング終了の時間が迫っていた。

僕がこのオムレツを食べれるのも
これが最後だろう。

そう思うと寂しかった。

バイキングの時間が終わり
部屋に戻ると支度をする。

今日は柳川という街に出かける予定だった。

柳川は鰻の名所だと聞いたことがある。

レンタカーに乗り
目的地へと車を走らせる。

柳川に着くとまず川下りをすることになった。

僕たち2人が5メートルほどの船に乗り、
傘をかぶった男の人が先頭に立ち
オールを使ってその船を漕いでくれる

僕はしばらくボーッとしていた。

その後3人で他愛もない話をする。

船を漕いでいる男の人は
どうやら僕と同い年らしい。
同年代でもいろんな職業があるんだなぁ

しばらくするとその男の人が
「一曲歌ってよろしいでしょうか」
と僕たちに聞いてきた。

仕事で決まっているのだろう
特に問題はない
もしかしたら地域の民謡などが
聞けるかもしれない

すぐに承諾した。


なかなか上手い歌が終わると
男の人が再び話し出した。

「ぼく最近ねー
今日みたいに仕事してたんですよ!
そしたら、めちゃくちゃお金持ちそうな
お婆さんが1人で乗ってきたんですよ」

なんだなんだ!
急にエピソードトークがはじまったのか。

僕は観光客として
学生として
そして1人のお笑いを愛する者として
単純に驚いた。

「普通に船漕いで歌うたって
元の場所戻ってきたんですけど
そのお婆さんが帰り際
僕に連絡先渡してきたんですよ」

おもてたんと違う!

単なる
他の観光客ちょっぴり変だった小噺
かと思っていたが全然違っていた。

「後日連絡来てね
ご飯行くことになったんですけど
食べ終わったあと
ホテルに誘われたんですよ」

合ってる?

ホンマにその話を向ける層
俺らで合ってる?

地元のツレとかにする話ちゃうのそれ!

疑問は沢山あったがスルーすることにした。

父はなぜか爆笑していた。
ツボがよくわからない。



「ほんでヤッたんかいな」

父が聞いた



僕は耳を疑った。


なぜ思春期の息子の前で
そんなことを聞いたのだろう

ていうか
なんで気になんねん!
詳細いる?

「勃たなかったんですよねぇ」



父がまた爆笑する

なんて下品な旅なんだ



男の子はその言葉を言い終わったあと
すぐに真顔に戻った。

他の船とすれ違ったからだろう。

すれ違った方の船ではおそらく
彼の上司と思しき人間が船を漕いでいる。

いや、ビビるんやったら
そんな話すんなよ!

川下りを謎の話で締めくくられ
僕たちは船を降りた。

お話は謎だったが
川下り自体はとても楽しめた
僕たちを楽しませようと
頑張ってくれたのだろう。

それが終わると
いよいよ鰻を食べることになった。



店に着く
旅館のような場所だった。

注文をし
鰻を待つ

僕たちは知らなかった。



鰻が来るのが遅すぎることを

親子二人
無言の時間が続く。



僕は今日1日の出来事を振り返った

今日は本当にいろんな職業に
出会えた気がする。

一歩外へ飛び出せば
もうすでに働いている同級生がいて

それも自分が全く知らない業種で

他にも
オムレツを作り続けるシェフがいて
あの人には絶対に失敗しないだろうと
周りに思わせる何かが備わっていて

考えれば考えるほどそれぞれの
職業がかっこよく思えてきた。

あのシェフは本当にカッコ良かった、

そのシェフに僕は
何度もプレーンオムレツをお願いした、

どんな気持ちだっただろう

芸人で言うと
「なんでやねん」
だけずっと言わされるみたいな?

あなたの例えツッコミや
ノリツッコミ、奇をてらったツッコミは
全く必要ない

君は
「なんでやねん」
「どないやねん」
だけ言ってればいい。

そう言われ続けるようなものだろう。

少し申し訳なくなった。

今までに感じたことのない種類の罪悪感だった。


40分ほど経った頃だろうか
鰻が到着した。


一口食べる


なるほど
蒸してあるのか。

どおりで時間がかかったはずだ。

当たり前のように鰻も美味しかった。



さっき考えていたことを改めて思い出す。

少し反省していた
僕はなんてことをしてしまったんだろう。



僕が将来もう一度あのホテルに泊まったら

そしてもしまだあのシェフがいたなら

僕はこう頼みたいと思った

「なにも入れないでください」


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