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今後の予定 4『じゃあお前は何が書きたいのか?(目的について)』1 目指すべき先行作品の一つとしての『ニンジャスレイヤー』

・Why : どんな価値や目的のために活躍するのか(先行作品が垣間見せた「彼岸の星」)

(1)中高生時代:時代伝奇小説漬けの青春

元々は、自宅に時代伝奇小説が結構あり(主に父の趣味だったのだと思います)、陳舜臣『小説十八史略』、半村良『太陽の世界』『妖星伝』、隆慶一郎『一夢庵風流記』『柳生非情剣』『死ぬことと見つけたり』『花と火の帝』などを浴びるように読みふけっていたのです。

(山田風太郎も読まないとな、と思うんですが、『魔界転生』がどうも脳の鍵穴と合致していないらしく、それきりになっています)

(荒山徹は多分全部持ってます。あの人も酒精と風味と芳香と刺激が尖りながらケンカしていた強いスピリッツみたいな小説を書く方でしたが、今は魔的に熟成したアイラモルトの20年物みたいな風格を持つ小説を醸し出して来るから、本当にファン冥利に尽きるというものです)

(2)大学時代:二次創作小説塗れの青春

そうして、気が付いたら自分でも小説の真似事をするようになっていたんですよ。それが私の最初の小説の下地なんですね。

大昔、成人ゲーム業界に、どういうわけだが尖ったシナリオライターが集まっていた頃、Tacticsという気鋭のソフトハウスがありました。

そこで作られた成人ゲーム"MOON."の二次創作連載短編小説(当時は二次創作短編小説は「ショートストーリー」、"SS"と呼ばれていた)『A棟巡回員の怠惰なる日常』を書いて完結させたのが、おそらく私が人前に小説を公開した初めての体験です。上京して、大学の楽しい遊び場、ネットワーク室で、勉強もせずに、黙々と。バカでは…?

(あらかじめ言っておくと、ここは二次創作に対して基本的に法的措置を取らない方針を明示しており、そういう意味では気軽なものでした。さらには二次創作小説投稿ページ『ショートストーリーのコーナー』まで設置されており、二次創作は意図的に推奨されていたと判断されます。)

なお、次の本格連載"Our way is FAR to GO"はエターナってしまいました。当時の読者や関係者の皆様方、本当に申し訳ございません。

当時、SSコーナーは、いろんな人が来て、暴れる人もいて、荒れ狂い、人が逃げ、最終的には凍結されてしまったのでした。これでは投稿どころではありません。

また、当時の私は躾のなっていない野良犬のような大学生であり、この騒動の余波をモロに食らい(騒動において私に責任がないとは口が裂けても言わない)、誠に勝手な話ながら、書く気がへし折れた、というのもあります。

なお、再開の予定は基本的にございません。ご理解の程宜しくお願いいたします。

(3)社会人時代:新たな小説や漫画との出会い

それから私はIT企業に就職し、詳しくは説明しませんが、心身をメチャクチャに壊して退職し、地元の石川県金沢市に出戻り、転職しました。

その後も小説を書こう書こうと思っていましたが、またSSコーナーでの自分の不勉強や人格の練れてなさを痛感して、まずは書きたいものを正確に表すために必要な資料を無限に読んでいて、自分の人格も望ましい形になるよう無限に書き換えていって、そうやって過ごしていました(今も基本的にはそういう感じです)。

(3-1)『ニンジャスレイヤー』

ある日、本当に偶然、ふたば☆ちゃんねるimg板を徘徊していたら、なんか眇目をしつつ刮目した忍者装束の男のアイコンがこちらを睨んでいるではありませんか。これが『ニンジャスレイヤー』との出会いでした。

『ニンジャスレイヤー』、いろいろありますが、すごい小説ですよ。

まずはちょっと読んだ瞬間「近未来重金属酸性雨ネオン街電脳ネットワーク機械化人体改造SFネタバカ小説だ」と誰しも思うでしょう。

しかしそのうち、力や金や地位の格差でうまくいかない弱者が死んだり苦しんだり抗ったり、

魔の力に魅入られた怪力乱神的超人存在(これを作中ではなんと『ニンジャ』と呼ぶのですね)が我欲をうまくやっていくために他人を呼吸のように食い物にしたり、

そんなニンジャたちを気鋭のニンジャマフィアやそのドンがさらに使役・搾取して人生を謳歌したり、

そんな彼らをスーパーヒーロー・ニンジャを殺す復讐のニンジャ『ニンジャスレイヤー』が皆殺しにしたりする、そういうウェットなヒーローものであることが分かってきます。

また、作者たちが、このウェットなヒーローもののフォーマットを土台にして、ほとんど思いつく限りありとあらゆる形式の面白そうな物語を記述できるようにしたい、と考えていることも。

