ブックカバー(ラクダ色の本棚)
家の本棚をながめると一面ラクダ色である。ほとんどの本に書店のカバーがしてあり、一見してどれがなんの本かわからない。
本を読み返したいときには、カバーの種類とおおよその位置で見当をつけている。
ざっと見わたすと、紀伊國屋書店や丸善ジュンク堂書店など、全国チェーンの書店のカバーが多い。
後者のカバーは丸善のものとジュンク堂書店のものと、MARUZEN&ジュンク堂書店のものの3パターンがある。
ほかに大学の近くにあった芳林堂書店やいけだ書店、また今はなきリブロのカバーも多い。
もちろんフタバ図書や廣文館、今はなき金正堂など、広島の書店のカバーも目立つ。読書するカープ坊やが描かれた、フタバ図書と広島カープのコラボカバーというのもある。
カープ坊やが読んでいるのはカープの本だが、じっさいこのカバーで包まれているのは、森見登美彦『恋文の技術』である。
学生時代、東京にいたころは書店のカバー集めにハマっていた。
本を買うときには電車賃を払って、まだカバーを持っていない書店に足を運んだ。
三省堂書店のカバーのために神保町へ、青山ブックセンターのカバーのために渋谷へ、ブックファーストのカバーのために新宿へ、旭屋書店のカバーのために池袋へ、啓文堂書店のカバーのために吉祥寺へむかった。
岩波書店の本を買うならと、わざわざ今はなき神保町の岩波ブックセンターに行った。
広島に帰省して新幹線で帰ってきたときには、品川駅のほうが家に近いにもかかわらず、八重洲ブックセンターのカバーのために東京駅で降りた。
とはいえ、いつも書店のオリジナルカバーをつけてもらえるとはかぎらない。たまに企業の広告カバーをつけられることもある。
遠出した書店でレジの店員がこのカバーをつけはじめると、「ああ、もうけっこうです。その本、返品します」と言うにいわれず絶望的な気分になる。カバー目当てで電車に乗ってきたというのに……。
広告カバーをつけられたときには、家に帰ってべつの書店のカバーにつけ替える。机の引出しに大量のカバーがストックしてあった。
これは古書店で本を売ったときなどに、もともとつけていたカバーを取っておいたものだ。
反対に、古書店で本を買ったときには、このストックのカバーをつけることになる。
もっとも、さいきんはストックのカバーを使う機会もめっきり減った。引出しの奥でペタンコになって眠っている。というのも、アマゾンがオリジナルカバーのサービスをはじめたからだ。
4パターンのデザインのPDFが用意されており、100円ショップなどでクラフト紙を買ってきてプリンターで印刷すれば、書店と変わらぬクオリティのカバーを入手できる。
アマゾンのページではご丁寧にカバーのつけ方まで指南してくれている。デザインもシンプルで秀逸なため、猛スピードで本棚の勢力図を塗り替えつつある。
本棚のラクダ色の景観は守られているが、すみっこには透明なビニールカバーをまとった本のコーナーもある。
100円ショップのペラペラのカバーでなく、収集用のしっかりとしたソフトカバーである。
そのコーナーの背表紙を見ると、村上春樹・村上龍『ウォーク・ドント・ラン』、中上健次・村上龍『俺達の舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて――。』、中上健次『岬』などがある。
対談本が多いが、どれも古書店で買った初版本である。
いぜんはここに、庵野秀明・岩井俊二『マジック・ランチャー』という本もあったが、ヤフオクで売ってしまった。
長らくメルカリに出品していて売れなかったが、庵野監督がNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演し、映画『シン・エヴァンゲリオン』も大ヒットするとすぐに売れた。
メルカリでなくヤフオクで売ったのは、そのほうが高く売れるからだ。逆に、買うならメルカリのほうがお得である。
思えばアマゾンのカバーのおかげで、アマゾンやメルカリで本を買うことが多くなった。書店から足が遠ざかっている。
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