見出し画像

「ポルトガル─今、私がいる場所」後編 公募インタビュー#34

〈星さん(仮名) 2020年12月下旬〉

・・・前編からの続きです・・・

C・ロナウド選手をきっかけにポルトガルに渡り、現在は通訳や観光関係のお仕事をしている星さん。第二の祖国となったポルトガルですが、住んでいれば当然いいことばかりではありません。ぶつかり合いながら得たのは、星さん自身のあり方でした。

※記事中に差別的な表現がありますが、読者の皆様にも起こった出来事について考えていただきたいと思い記載しています。ご意見・ご感想はこちらまで→当記事コメント欄/インタビュアー田中Twitter(DMあり)/メールinterviewer.tanaka@gmail.com

いきなり投げつけられた差別

──いいことばかりではなかったということですが、ポルトガルでの嫌な経験のことを聞いてもいいですか?

星さん もちろん。いいことだけしゃべる方がおかしいと思うんですよ、私は。そんなわけないじゃんと思いません?(笑)

 最初の交換留学の時、私は日本代表としてポルトガルを知り、いろんなことをして地域に貢献しよう、って気持ちで来たんですよ。だけど、到着して3日目ぐらいの朝、学校に登校したら……何をしたわけでもなく、登校しただけですよ? 全然知らない現地の生徒から、校門の前で
 “Fxxk you,China!”
って怒鳴られたんです。

 もう、18歳の私はショックでしかないわけですよ。意味のわからない、差別。私が私でいる、アジア人だっていうだけでされる差別というものを初めて経験して。言い返す言葉も知らなかった。

 今ならうまい返し方はわかるけど、初めてすぎるし、情報過多だし、すげー傷つけられてるし。なんやねんって。

 それはまあ、いろんなことを私に気づかせてくれる “Fxxk you,China!” でしたね。そこで “いや、Chinaじゃねーよ。I’m not from China.” って答えるのって、違うんですよ。もし私が中国の人だったら受けとめなきゃいけないの?いや全然違うじゃん、っていう。これが正解じゃないなっていうのは一番最初に頭によぎりましたね。 “I’m Japanese.” って言っても、こいつに “Fxxk you” の感覚は残ってんだろうなとも思うし。え、てことは、アジア全体に対してそんなふうに見てるんだ、みたいな。

 その後わかってきたのは、日本のことをみんな知らないんですよ。私は、日本にいた時はG7の一員だなんだと、日本は世界の代表的な先進国のうちの1つだっていう認識で生きてきて、そのままポルトガルに来たけど、ポルトガルでは日本が島国だってことさえ知られていないのね。同年代の子たちと並んで勉強していて「え、日本って中国の一部じゃないの?」って言われた時の、あの「そんなもん?」っていう感じを10代のうちに体験したのは、私の中ではすっごく大きかったと思う。私は日本が嫌だと思って出てきたけど、逆に日本のいい面がどんどん見えてきたりとかして、それも大きかった。

 でも、その頃は日本人であることの誇りを見せる術も知らないし、だけど見せないとわかってもらえないし、そこをこどう伝えていくのかっていうことを常に考えながら生きる最初の1年間でしたね。

生きているだけで受けるインパクト

星さん (ポルトガルでのネガティブな経験としては)あとはビザ更新の時に、日本では一切起こり得ないようなわけのわからないたらい回しに遭うとか。誰に言っても何を言っても全然どうにもならないみたいな堂々巡りで、ものすごいストレスで。

 未遂でしたけどスリに遭った時、カバンをいじられている感覚も衝撃でしたし、牽制するアクションをしたら逆に舌打ちされてにらまれて、日本では遭遇することのなかった悪意みたいなものを感じてショックを受けたり。

 あとは、黒人と白人の言い合いのような、日本でなかなか起こらないことを目の当たりにした時に、自分も無意識に差別的なことをしてるんだろうなあ、と気づくとか。

 終わってみれば、全部自分を培う学びになってるんだろうけど、消化するのに時間がかかったりショックだったりっていうのは日本にいる時より多いんじゃないかなと思いますね。生きてるだけで、小さな火花みたいなインパクトがパンパンパンパン、自分の中に起こる。

 いろんなベースが違うなってことを発見して、違うことが当たり前なんだってことを咀嚼するのに2年、3年ぐらいは要したんじゃないかと思いますね。

今ならこう言う

── “Fxxk you,China!” に対して、今なら返し方がわかるとおっしゃっていましたが、今言われたらどう対処しますか?