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(!注意!ここからは第一部と第二部の手短だが重大なネタバレと、第三部の長く決定的なネタバレがあります。ヤバイと思ったら「戻る」を押す等をお勧めします)

当時のニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジは、第一部と第二部では妻子の仇である抗争中の二大ニンジャマフィアを滅ぼします。

しかし第三部からはそうではなくなり、フジキドはいったん戦いの理由を見失います。仇の首を捧げるべき妻子には、仇の首を全部捧げてしまった。じゃあどうするか。なお戦うのか。だとしたら何のためか。まさか正義のためとか言うまいな。そういうのではなく、肝心要のフジキド本人の中に、戦う動機はあるのかないのか。

そして、第三部の敵である新規ニンジャマフィアは、ネオサイタマ首都地方政府や日本国家政府に骨絡みに食い込んでおり、とあるロストテクノロジーの回復により世界征服を目論んでいる、という筋書きになります。

この世界統合帝国的管理社会を目指すニンジャマフィアを、フジキドは滅ぼします。

そして、世界の統合は半永久的に失われ、国家レベルの管理体制も崩壊し、新しい中世めいた、バラバラの分散地方社会が残りました。

フジキド本人もニンジャスレイヤーではなくなり、自分の人生を歩むことになり、そして後に(即ち、第四部で)新たにニンジャスレイヤーとなる者が現れます。と、そんな状況下で、今、第四部が連載されています。

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「新しい中世」とは、主権国家の枠組みと整合的でない地方政府や多国籍企業等の様々な動きの結果、複数国家間の地域統合が行われたり、また逆に国家統合が綻びて複数の地方が国家とはほぼ独立に機能したり、国家が軍事力や警察力を独占できなくなったり、そういう主権国家の枠組みが綻びた結果生じた世界システムです。主権国家の枠組みが出来る前の、中世に通じるところがあるので、こう呼ばれます。

初期はヘドリー・ブルにより、どちらかというと混乱によるデメリットの文脈で語られました。後には田中明彦により問題意識はさらに精緻化し、「これは避けがたい欧米先進国の領域のトレンドであり、それに取り残されるふつうの国家たちの領域や、それ以前の問題として国家統合自体ができていない小社会たちの領域とで、世界システムとしては三つの分断された領域が出てくる。さあどうしましょうね」という、避けがたく来るべき世界像として描かれました。

面白いことに、一時期論じられていたような、統合世界政府にはならなさそうなんですね。後でそっちに行くかもしれないが、当面はそうではない。あるいは、そもそも統合世界政府になる可能性はほぼない。ということなのかもしれません。

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ということで、正直、第三部の結末には「おおっ」という感銘を受けました。帝国めいた統合世界政府を否定して、実際に形成されつつある、新しい中世めいた分散地方社会のモデルだからです。

こういうのはこれまでも伊藤計劃『ハーモニー』で、国家とはほぼ独立かつほぼ無関係である、超強力な保健所、「生府/ vigorment / admedistration」の管轄がたくさんある社会、というのを見ていました。

で、そういうのは『ニンジャスレイヤー』でも描かれるくらい無視できないモチーフなんだ、なるほどなあ、という感銘がありました。

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この前、「彼岸の星」の話をちょろっとしましたが、上の話もそれに導くものです。具体的には、おそらく第五部では、新しい中世を超えた何かが描かれるでしょう。だとしたらそれは何か。ネットワーク上の権力主体たち、マルチチュードか(でもそんなネットワークはニンジャスレイヤー世界ではもう半永久的に失われたはずだ)、それとも作者たちにはもっと先のものが見えているのか。

「もっと先のもの」が垣間見える。それが「彼岸の星」だ。それを垣間見させてくれる作品、とんでもなく有難い(私がSFっぽいものに惹かれるのは、おそらくはそういう「彼岸の星」を見せてくれるかもしれないからです。自分の中を振り返ってみるとそんな気がする)。

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そんなわけで、私にとって『ニンジャスレイヤー』とは、高度技術社会と管理社会体制と世界システムの、いわば工学と社会科学の「彼岸の星」を見せてくれたし、もっと先の「彼岸の星」をも見せてくれそうな、目指すべき先行作品の一つとしては欠かせないものです。(いやお前…高度技術社会はともかく、管理社会体制もまあともかく、ニンジャスレイヤー読んで世界システムについて考えたりするの、まるで訳が分からんぞ…?)

私にとってそのような作品が、実はまだいくつかございます。ですが、今日はここまでにします(仕切られていない隣室の弟君が寝てしまっているので、そろそろここらで切り上げねばなりません)。また明日。

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