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千利休の黒楽茶碗 銘俊寛 #50

『茶の湯の美学 -利休・織部・遠州の茶道具-』 三井記念美術館 2024年5月2日(木) 今日の一枚は、長次郎作 黒楽茶碗 銘俊寛。 この黒い茶碗に、緑の薄茶が点てられているのを想像すると、なんとも美しいではありませんか。 箱蓋の「俊寛」が千利休筆とされるこの楽茶碗は、この渋い感じがとても良い。特に黒が。 このフォルム、手に持った感じも、しっくりと、いい感じに違いない。 千利休に学んだ古田織部は、歪んでいたり、割れていたりする中に美しさを見ている。 千利休も、それ

    • 川瀬巴水の芝増上寺 #49

      『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』 八王子市夢美術館 2024年5月1日(水) 今日の一枚は、川瀬巴水の「芝増上寺」。 はっと目をひく赤い増上寺が、白に映える。 風が強いのだろう。家路を急ぐ女性の傘が、その姿を覆い隠して、何だか、とても情緒的である。 「芝増上寺」とともに東京二十景のひとつである「馬込の月」の方は、深い青の画面に寂寥感が漂う。 「大阪天王寺」も印象的な作品であった。「芝増上寺」と同様、赤い建物と雪に女性。川瀬巴水の版画は、静寂という概念を絵にしたようである

      • 木島櫻谷の燕子花図 #48

        『ライトアップ木島櫻谷 -四季連作大屏風と沁みる「生写し」』 泉屋博古館東京 2024年4月29日(月祝) 今日の一枚は、木島櫻谷「燕子花図」。 住友本家を飾るために描かれた。住友家としても自慢の品に違いない。 当然に尾形光琳を意識した屏風であろう。 尾形光琳の燕子花は型紙を使ったと言われているが、そこまで意匠化されていない。花は一つひとつ描写されており、つぼみも混じる。 でありながら、リズミカルなところは失われていないのが面白い。 木島櫻谷の燕子花は、色がハッキ

        • 神坂雪佳の金魚玉図 #47

          『京都 細見美術館の名品 -琳派、若冲、ときめきの日本美術』 静岡市美術館 2024年4月27日(土) 今日の一枚は、神坂雪佳「金魚玉図」。 光る月に、赤い何かがかかっているかのようである。 だがこの丸は月ではなく、金魚玉(金魚鉢)で、赤い何かは金魚である。 掛軸の上に片寄った構図。金魚の顔を正面からとらえた視点。涼しげな雰囲気を醸し出す表具。 たらしこみの技法で描かれた金魚は、水を通して見えた金魚がキラキラときらめいているのを表してしるのであろうか。 この美術展

        千利休の黒楽茶碗 銘俊寛 #50

          旧朝香宮邸の大食堂 #46

          開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z 東京都庭園美術館 2024年3月30日(土) 今日の一枚は、旧朝香宮邸 大食堂。 銀色の壁、丸く張り出した窓、パイナップルとザクロのシャンデリア。一つひとつが強烈な存在感を放っている。 特に、イワン・レオン・ブランショによる金属的な壁は、この部屋に、冷たい重厚感をもたらしている。他の部屋と全く異なる雰囲気である。 大食堂のラジエーターレジスター(暖房の出口)には魚や貝があしらわれている。旧朝香宮邸には、この魚のよう

          旧朝香宮邸の大食堂 #46

          岡本太郎の若い時計台 #45

          常設展「人のかたち:岡本太郎の人体表現」 川崎市岡本太郎美術館 2024年3月24日(日) 今日の一枚は、岡本太郎「若い時計台」。 どこかで見たことがあるとの印象の通り、東京銀座の数寄屋橋公園にある時計台の原型である。 岡本太郎は、この時計台について、八方に突きだす若い意欲、伸びてゆく日本そして東京の象徴と語っている。 だがしかし、今の我々にとって、この時計台から伸びゆく未来を感じとるのは、なかなか難しい。もはや、高度成長期の懐かしい日本という時代の中に位置付けること

          岡本太郎の若い時計台 #45

          芹沢銈介の型染カレンダー #44

          『所蔵作品展 MOMATコレクション』 東京国立近代美術館 2024年3月9日(土) 今日の一枚は、芹沢銈介「型染カレンダー」。 机の上に、こんなカレンダーがあったら、毎日がどんなに豊かになるだろう。 よくも、これほど多くのデザインを作れたものである。1964年の3月のカレンダー(写真左)のように、次第に構図も大胆になっていく。 椅子とかまきりとコップ。絵も、その題材も、素朴で素敵である。 透けて見えるほどの麻の生地に、文字の模様が映える。丸く書かれているのは山の文

          芹沢銈介の型染カレンダー #44

          中平卓馬とその時代 #43

          『中平卓馬 火 - 氾濫』 東京国立近代美術館 2024年3月9日(土) 今日の一枚は、中平卓馬「サーキュレーション - 日付、場所、行為」。 水溜まりから飛び散った水のあとが、そこを通った人の痕跡として残されている。痕跡というよりも、残滓というに近い。 この作品は、第7回パリ青年ビエンナーレで、日々撮影し、現像し、その日のうちに展示した一連の写真からなる。 ドキュメンタリーのスナップショットを見ているようで、その時代の躍動感が伝わってくる。 「アレ・ブレ・ボケ」は

