数学(2022/7/16):キューネン本2冊についての記事_15.ZFC集合論の公理のリスト_13(中間成果物:遺伝的有限集合全体の集合)
1.基数としての自然数全体の集合以降の展開で、(緩い)構成主義的数学の世界を構成する
1.無限基数
ようやく基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" を構成したのでした。
しかし、『形式言語』の記事、『始順序数』の項目、特に極限順序数における始順序数に関する記述で、あることを示唆していたのでした。
すなわち、
「無限基数にはいくつかのサイズがある。
例えば、基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" より、基数としての実数全体の集合、『連続体濃度』または "aleph-1" と呼ばれるものの方が、より大きい」
ということです。
"omega-0" や、"omega-n" から "omega-(n+1)" を求める方法や、n が極限順序数だった場合の "omega-n" についても、同じ箇所に記述しました。
今や、"aleph-0" が構成できた訳です。
そして、"omega-n" に関する記述は、そっくりそのまま、"aleph-0" や、"aleph-n" から "aleph-(n+1)" を求める方法や、n が極限順序数だった場合の "aleph-n" について流用できます。
***
また、少し下の『順序数の和』の項目で、やはりこのような話をしました。
「"omega-k" + m = "omega-k" + m
であるが、
m + "omega-k" = "omega-k"
となる。
有限順序数に極限順序数における始順序数を足すと、それは極限順序数における始順序数そのものとなり、有限基数は全て吸収されてしまう。
この性質があるため、順序数の和において2変数の交換律は成り立たないことがある」
"aleph-k" では、もっとシンプルな話になります。
つまり、
「κ と λ が基数で、少なくとも一方は無限であるとする。
このとき κ と λ の、基数としての和とは、両者のうち最大要素である方と同等である」
これが、無限基数と呼べるものにおける、基数の和の大きな特徴です。
結果的に、無限基数と呼べるものは、 "aleph-n" という形式しかとりません。
有限基数 m を考えた場合に、m + "aleph-n" や "aleph-n" + m などというものは存在しません。全て "aleph-n" に吸収されます。
逆に言えば、これら "aleph-n" のこと「を」、『無限基数』と呼ぶ、ということです。
2.ある無限基数における整礎的集合一般
こうして得られた無限基数には、ある応用があります。
整礎的集合一般 R(α) には、順序数 α が対応しているのでした。
ここに無限基数を代入すると、仮に『ある無限基数における整礎的集合一般』 R(κ) と呼びうるものができます。
順序数が極限順序数のとき、R(α) は(所属による)推移的集合の集合族の要素である全体の集合に対し、和集合を取ったものと等しくなるのでした。
無限基数は極限順序数の一種であり、この場合と同様の扱いになります。
3.ある無限基数における遺伝的集合全体の集合
集合のうち、その推移閉包の基数が、ある無限基数 κ 未満であるとします。
(もちろんこの集合は有限集合でも無限集合でも使えます。後述)
ある無限基数にとって、このような性質を持つ集合全体の集合を、個人的に『ある無限基数における遺伝的集合全体の集合』 H(κ) と呼ぶことにします。
(集合のうち、その推移閉包の基数が、ある基数 α 未満であった場合、こうした集合全体の集合を一般に『遺伝的集合全体の集合』 H(α) と呼びます。
『ある無限基数における遺伝的集合全体の集合』 H(κ) は『遺伝的集合全体の集合』 H(α) の一種です。)
実は、『ある無限基数における遺伝的集合全体の集合』 H(κ) は『ある無限基数における整礎的集合一般』 R(κ) の部分集合です。
4.遺伝的有限集合全体の集合
『ある無限基数における遺伝的集合全体の集合』 H(κ) のうち、特に κ = "aleph-0" であった場合のものを、『遺伝的有限集合全体の集合』 H(aleph-0) = HF と呼びます。
これは、有限集合のうち、その推移閉包の基数が、"aleph-0" 未満であるとした場合と同じことです。
***
何が言いたいのか?
(緩い)数学的構成主義においては、「有限の数学的対象全てを扱える世界」が、最終的には要請されてきていた、という話をしてきたのでした。
上の定義を見ると、どうやら、この『遺伝的有限集合全体の集合』 HF こそが、目指す「有限の数学的対象全てを扱える世界」なのではないか、という示唆があります。
全ての有限の数学的対象は、『遺伝的有限集合全体の集合』 HF に、所属するか、包含される。
そして、キューネン基礎論によると、実際にその通りなのです。
思っていたより早く、(緩い)数学的構成主義のゴールとなる数学的対象にたどりついた訳です。良かったですね。
2.次回予告
(緩い)数学的構成主義においては、「有限の数学的対象全てを扱える世界」が、最終的には要請されてきていたのでした。
しかし、これでは困ります。
「無限の数学的対象全てを扱える世界」でないと、無限集合「を」扱うことは不可能です。
これまでの話はあくまで、無限集合や真クラスを、架空のものとして道具的に使って、そうしてたどり着いたものです。
そうではなく、無限集合「を」扱えてしかるべきです。
こうでないと、自然数全体の集合「そのもの」を使って何かを構成することすら不可能でしょう。
例えば実数全体の集合すら作れません。
作れたとしてもそれは、
「ある世界を作るための、その世界には実際には存在しない虚構」
でしかありません。
(現に、基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" や、基数としての実数全体の集合、『連続体濃度』または "aleph-1" 等の無限基数は、これまでの話では、架空の道具としてしか使われていません。)
それはとても不自由です。
何せ、実数全体の集合すら作れないということは、小学校算数(確か4年)で既におなじみの平面すなわち2次元ユークリッド空間や、いわゆる空間すなわち3次元ユークリッド空間すら構成できない、ということなのですから。
小学校算数で出てくるものは、せめて、作れていてほしいですよね。
「ある世界を作るための、その世界には実際には存在しない虚構」
ではなく、
「何らかの世界で、何かを実際に作れるもの」
として、有限の数学的対象のみならず、無限の数学的対象も扱えていたい。
それではどうするか。
最後に、その話に、ほんのわずかながら触れます。
また、その時に、記号論理学で最後に構成されるべき基本的な道具、「記号化された演繹」、『形式的演繹』の話にも触れます。
とりあえず、これで、この長い記事も、本質的には終わりです。
あと一息、頑張ります。
(続く)
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