「おばあちゃんの話」3/5 「1週間」|公募インタビュー#31

まきさん(仮名) 2021年9月初旬〉

・・・2/5 急いだ結婚式と、前々からとっていた休暇 からの続きです・・・

牧さんは、大好きなお祖母様おばあさまのお話をしてくださいました。お別れから3年が経とうとする今も、寂しくて死を受け入れられないと言います。やさしくすてきだったお祖母様との思い出や、牧さんとのつながりが引き寄せたようなめぐりあわせの数々。時に笑い、時に涙声になりながら語ってくださいました。

月曜日 告知

牧さん 10月末になって、旦那と2人で地元に帰ったんですね。で、着いた次の日に私は母と一緒にお見舞いに行ったんですよ。
 祖母はベッドに寝ていて、いつもに比べたらちょっと血色が悪いっていうか、病人みたいな顔して寝てたんですけど、でもしゃべりかけたら普通に返してくれました。「具合どう?」って言ったら、「なんかおしっこが出んのよねえ、ちょっとは出るけど、あんまり出んのよねえ」って。「ああそうなんや、大変やねえ」って言ってたんですけど。

 その日、お医者さんからお話があるんですけど、と言われて、母と一緒にお医者さんのお話を聞きに行ったんです。

 そしたら、「正直、もういつまでもつかわからないです」って言われちゃって。もうほとんど尿が作られてないから、体から水分だけじゃなく毒素とかも出せなくて、そうなると人間ってすぐ死んじゃうらしいんですよ。透析とかする体力も、もう90歳だから残ってないし、正直やれることがありませんっていう話で、だから、「もうこのままだと1週間もたない、あとは本人の体力次第だと思います」って言われてしまって、すごいショック受けたんですね、私たち。帰ってきてその話聞くまで、まさか祖母が亡くなる……とかも思ってなかったし、すごい元気な人だったんで、祖母が亡くなることは、私、想像したことがなかったんですよ。一回も。100歳過ぎるまでこの感じで生きてくんだろうなっていう感じの人だったんで、祖母が亡くなるなんて全然思ってなかったところに、正直1週間もちませんって言われたので、まず、すっごいびっくりしちゃって。

 で、それは祖母には言えないんで、黙っとこうって話になりました。

 その日は月曜日だったんですね。日曜日に帰省してきて、月曜日に告知を聞いたんですよ。で、休暇で帰ってきてるんで、遊びの予定も入ってたんですけど、それは全部いったんキャンセルして、これはもう祖母のところに毎日行かないといけないなって思って。
 旦那も、告知を聞いた日には来なかったんですけど、連絡して、おばあちゃんこんな感じで、もうやばいらしいんだよねって言ったらすぐ飛んできて。

 そこから毎日、うちの実家から祖母の病院まで、母と夫と3人でお見舞いに通い出しました。うちの弟の奥さんも、まだ子供が小さかったりで毎日は無理だけど、ちょこちょこ来てくれましたね。

火曜日 結婚式のDVD

牧さん 月曜日に母と私で告知を受けたんですけど、火曜日はおばあちゃん、まだ退院する気満々でした。

 おじいちゃんも、誰もお世話する人がいないんで、おばあちゃんが入院してる病院の別の部屋に入院させていただいてたんですよ。でも、おじいちゃんには、おばあちゃんが病気だって言うと心配しちゃうので言っていませんでした。それもあるし、おばあちゃんは、病院にもこうやってご厚意で入院させてもらっていて申し訳ないから、早く元気になっておじいちゃん連れて家に帰りたい、って言っていました。

 うん、そうだねー、退院したら今度こそ温泉また行こうねーとか話してて。ちょうど私の結婚式のDVDが出来て、持って来ていたんで、病室にパソコン持って行って、おばあちゃんに見せました。「楽しかったよねー」って言ったら、おばあちゃんも、「ほんとあの時は楽しかったー」って言って、すごい喜んで一緒に見てくれたんですよ。それが火曜日でした。

