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NO MUSIC, NO MUSIC.

仕事中に音楽をかけていらっしゃいますか?

よく、「作業用BGM」という言葉を聞きますけど、僕は実は音楽をかけながら仕事をしたり、人と会話をしたりすることができないんです。だから一日中、僕の仕事場は基本的に無音です。

でもそれだと正直、来客の時にちょっと迷います。最近は午後になると2、3時間お客さんがやってきていろんなお話をしてくれるのですが、無音だと奇妙に思う人もいるかもしれないしどうしようかなと思って、前半無音、後半音楽で対応しています。電気ケトルでお湯を沸かすのに立ち上がったついでにポチッと窓辺のコンピューターのキーボードを叩きます。

中には出だしから、

「さっき気づいたんですがこの空間、音楽が流れてないんですね」

と言うお客さんもいます。


少し前に、なぜ自分は無音を好むのか、理由を考えたら僕なりにわかりました。

僕は全ての持ち物に共通するのですが、CDにせよiTunesの中の曲にせよ、すごく好きなモノ(曲)しか所有していなくて、軽いものというか、いわゆる「ジャブ」がなく、「渾身の一撃」ばかりなのでプレイリストを作ったら紅白歌合戦のようになってしまいます。どうしても聴き始めるとその迫力の方に感情移入されてしまうから、人と話している時や机に向かっている時はそちらに集中すべく、そういう曲しか持っていないが故に音楽を絶っていたのでした。「渾身の一撃」というのは何時間でもその一曲をリピートで聴いていられる、という意味です。実際、僕は音楽を聴くと決めたら、一日中同じ曲を流しています。多分誰も一緒に進んでその空間にいたいと思う人はいないはずです。一般的には一曲終わったら、次の曲に移りたいと思うのが普通ですものね。

でもそんな僕にも一つだけ、人がそこで流れる音楽に関して必ずコメントする空間を持っています。僕の車の中です。

先ほど「目の前のことに集中できなくなる」と書きましたが、音楽に集中力を妨げられるのはどうやら書き物、会話、読書の三つにまつわる場合だけのようで、僕は今まで一度も「音楽が流れているせいで運転に集中できない」、と思ったことはありません。僕は仕事でこれまでも(たまに現在も)、随分と長い時間、自分の運転する車の中で過ごしてきました。大抵は車内のBluetoothで仕事関係の電話をしていることが多かったですが、今も電話を切ると、自動的に音楽か、オーディオブックの再生に戻るようにしてあります。

そこに誰かが同乗する機会があると、僕は決まってオーディオブックを消して音楽をかけます。僕は基本的に他の場所では無音なので「いいラジオチャンネルですね」と言われます。ただし僕はラジオを聴かないので、アンテナは自宅の下駄箱の中にあります。彼らは車内で長年僕の旅のお供をしてきてくれた僕の好きなウディアレン監督の映画に使われた曲を集めたCDを気に入ってくれるようです。そして僕も不思議と車の中では、音楽を聴きながらでも、助手席に座っている人とずっと話していられます。

( 文・西澤伊織 / 写真・TRIANGLE MUSIC )


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