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〈BOOKロングレビュー〉門脇綱生『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』: ニューエイジの新たな様相と電子音楽としての真価をあぶり出す書(天野龍太郎)【2020.6 146】

■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間レヴューBOOK〉掲載記事。門脇綱生の2020年7月17日発売「ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド」をレビューした記事です。

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intoxicate 146


ニューエイジの新たな様相と電子音楽としての真価をあぶり出す書(天野龍太郎)

ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド

【MUSIC】
ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド

門脇綱生/著
DU BOOKS ISBN:9784866471235 

 ニューエイジが音楽の世界で肯定的に捉えられるようになったのは、2010 年代に入ってからだと思う。もちろん「そんなことはない!」という意見もあろうが、少なくともそれまでは大きな波になることはなく、ごく一部の好事家の間で聴かれているにすぎなかった。レコードの市場価値は無いに等しく、それ以上にシリアスに聴かれるべき音楽とは考えられていなかったのだ。「癒し」や「リラクゼーション」の効能を持つ機能的な音楽であり、瞑想や自己啓発のBGMとしてつくられたニューエイジは、「音楽のための音楽」ではない。だから、芸術ではない――。疑似宗教にも接点を持つスピリチュアルな側面を危険視する向きもあったほどだろう。


 そんな不遇をかこってきたニューエイジの音楽的、芸術的側面が近年再評価されている。ある時期まで「ダサい」と思われてきたデジタルシンセサイザーの音色や独特の音像は一転して「アリ」になり、電子音楽の一ジャンルとして歴史的に位置づけられつつある。背景や思想とは切り離されたところで、純粋に電子音楽として聴かれているのだ(ただ、これはなかなか音楽の世界で言われないことだが、ある側面ではリバイバルが新たなスピリチュア
リズムのブームとも結びついていることは、ここで指摘しておいたほうがいいだろう)。


 ニューエイジを「ネタ」として消費したヴェイパーウェイヴの登場、近接ジャンルであるアンビエントや環境音楽(Light in the Atticによる2019年のコンピレーションがグラミー賞にノミネートされたことも記憶に新しい)の
再評価、あるいは「バレアリック」という視点。この『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』はそれらの文脈を踏まえ、現代におけるニューエイジの新たな様相と電子音楽としての真価をあぶり出す。


 ニューエイジを今改めて体系化するにあたり、その範囲を広げているのも本書の特徴だ。サイケデリック・ロックやプログレッシヴ・ロック、ミニマルといったルーツ・ジャンルのレコードから、リイシューや現行の作家たちによるものまで、数多の作品が並んでいる。また「耳による」評価を重視し、アニメのサウンドトラックや柴崎祐二が発見した「俗流アンビエント」すら取り上げる。その抽象的な音像と相似形に拡張していくニューエイジの定義。ミュージシャンの岡田拓郎による細野晴臣へのインタヴューも収められており、ニューエイジを音楽的に聴くための世界で唯一の書、と言っていいだろう。


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*写真は、本書の企画の元となった同人誌の表紙です


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