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真に美味しいパフェを食べる時、人は静かになる


 なんだかんだいってまだ関西に住んでいる。

 実は友人達は私が別の場所に住んでいると思っている。なぜなら引っ越す予定だったから。それから社会情勢を受けて延期になったかと思えば、本当になかった事になってしまった。だから私はまだここにいる。
 個別に連絡するのはなんだか照れくさい。曲がりなりにも迷惑をかけた節もある。そもそも連絡をとるのが不得手なのだ。きっとまた「言えや!」と怒られる。だからこうして日記に書いているけれど、たぶん99%伝わらない。ネットの海に漂うボトルメールみたいなものだからだ。

 今日の日記は近況報告みたいなものだ。物質的欲求を満たし続ける日記だ。


 夜パフェというものを知っているだろうか。
 
北海道が発祥とされる、飲んだ後のシメとして楽しむパフェ文化だ。数年前に旭川のホテルの掲示板で紹介されていたのを眺めていたから、存在自体は知っている。なんだったらその時に食べてしまっても良かったのだが、そこにいた私は網走から旭川までの夜道を3時間強、車で駆け抜けたばかりでへとへとだったから、ジンギスカンのことしか考えられなくなっていた。だから本場の夜パフェはまだ口にしたことがない。

 梅雨知らぬ夏の短い土地に息づいた食べ物の文化は、津軽海峡を渡って新しいもの好きの国を下り、瞬く間に広がっていった。今ではパフェにとどまらず、夜限定のアイス屋さんなんてものもそこかしこに出店するようになった。でも私はそれを口にしていなかった。
 
 夜の店はぼったくりが怖い。アルコールで正常な判断ができなくなっている時に突きつけられるお通し代が本当に怖い。真に駄目な店には運良く引っかかったことはないが、どれだけ酔っていたとしてもキャッチの声を聞いてはならないという誓いを胸に刻むくらいの経験はしている。
 
 勿論、これは夜デザート専門店のほとんどが当てはまらないと思う。しかしブームには必ずコバンザメのように「ああ・・・・・・こんなもんだよね」という味のものを提供する店が現れる。それが怖くて、そして少し強めの価格に怯え、今まで距離をとってしまっていた。
 それでもパフェ欲が抑えきれなくなった時は、安全安心全国価格均一のファミレスのパフェに助けを求めていた。ロイヤルホストのフォットファッジサンデーは神の食べ物です。パフェじゃなくてサンデーだけれど。

 こうしてサラリーマンや家族連れに混じり、アイスの入った器に温かなチョコレートを注ぐ日々を送っていたのだが、その手を止める転機があった。夜の店に恐れを抱き、ロイホで充分だよとやさぐれている私に友人が教えてくれた。繊細な砂糖細工のようなパフェの写真を見せて貰ったのだが、なんとその店が大阪にもあるらしい。しかもこのお店、ちゃんと北海道が源流なのだ。こんなの行くしかない。

 そうして電車に揺られて辿り着いたのは心斎橋だった。夜パフェ故に、開店時間は少し遅い。休日は夕方から開けてくれるのだが、それでも時間は有り余ってしまう。なので心ブラをすることにする。

心ブラとは:使ってる関西人はまずいない。銀座ぶらぶらの心斎橋版と思われる。深夜に稀に流れるローカルCMの「心ブラのついでに・・・・・・」というキャッチコピーが面白すぎてネタにしていたら自分の中に息づいてしまった。早く辞めたい。


 これだけ食べ物に執着している私も、実は最近食への興味が急激に薄れてきている。証しはここにある。この5ヶ月で-8.6kgの減量に成功した。

証拠

食欲が失せるきっかけになった、好きな人についての日記はこちら。生活に多大なる影響を受けている。
https://note.com/inutomame/n/ndbd258066428

 三大欲求の一角が成仏しかけ、朝は野菜100%ジュースとゆで卵、昼はカロリーメイト2本かうどん1玉という生活を送っている。夜はある程度きちんとしたものを作っているので安心して欲しい。なすびの蒲焼きとか。
 カロリーメイトはちゃんと美味しい上に栄養バランスが完璧で1本100kcalジャストなので、究極の食べ物として崇め奉っている。鳴門の渦潮近くに感謝の念を捧げながら、毎日かりかり囓っている(大塚製薬の発祥地、現工場はあの辺りなのだ)。


 10年前から痩せる、痩せると言い続けていた私には夢があった。減量に成功したら、いつか買ってみたいと何年も思い続けていたメーカーの服があった。ギリッギリ買えないことはないけれど、手に取るのは躊躇する程度にちょっと高い、かっこいい服。そもそもある程度シュッとした体型に近づかないと着れない服。
 それを、パフェ屋さんの開店を待つ間に見に行った。少し冷たい緊張感が漂う都会的な雰囲気のショップに、アロハシャツで乗り込んだ。
 