水曜日 みんなへの言葉、おじいちゃんとの会話

牧さん そう過ごしながらも、尿が全然出ないんで、腹水がたまっていって、だんだん病状が悪くなっていって。水曜日になって、おばあちゃん、急に自分でもうだめだなって気付いたみたいで。おばあちゃんに、あなたもうすぐ亡くなりますよとは誰も言ってないんですけど、これはたぶんやばいなって、おばあちゃん自分で悟っちゃったんですよ。で、急に、自分が死ぬ準備を始めたんですよ。

──えー……すごい。

牧さん (笑) 親戚の、あの人とこの人を呼べ、って言って(笑)。

──(笑)

牧さん (笑) で、来た親戚みんなに、何か1個ずつ、あなたは私が亡くなったらあれをしてくれ、あなたにはあれを頼むとか、頼みごとを始めたんですよ。お寺の人に連絡を、とか、あそこの誰々さんにあなたは連絡しなさいねとか。来る親戚も、私たちからおばあちゃんもう危なくて、っていうのは聞かされて来てるから、一応わかってはいるんですけど、おばあちゃんがそうやって一人ひとりにあれをやれこれをやれって言ってくるんで、まだ死んでもないとにそんなこと言わないでよ、みたいな感じで言うんですけど、おばあちゃんのほうは真剣なんですよ。

 で、私には、あの、ちょっとおかしいんですけど(笑)、自分が死んで、お坊さんが家に来たら、その時はお坊さんに出す用の立派な蓋付きの湯呑みがあるから、って。その湯呑みは、ここに入ってて、何色のやつで、茶托はこれがいいやつだから使いなさいっていうのを私に言ってきて、私の役割はそれだったんですよ。「あんたにはそれ頼むね」って言われたんですよ(笑)。

──へええ。

牧さん 母には、お金のことを頼むって言ってて。
 そのお金のこともすごいしっかりしててびっくりしたんですけど、お葬式代は貯金をしている口座じゃなくて、自宅のここに置いてるから、葬式代は心配するなって(笑)。自分が病気になる前から、自分とそのおじいちゃんの葬式代だけは別で置いてたらしいんです。
 お年寄りが急に亡くなって、家族が本人の口座からお葬式代を下ろそうと思っても、亡くなったと言う情報が銀行に行ってたらお金が下ろせなくなるんですって。だからみんな、亡くなったら、超急いで銀行に行ってお葬式代だけでもとりあえず下ろして葬式するっていうのがあるあるらしいんですけど、おばあちゃんは、家族がその時あわてなくて済むように、葬式代は別に現金で自宅に置いてたんですよ。

──なるほど。すごい。

牧さん その他の貯金については、亡くなってからだと相続税が発生するから、今のうちにできるだけ、気付かれないようにATM行って、毎日(上限の)50万ずつ下ろしなさいって(笑)お母さんに言ってたんですよ(笑)。お母さんの役割はそういう、お金のことで。

 で、あと、うちの旦那には……私のことよろしくね、って…………
 その時私も横にいたんですけど、この子は口が悪くて、よく人に勘違いされるけど、本当はすごい……おばあちゃんが言うにはですけど……やさしい子だから、だからよろしくね、って旦那に言ってて……すいません……旦那も、はい、って言って。

牧さん その日、おばあちゃんはいろんな人にいろいろ言い終わって、はあ…(吐息)みたいになって。疲れたのもあったと思うんですけど、おばあちゃん、刻一刻と弱ってきて、夕方けっこうぐったりしちゃったんですね。

 これもう、いよいよここでおじいちゃんに会わせとかないと、亡くなるまでおじいちゃんに会えないんじゃないかなって、私、急に思ったんで、お母さんに、おばあちゃんをおじいちゃんに会わせてあげた方がいいんじゃない?って言ったんです。お母さんは、おじいちゃんに会わせても(まだらの認知症なので)もしかしたらおばあちゃんが病気ってことよくわかんないかもしれないし、わかったらわかったでおじいちゃんの方まで気落ちしちゃうから、教えない方がいいんじゃない?って言ってきたんですけど、いや、でも、おじいちゃんに教えないのはひどいでしょ、って言って。