          中平卓馬とその時代 #43

          マティスのブルーヌード #42

          『マティス 自由なフォルム』 国立新美術館 2024年2月24日(土) 今日の一枚は、アンリ・マティス「ブルー・ヌードIV」。 太ももから足先へのフォルムは、ヌードの生々しいエロさは捨象され、かつ女性的な美しさだけが抽出されたようで、とてもおしゃれだ。 マティスの切り紙絵を見ると、センス一発で、チョキチョキ、ペタッと完成させたかに思ってしまう。 マティスは作品の制作途中に写真で記録を残しており、完成までの9段階が図録に掲載されている。これを見ると、何度も何度も試行錯誤

          マティスのブルーヌード #42

          尾形光琳の紅白梅図屏風 #41

          名品展 国宝「紅白梅図屏風」 MOA美術館 2024年2月10日(土) 今日の一枚は、尾形光琳 紅白梅図屏風。 何時間でも見ていられる。尾形光琳の作品を全部見たわけではないが、恐らく最高傑作なのではなかろうか。 左右の梅が写実的ながら、中央にデザイン的な水流。これが組み合わされて、「とても長い時間」を表現しているかのよう。そんな概念的な作品になっているようだ。 改めて見ると、梅は必ずしも写実的でない。幹の緑は、俵屋宗達の垂らしこみだろうか。 右の紅梅は、幹は年季が入

          尾形光琳の紅白梅図屏風 #41

          本阿弥光悦の作品世界 #40

          『特別展 本阿弥光悦の大宇宙』 東京国立博物館 2024年2月4日(日) 今日の一枚は「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。俵屋宗達が飛び渡る鶴を描いた料紙に、本阿弥光悦が和歌を散らし書きした一巻。 絵と文字が見事に融合して一つの作品世界を作り上げている。 飛び立つ鶴の、見事に躍動的なことよ。そこに散らし書きされた筆跡の、何とも美しくバランスしていることか。 硯箱の盛り上がった形もさることながら、ある種の乱暴さをもって真ん中を横切る黒々とした鉛、これが見る者に強烈な印象を与える

          本阿弥光悦の作品世界 #40

          長谷川等伯の松林図屏風 #39

          『特集 博物館に初もうで 謹賀辰年(きんがしんねん)―年の初めの龍づくし―』 東京国立博物館 2024年1月6日(土) 東京国立博物館の年末年始の常設展の特集。なかなかの賑わいである。 今日の一枚は、長谷川等伯 松林図屏風。年末年始の特集で展示される。 靄がかかっており、とても静かで、とても湿っている。 安土桃山時代は狩野永徳や俵屋宗達らの豪華絢爛な印象が強いが、その真逆である。そんな時代に、この屏風を描くとは、何ということであろうか。 多くの来場者がこの屏風の前で

          長谷川等伯の松林図屏風 #39

          2023年の私的アートランキング #38

          2023年は17回美術館に行きました。この1年を振り返ったランキングは以下の通り。 1位 アンリ・マティス「赤の大きな室内」 マティス展 2023年の一枚はこれ。マティス晩年の大作。マティス展は見ごたえがあって秀逸だった。 2位 クロード・モネ 「積みわら、雪の効果」 モネ - 連作の情景 モネの絵は何度も見たつもりになっていたが、積みわらの連作以降のモネは、印象派と呼ばれたモネと違うと感じた一枚。 3位 深江芦舟「蔦の細道図屏風」 東京国立博物館 常設展 特集 近

          2023年の私的アートランキング #38

          それは積みわらからはじまった #37

          『モネ - 連作の情景』 上野の森美術館 2023年12月28日(木) 今日の一枚は、クロード・モネ「積みわら、雪の効果」。 明らかに、他の積みわらと違う。 他の積みわらは、積みわらのある風景を描いた絵であり、青い空、緑の草地、茶色の積みわらである。これに対し、「積みわら、雪の効果」は、複数の色面で構成された抽象画のよう。 一面の雪や空はピンク色っぽく、積みわらや影は青っぽく。補色の関係だろうか。 じっと見ていると、これは、積みわらではない何かを描いているような気が

          それは積みわらからはじまった #37

          やまと絵は江戸がアツいか #36

          『特集 近世のやまと絵 -王朝美の伝統と継承- 』 東京国立博物館 2023年11月18日(日) 東京国立博物館で開催中のやまと絵展。その続編として、常設展で「近世のやまと絵」という特集が組まれていることを知っていますか? やまと絵展は、室町時代までのやまと絵を展示していますが、この特集は、安土桃山時代と江戸時代のやまと絵にスポットライトをあてています。 今日の一枚は、深江芦舟「蔦の細道図屏風」。伊勢物語の宇津山の場面を描いています。 旅の途中で出会った知り合いに、恋

          やまと絵は江戸がアツいか #36

          茶碗はシブ派手でしょうな #35

          企画展『茶の湯の茶碗 ― その歴史と魅力 ― 』 中之島 香雪美術館 2023年11月11日(土) 大阪中之島美術館で長沢芦雪展を見た帰りに、同じ中之島にある香雪美術館にも立ち寄りました。 香雪美術館は、朝日新聞創設者である村山龍平のコレクションをもとに設立された美術館なのだそう。 一番の自慢の茶碗でしょうか。南宋時代の建窯の油滴天目です。建窯の茶碗は、台北の故宮博物院にもありました。 この井戸茶碗はちょっと大振り。シンプルに美しくていいと思います。 今日の一枚は、

          茶碗はシブ派手でしょうな #35