星さん 今だったら、ポルトガル語で、まあちょっとポルトガル人が好きそうな冗談というか下ネタというか、汚い言葉を使って返すと思いますね(笑)。

 要するに、(怒鳴った彼のような)ポルトガル人は世界を開拓してるのが自分たちだと思ってて、中国みたいなとこは出稼ぎに来てるんだぐらいに思ってるんですけど、今や中国は世界経済においてトップレベルな訳ですよ。

 だから、「そんな中国の立派な穴に入れられるほど立派なものがポルトガルにはあんのかよ」みたいな感じで(笑)ポルトガル語で返してやりますね、今だったらね。昔の価値観でずっと中国が中国がって言ってるのはダサいんだよ、ってことをわからせてやる、って言うとちょっと強い言い方かもしんないけど。

 (怒鳴った相手が、使った言葉に)英語をわざわざ選んでるのも問題なんですよ。ポルトガル語で汚い言葉で叫ばれてたら、私は(留学したてで)たぶんわかんないじゃないですか。でも “Fxxk you,China!” はわかるんですよ。伝わるだろう英語、伝わるだろう単語を選んだことにすごく悪意があるし、すごく問題だなと思うので、それに気づいてほしいっていうことや、いろんなことを含めてね。

 今ならたぶん、いや、たぶんじゃなくてそう言えますね。

そいつとのその後

──その後、そいつとは交流はなかったんですか?

星さん それがある日、学校の食堂で食べてたら、ポンポン、って肩を叩かれたんですよ。パッて見たら、おそらく叫んだそいつか、もしくはそいつの友達か、もうわかんないんですけど、あの時あそこにいたよな、って奴がそこに立ってて。

 うわっ、また何か!?って警戒してたら、そいつが急にこうやって(=片手を額に当てて)「マサカ」って言ったんですよ。日本語の「まさか」です。
 「はー?」って言ってフリーズしてたら、英語で「マサカってどういう意味? 俺『NARUTO-ナルト-』(※)が好きでさ、大蛇丸おろちまるがそう言ってたんだけど。(星さんは)日本人って聞いて」って言うんです。当時『NARUTO-ナルト-』がポルトガルでめっちゃ流行り始めた時期だったんですけど、急にそんなこと言われて、なんだこれー!?って思いました。でも、そこからしゃべったりするようになって。

 そいつが食堂で「マサカ」って言わなかったらたぶん一生恨んでたんじゃないかな。大蛇丸ありがとうですよ。やっぱり日本の漫画とかアニメってすごいんだなとも思うし。

 そしてそこから、「日本人です」って言った瞬間に相手の態度が180度変わるっていう経験を山ほどし始めました。最初は攻撃されないからうれしい、安心、良かった、って感じたんですけど、途中からそこにも疑問を持ち始めましたけどね。

──その後 “Fxxk 〜〜” の件は彼には?

星さん 話さなかったですね。言われたことのショックが大きすぎて、その場にあいついたな、っていうのはなんとなくわかるんだけど、でもそいつが言ったのか、そいつの友達が言ったのかもわかんないから詰められないなっていうのがあったし、当時私はポルトガル語はそこまで話せなかったので、そういう微妙ーなところにつっこむ勇気もなければ、技術もなかったな、って感じですかね。

※『NARUTO-ナルト-』岸本斉史による日本の漫画作品。またこれを原作とするアニメ、ゲームなどの作品。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて1999年〜2014年連載。ゼロ年代、海外市場における日本漫画の躍進を支えた。大蛇丸は作品に出てくるキャラクター。

参考:Wikipedia

私が息をしやすい方法

──日本にいるより体力を使いそうですね。

星さん ああ……そうかもしれないですね。日本にいると良くも悪くも、考えなくてもスムーズに物事が動いていく部分があるかなと思いますが、ポルトガルにいるとちょっとでも立ち止まると人がバンバンぶつかってくるような感覚があって、ぶつかり合いながら考えてわかっていく、みたいなところがあるかなあ……