 それでその水曜日の夕方に、お医者さんに、おじいちゃんと一回会わせたいんです、って言って、おじいちゃんを車椅子に乗せてもらって、おばあちゃんのベッドサイドまで連れてきてもらったんですね。

 おばあちゃんはその時は起き上がれなかったけど、ちょっと目を開いて「あ、おとうさん来たんだ」って言って。おじいちゃんの手をおばあちゃんが握って、おばあちゃんが「ごめんね。ちょっと病気になっちゃって」みたいなことを言ったら、おじいちゃんが、その時たぶん意識がはっきりしてたのかなって思うんですけど、「助けてやれんでごめんな」みたいなことを言ったんですよ。

 おじいちゃんがそんなこと言ったんで、もうそれ見てて私たちみんな号泣して。
 で、2人でしばらく、なんも言わないけど手を握り合ってて、それを見てたんですけど、なんか10分ぐらいして、あれ?なんか2人とも動かなくなったけど、何?って思ったら、寝てたんですよ。

──(笑)

牧さん (笑) おばあちゃんもたぶん疲れて寝ちゃってて、おじいちゃんも車椅子に座ったまま寝ちゃってて(笑)。ええ〜?みたいになって、まあ寝ちゃってるからいっか、って、もうそのままおじいちゃんをまたベッドに戻したんですけど。
 でも結局、やっぱりそれが(二人が)会えた最後になって。だからそのタイミングで会わせててよかったなあって……思うんですけど。

木曜日 モルヒネを打つ

牧さん 木曜日の朝に行ったら、おばあちゃん、すごく苦しそうだったんですよ。腹水がたまりすぎると水が行き場を失って、今度は上にたまって肺を圧迫して、息がしづらくなるんです。おばあちゃん、すごいゼイゼイして、苦しそうで。

 本人もきついきついって言ってたんで、お医者さんがモルヒネ打ちますか?って聞いてきたんですよ。ああ、モルヒネか…と。モルヒネを打ったら意識もなくなるし、打ったらすぐ死んじゃうんじゃないかっていうイメージがあって、どうだろう…と。本人に聞いたら、きついから楽にしてほしいって言って。お医者さんの話では、モルヒネを打っても、意識は遠のくから楽にはなるけど、完全に意識がなくなるわけでもなく、それにモルヒネのせいで死ぬということはないと。ただ、体が楽になったら、生きようという気力が薄れてスッと亡くなっちゃう人はいるけど、モルヒネに毒性があって死ぬということはないですという話だったので、じゃあ本人も打ってほしいって言ってるし、ということでお願いして、木曜日にモルヒネを打ってもらったんです。
 
 そのあとは私たちともしゃべれなくなって。ずっとおばあちゃんが寝てるのを、私たちが手足をさすりながら見てる、っていうふうになって。

 で…おばあちゃん、総入れ歯だったんですけど、モルヒネを打って寝てたら、入れ歯がめっちゃ外れてくるんですよ(笑)。おばあちゃん、口をがばあって開けて寝る癖があって、それ、私とお母さんにも遺伝しちゃってて、私たちみんな寝てたら口ががばあって開いちゃうんですけど(笑)、その時もおばあちゃんが寝てたら口が開いてきて、入れ歯がめっちゃカポカポしてて。それ見てたら笑えてきて、ちょっとこれ、もう外したほうがいいかなあって言って、入れ歯を外したら外したで口がずっとモゴモゴモゴモゴなって、いや、やっぱ入れた方がよくない?(笑)とか言って。

 まあ、そんな感じで、和気藹々としたりもして、木曜日はモルヒネ入れたけど今すぐ死ぬっていうような状況じゃなかったんですね。けっこう穏やかに、おばあちゃん寝てるだけ、みたいな。

