【短編小説】彼の身の上話【前編】
霧のような小雨で街が白くけぶるなか、時計台の前に傘を差さずにたたずむ彼の姿は、さながら映画の主役みたいにさまになっていた。遠目からでもわかる、質のよいグレーのチェスターコートに黒いタートルネック、下は濃紺のパンツを合わせて黒いスニーカーを履いていた。センター分けにした長い前髪から、わたしの姿を認めたとき、彼はどう感じただろう。女として、ではなく、身の上話をする相手として。
「――すぐわかりました? 僕はなんとなく、そうじゃないかなと」
事前にメッセージで送ったわたしの顔写