 いろんなこと考えますね。人の発言一つとっても。悪気なく言ってることは、言葉が一緒じゃなくてもわかるんだけど、ポルトガルの人たちの考え方が僕を傷つけているって時があるわけですよ。でも、悪気がないから、こっちがどれだけ傷ついてると言ってもわかってもらえない。そういう時に、自分で落としどころを探す作業をしなきゃいけない。

 地理的な面とか、歴史的にこういうことがあったから彼らはこういう性格を持っている、だからそれは彼らの一部なんだ、なるほど……とか。だからと言って許せるわけではないけど、彼らがそうである理由はわかる、ぐらいの、そういう作業をいつでも誰に対してもしてるなあ……と思います。

 でも、そうしないと極端になると思うんですよ。なんでお前たちはそうなんだ!みたいな攻撃的なタイプになっちゃうか、ザ・日本人って感じで黙って全部飲み込んじゃうかの二極化になると思うから、そうじゃなく、「いや、それ言われて全然楽しくないよ」って言う時には言うけど、相手が理解しないことに対して傷つかないように自分で落とし込みはしておく、みたいな。こんなめんどくさいことしてるのは私だけかもしれないですけどね。

 私も最初は、両極端のうちのどっちかに行ってたと思うんですよ。でも、どっちもできないなってことに気づいた。
  ザ・日本人をずっとできないから日本から出たわけだし、かと言ってこっちの人じゃないから、ブワーッて言って解決しないけど終わり、とはできないんですよ。日本の、ちゃんと向き合って、整理して解決していく…解決しないとしてもとりあえず箱に入れてここに置いとくぐらいにはする文化で生きてきちゃってるんだから。
 どっちにもいけないっていうのがわかって、こっちで生きながら見つけた感じですかね。極端じゃなくて真ん中、うーん、7ー3、4ー6くらいの、自分の落としどころ。

──ポルトガルで生きていくにはそれがベストだなと?

星さん うーん、こっちで、っていうか、それが一番自分が息がしやすい方法というか。日本にいても、ポルトガルにいても、世界のどこにいようと、私はこの方法で人と付き合うのが一番いいなっていうところに落ち着いた。自分がすごく被害を受けることも、自分が誰かを攻撃しすぎることもない、自分の居心地がいいパーセンテージを見つけられた、っていう感じですかね。

日本のこと

──日本にいたらそういうことを考えなかったかも?

星さん そうですねえ……良くも悪くも、いやいやここで言わなくていいじゃんとか、私が我慢して場が収まるんだったらいいじゃないとか、ある意味日本人のやさしい、いいところでもあるんですけど……ポルトガルの人はもっとそう思った方がいいと私は思うわけですが(笑)、日本はそれを持ちすぎちゃってるかな、と思って。いい意味でも気をつかう文化だけど、それがやっぱり負担になってるじゃないですか。で、負担が多い人ほど、自然と他の人にも気をつかうことを強要しちゃってるところがあるかなって思います。強要した段階でもう暴力というか、ちょっと違うんですよ。

 日本にいた時、場面場面でもっと気をつかえよって思われているのを感じたり、自分がそういう風に思う回数が多かった気がしますけど、ポルトガルを経験して、あれって必要だったの?そこまでじゃなくていいじゃん?って思うことが多い。

 「申し訳ない」という気持ちを大事にするといいんだと思います。ヨーロッパはそれをもっと持てよ、って(笑)思うんだけど。その気はなくても人を傷つけちゃうことは絶対あって、その時に「ごめん」って言えれば大丈夫だなと気づけたので。
 考えてみれば、こっちはごめんを言わない文化で、日本はごめんなさいが発生する前にみんなでそうならないようにしときましょうの文化と言えるかもしれない。

 だからある意味、一周するとどちらも「赦す(ゆるす)※」ことを知らないですよね。こっちは身内には甘いけど、日本は身内に対しての方が厳しいところがあって、やさしさが裏目に出ているなあと思う時がある。もうちょっといろんなことを、みんな赦してもいいんじゃないですかって。日本にいたら、これは感覚として生まれなかったかもしれない。