金曜日 マッサージとギンナン、そして

牧さん 金曜日もずっとモルヒネ入ってて、相変わらず入れ歯を入れた口はカポカポしてるし(笑)だったんですけど、ただ、金曜日になったらチアノーゼというのか、足先が黒ずんできたんですよ。わあ、血の巡りが悪いからこんな足黒くなるんやろけど、まだ生きてるのにちょっとずつ足の先から死んでくみたいでやだねって言って、私とお母さんでめっちゃ足こすって(笑)。ちょっとでもさすって、血の巡りよくなったらいいねって、2人でそうやって手とか足とかマッサージしてあげてて。途中でおじいちゃんのほうもちょっと様子見に行ったりとかして。
 
 おじいちゃん、ギンナンがすごく好きなんです。おばあちゃんがいつもフライパンでギンナンをって、おじいちゃんに食べさせてたんですよ。おじいちゃん、それがすっごい好きでおやつとしてよく食べてたんで、私が木曜日にスーパーで見つけたギンナンを家で炒って、金曜日におじいちゃんに持って行ったんです。

 ちょうどその日、弟の奥さんも来てて。弟の奥さん、介護士さんなんで、私が1人で食べさせるより一緒のほうがいいかなって思って、食べさせるけん一緒行こーって言って。看護師さんにもギンナン食べさせていいですかって聞いて、昼寝してたおじいちゃん起こして「おじいちゃんおじいちゃん、ギンナン持ってきたよー」って言ったら、「ああ、ギンナンかあ」って言って、食べたそうにしてるんですよ。好物だから。

 入れ歯が外れてたんで、弟の奥さんに入れ歯を入れてもらって、ギンナンだよーって言って口に入れたんですよ。そしたら、私のギンナンの炒り方が下手くそだったのかわかんないんですけど、おじいちゃんにはちょっと固かったのか、口の中でずっとコロコロコロコロしてて。ずっと噛めてないのが笑えてきてしまって。結局一個も噛めないから、弟の奥さんが口の中に手を入れて、ギンナンをちゃんと歯のところに置いて、それでやっと噛めて。そうしないとギンナン食べれなくて、マジであせりました。

牧さん おばあちゃんは寝てるし、おじいちゃんもそんな感じだし、なんか、ぬるーっと時間が流れて。近くに住んでて会いに来れる親戚はぼちぼち会いに来て、でもなんか普通に寝とるみたいに見えるねーとか言って。今落ち着いとるし、そんな、2〜3日で亡くなるようには思えんねーってみんな言ってて。で、私たちも金曜日の夕方に、一回家に帰ったんですよ。

 その頃には叔母が帰省していて、私たち夫婦とお母さんは昼間おばあちゃんの様子を見てたんで、叔母さんは夜間見てくれてたんですよ。叔母さんは昼間は家に帰って家事したり休憩したりして、夜は病院に来ておばあちゃんの横に置いてもらった簡易ベッドで寝泊りしてたんです。

 金曜日の夕方も私たちが帰るタイミングで入れ替わりで来てくれて、そこから叔母さんが見てくれてたんですね。で、私たちが家に着いて、晩ごはんの支度をしてたら、6時ぐらいに叔母から電話がかかってきて。おばあちゃん、心臓止まっちゃった、って。

 それですぐに病院に戻りました。その時にはうちの父も仕事から帰ってきてたんで、4人で一緒に。すごい急いで行ったんですよ。普段2時間かかるんですけど、私が高速道路めちゃくちゃ飛ばして(笑)運転して、1時間で着いて。でも、病室に行ったら叔母さんがわーって泣いてて。おばあちゃん、電話の時に心臓止まっちゃって、そこで亡くなっちゃったっていう話で。でも……死んだって言ってもまだ1時間ぐらいだったんで、手を触ったらまだあったかかったんですけど……

4/5 悔いはない。ただ会いたい に続く)

※インタビューは音声のみの通話で行いました。
※病状などの記述は個人の状態によるものです。万人に当てはまるものではありません。


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