 去年の冬に買ってずっと着るのを楽しみにしていたシャツだった。ある意味一張羅とも言える。最高気温が30度を超えると聞いていたので、自らにGOサインを出したのだ。
 そうして柄物のシャツを見ていたら「柄物がお好きなんですか」と聞かれ、そうとしか頷くことはできなかった。普段は色味の乏しい服しか着ていないのに。あまりにも服に説得力がありすぎた。
 
 そのメーカーにしてはお安めの価格帯で、とんでもなく素敵なワンピースを手に入れることができた。全国でラスト1点でした~これはもう運命ですね! と笑われてなんだか照れてしまった。大切にしたい。
 
 なので今、私の手元にはちょっとしたパーチー(なんならちゃんとしたパーティー)に出向ける服がある。ちょいとパーティーを執り行いたい友人がいたら声をかけてほしい。そもそも関西にいないと思われているけれど。

余談:近頃の流行なのか、もしくはこの会社に限るとは思うのだが、店員とライン交換する文化があると知っておののいた。ショップの友達登録かな? と思ってライン交換したら店員さん個人の仕事用アカウントだった。なんなら夜22時に丁寧なお買い上げありがとうメッセージが来て、心労を察して泣きそうになった。大きめの買い物をした後にまれに送られてくるはがきのような物だとは思うけれど、絶対手当をつけてあげて欲しい。時間外の連絡ほど苦痛を伴う物はないからだ。
 ちなみに、緊張のあまり取引先みたいな返信を送ったらその後返事がこなくて安心した。


 まだ時間があったのでポケモンセンターに赴き、ずっと待ち望んでいたシヌヌワン(ボチという犬みたいな見目のポケモン)のぬいぐるみを迎える。店員さんにお目当て買えました? と聞かれ「ボチが好きで来ました・・・・・・」と小さな告白をしたら大きく頷かれた。初めて目にしたカードを1パックだけ買ったらオラチフ(犬みたいなポケモン)が出た。犬に愛されている。


 まだまだパフェ開店まで時間がある! 本当はシメパフェらしく金龍ラーメン(看板から龍が突き出してる店だ)を食べてから行こうとも思っていたのだが、案外パフェは重いとアドバイスを受けていた。しかし同行者が空腹を訴えだしたので極めてポピュラーなファーストフードを食べることにした。何を食べたかはおわかりだろう。

 アメリカ村にて。10個500円。3個だけ貰った。


 アメ村の三角公園に初めて5分以上滞在した。ハロウィンの夜には混沌と化すことで有名な場所だ。今日はアロハシャツを着ていて本当に良かった、妙に馴染む気がする(しかし、真のアメ村の民にはそんな風には思われていないことも重々承知している)。
 
 通りを歩いていたら、いかにも合法です! という風体で(実際そうなんだと思うけれど、)タピオカ屋みたいにメニュー板を出している危なげな植物フレーバーショップがあった。ここは合法な国でも州でもないのに。ちなみに大阪府警の募集ポスターにはものすごくデザインにマッチしたグラフィティが施されていた。相当センスが良く、その上募集要項は読み取ることができるので府警も外していないのだと思う。描かれた文字の意味は知らないが。


アメ村で一番大きな建物、ビッグステップの中にあるエスカレーターは弧を描いているので楽しい。スパイラルエスカレータは世界で唯一、三菱電機しか製造していない。



 そうしてようやく時間が巡る! 紆余曲折を経て(単純に家を出るのが早すぎだ)、夜パフェのお店に辿り着いた。


 店は雑居ビルの中にある。ちなみにこの建物とはなんの関係もないが、この通りの近くで「草」という文字と電話番号が書かれた落書きを正月早々見かけて怯えた思い出がある。


 開店前の列に並んで、席に着いて、パフェのことばかり考えていたら「クーポンはお持ちですか?」という言葉が一切聞き取れなくて、ヤドンみたいな反応を返してしまった。

 シメパフェ文化故に、セットドリンクも基本的にアルコールが中心だった。北海道の文化にあやかりたいため、ニセコ蒸留所のジンをいただく。きりっとしていて美味しい。

 お酒が少ししみた後、ようやく望み続けていた、挑もうとしては諦めていた夜パフェが、遂に目の前にやってきた。まだ16時過ぎだけども。

『紫陽花 -leon blue-』

 組み合わせの妙が凄いことは話に聞いていた。美しさや繊細さについても。

 現在、複数の締め切りが差し迫っているのに、すぐにでも日記に書いておきたくなったのは全部このパフェのせいだ。あとは夢だった服も買えたこと。大好きな犬(ポケモン)を迎えたことも。嬉しいことがありすぎた。こうして書かないとどんどんこぼれ落ちてしまう。