※ゆるす 「赦す」は、「罪を犯した相手を罰しない」という意味。「許す」は、「相手の願いや申し出を受け入れる・そうすることを認める」という意味で使用される。 

参考:WURK

ポルトガルでは「説明」、日本では「言い訳」

星さん でもこっちの人、ひどいですよ(笑)。遅刻してきて、遅刻した理由もひどいのに謝らないとか、だってしょうがないじゃんって平気で言ったりとか。あなたのミスなのに、なんでこっちがキレられてるの?みたいな状況はザラなんですよね。頭を下げたらおしまいなのかってくらい。

 最初はそういうものなのかと思って黙るほうに行って、そしたらサンドバッグになり放題だってことに気づいて「おいっ!」ってなったわけですよ。だからって理路整然と、あんたがこうでこうなんだから謝んなよ、って言っても、彼らは頭は下げないんですよ。だから私は、それはないぜとは言うけど、変えてやろうとか謝らせようとは思わないようにしている。どこかに落としどころを見つけるわけです。

──ポルトガルにいる時は星さん自身も謝らないようになったりはしないですか?

星さん 自分に完全に非があったら、ほんとごめんって言います。言うけど、自分に完全に非がある場合でも、こっちでは自分のしてしまったことに対しての「説明」を入れる。日本ではそれは「言い訳」っていうワードになるんですけど、こちらでは理由を言うプロセスはすごく重宝されるので、私も「こうでこうだったから失敗したんだ、ごめんね」みたいな感じにはしますかね。だから、日本の人の感覚からしたら言い訳がましくなるけど、きちんと説明する。

 私は説明しながら、自分の中で整理するんですよね。そう、あれをミスったんだよなあ、だからこうなっちゃったんだよなあ、すいません……って。ポルトガルでは自分はそれでいいと思うけど、このまんま日本でやったら、あいつめっちゃ言い訳するやつ、みたいになるだろうなとは思いますね。

 でも、こっちの人たちは言い訳して反省しないから問題なんですよ(笑)。日本の感覚からしたら、おいおい!言い訳はすんのに反省はしないのか、なんですよね。

外に出て知った中庸

星さん 私はちっちゃい時、(日本で)言い訳はしちゃいけないって習って。日本ってたぶん今でもそうなんじゃないかなと思うんですよね。政治でも、説明するんじゃなくて辞めるじゃないですか。辞めるよりは、きちんと何があったかとか何が問題だったとか、みんなが「おい」って思うことでもいいからしゃべったほうがいいのになーと思う時は私はあるんですけど。

 うーん、ちっちゃい時に「言い訳しないの」って言われた記憶が今よみがえってきました。私としては、結果として良くない方に転がったことについて、なんでそうなったかを説明したくても先生が許してくれなかったり、親が言い訳なんかするなって言うからグッと我慢して抑えなきゃいけなかった。

 でも今は、理由があるなら聞いてもらってもいいじゃん、と思う。自分が悪いのが無罪放免になるとは一切思ってないんだけど、情状酌量してもらって、無期懲役をまあ15年ぐらいにしてもらってもいいんじゃない?みたいな感覚ですね。ゼロか100かではなく。

 やっぱり、私は外に出たから真ん中を選ぶということを知れたっていうのはあると思う。こっちでも、ポルトガルだけで生きてきて極端な感覚しか知らない人が多いなって思うし。だからちょっとでも外に出たことがある人が友人に多いですね。何人(なにじん)であっても。

少しでもつながったなら

星さん ずっとその国にだけステイして、旅行すらあんまり行ったことがないような人だと、話しながら「お?」と思う時はけっこうあります。特にポルトガル人なんかは愛国主義者がめちゃくちゃ多いから、感じたりしますね。

──「お?」っていうのは?