 溶けてしまう前にパフェを食べ始めよう。上に見えている紫陽花を形作っているものは白いんげんのクリーム、ブルーキュラソーで作られた寒天だ。そこだけすくい取ると和菓子の練り切りをいただいているような気持ちに・・・・・・ならない。中にヨーグルトジェラートが包まれているからだ。一口目で和菓子と洋菓子が組み合わさってしまう。

 匙を傾ければ白い縁に行き着く。ここはクレームダンジュだった(フランス発祥のレアチーズケーキとのこと)。優しい餡と酸味の少ない氷菓子、ヨーグルトと由来は同じなのに違う物になってしまったムース、これらが一緒にいるだけで驚いてしまうのに、ここにエンドウ豆の新芽と小さな透明の粒の食感も加わってくる。ケーキにミントがのっていることはままある。ハーブがお菓子に合うのはわかる。対してエンドウ豆は、新芽も実に近い味がするのに。どうしてこれらに合ってしまうのだろう。

 ここまでいただいても、まだ底まで届いていない! カシスのソルベを掘っていたかと思うと、ちょうど匙にのる大きさの香ばしいパイが焼き菓子特有の軽さを加えてきたり、同じ色をしているのに全く違うフレーバーのジェラートが隠れていたり。
 小さなサツマイモのような見目の粒があると思ったら、ぶどうを皮ごと賽の目に切ったものだった。力を加えるとすぐに縮んでしまうぶどうを、このサイズに? 隠れるようにナタデココもいた・・・・・・、きっとまだ気付いていない、知らない何かもたぶんそこにあった。

ちなみに:こんなに詳しく書けているのは、パフェと一緒に「構成」が書かれたカードをいただけたからだ。食材や意図を汲みながら味わうともっと美味しくなる。美術館の展示でキャプションを読むとより鑑賞体験が深まる現象と同じだ。作者による説明書きが大好きなので、とても嬉しい。

 この一品で基本五味を尽くしてくる。口にする度におかしくなりそうだった。パフェをいただいて死を覚悟したのは初めての経験だ。そのくらいの衝撃だった。1ヶ月全てのお菓子を我慢してこの一杯のパフェに費やしても良い。晩ご飯のもずく酢代だってベットしてもいい。本気でそう思った。

 店内はお客さんで満ちていたのに、まだカフェ営業に近い時間帯にも関わらずしんと静まりかえっていた。なぜなら、みんな崩さないようにパフェをいただくこと、そして味わうことに必死だったから。奇しくも、この店を出て少し歩いた場所にある、巨大な蟹の看板がうごめく店の中と同じ現象が起きていた。
 蟹と真に美味しいパフェを食べる時、人は静かになる。

 そうして静かなる至高の一杯をいただいて、お腹の中を冷たく満たして外に出ると、


 混沌が待っていた。情報が多すぎる。橋の上なんかクモ男も写ってるし。

 夜パフェがシメパフェである所以がわかった。あんなに繊細なものを口にして、深夜の静かな道を辿って眠りにつけたならどんなに気持ち良いだろう。多分ひっかけ橋だって夜中なら落ち着く・・・・・・ことはないかもしれない。なんならもっと看板が光り出す。深夜に歩いたことはあったちゃあったが、そもそも周りと景色の記憶が乏しい。大体ぼんやりしたネオンしか見えていない。


 インターネットで見かけたこの看板が撮りたかった! 一人だけアオリ文が良い。

 
 文字の多さにヒーヒーしながら、なんとか胸の内の静けさに近いものを探したくて川縁に降りると、足元にいいものを見つけた。


道頓堀のボラード。川にあるのは多分珍しい。



 こうして情報の寒暖差に晒されながら家に帰ってきて、今も夜パフェの衝撃に打ち震えている。ここまでの数ヶ月、野菜ジュース、卵、レーションみたいなもの! という変化に乏しい食事を選んでいたから、余計頭がびっくりしているのかもしれない。


 パフェのことばかり考えて今後の食生活に支障が出そうな私だが、減量の神にはまだまだ見捨てられていないようだった。タイミングを見計らったように、吉報が舞い込んで来たからだ。


https://www.otsuka.co.jp/faq/caloriemate/11.html
 
カロリーメイト、4味から5味に戻るそうです。(フルーツ味が復活します)

家庭用プリンターだって4色で虹色を出せるのだから、5味あったらもう無限みたいなもんだな〜。
    

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