星さん 例えば、わかりやすく言うと、ポルトガルやポルトガル料理は世界一、って本気で言ってて、行ったこともないのにスペイン料理はまずいって言うとか(笑)。私としては、いやいや、行ったこともないのに何を言ってるんでしょう、と思う。スペインに行って食べて、あれはまずかったねって言うのと、ポルトガルにずっといてポルトガルは最高だよ、隣のスペインは全然価値がないって言うのでは天と地ほどの差があると思うんです。

 周りを下げることで自分たちを上げるみたいなことをされると、自分がそういうことが好きじゃないっていうのも相まって、余計に「おいおい、そんなこと言うな。そんなこと言うならさ……」っていう反発心が、私はスペイン代表でもなんでもないのに湧いちゃったりしますね。

 それは日本でも時々見受けられることかなと思います。韓国や中国の悪口を言うとか。もしその人に韓国人の友達とか中国人の友達がいたら、たぶん、ここまで言わんのちゃうかなあと思う。または1回でもその国に行ってみて、おいしいごはんを食べるとかいい景色見るとかして、知ったら。

 どの国でも一定数、自分と合わない人・考え方が合わない人たちはいるけど、でも、いい面をちょっとでも知ってたり、つながりをちょっとでも持ったら、そこまで攻撃的にならないよなっていうのは感じます。

ロナウドに会う夢ーそれは最終目標ではなく

星さん 私、一昨年ぐらいに日本に帰った時に、最初に読んだクリスティアーノ・ロナウドについての新聞記事(※前編参照)を見つけて、持ってきたんですよ。ロナウドにそれを見せて、そこにサインをもらえたら一番いいなと思って。

──では、今もロナウドに会うという夢は、

星さん もちろん。目標は持ってますねー。彼がいなかったら、何も始まってないんですよ。私の、ポルトガルでの人生が。ホストファミリーとの出会いも含めて、人生のうちでいろんないい経験を私はさせてもらえていて、この国、人にたどり着けたのは彼のおかげ、彼が私をここまで連れてきてくれた、っていうところがあるので、会って「ありがとう」を直接伝えたいですね。

 理想は、ポルトガルで会社を立ち上げたりして、そして例えば第二のロナウドを発掘しようみたいなイベントを開催して、その時に会社の代表としてロナウドに、あなたの名前をちょっと借りさせてほしいと(お願いしたい)。「ロナウドカップ」みたいなね。そして、あなたのおかげでここまで来たし、あなたをきっかけに未来を作ることを私は覚えました、と(言いたい)。

 そういうふうに大人と大人としてロナウドと仕事をできたらな、そして話せたらっていう目標を今は持っているので、絶対現役選手中に会いたいということも全然ないですし、ポルトガルにいれば、彼がポルトガル人である以上はどこかで会える機会も絶対にあるし、それまでがんばるしかないなみたいな感じですね。

──もし今すぐロナウドが会ってくれるとなったら、どうですか?会社を立ち上げて仕事のお付き合いを、という状況になる前に会えるとなったら?

星さん ああ……それ、私、今年すごく考えてたことで。実は、日本からの仕事をした際に、ロナウドのお兄さんとお姉さんのインタビューの通訳はやらせてもらってるんですよ。

──へええー!

星さん そう。で、ロナウド関係の仕事もけっこうやらせてもらう中で、ロナウドに親しい人の連絡先は、実は携帯の中に入ってるの。コネを使ったら、はっきり言って会えることは会えると思うんですけど、なんか、(今まで)そうしてこなくて。

 初めて会う人に、私はロナウドを追っかけてポルトガルに来たって言うと、おおー、面白いなこいつ、ってなるわけよ。会ったの?って聞かれて、まだなんだよねー、でもまあ、そんなにあせってないよ、っていつも返すんですけど、今年それを言う機会が多かったこともあって、自分が会おうとしてこなかったのはなんでかな?って考えたんですよ。そしたら、会っちゃったら終わっちゃうんじゃないか、そこから先、走ってくエネルギーが自分の中に生み出せないんじゃないかって思ってたんだと気がついて。たぶん、びびってたんですよね。

 でも、このコロナの状況になって、いや、会えるんだったら会ったほうがよくない?って。会えるタイミングがあれば会うべきだし、がんばるべきじゃない?っていうことにも気づいたんですよね。いつ何が起こるかわからない、っていうことを痛感したので。

 でも、もう会うことが最終目標ではなくなってる、から。

 ロナウドのおかげで私が外に出たみたいに、若い人たちに外に出るきっかけをつかんでほしい。自分がそこの場所で息ができないと思ったら、他の世界があるっていうことを知れたらいいし、その手伝いが何かできないかと交換留学生を終えてからずっと思っていて、そういうことをできる自分であればいいなって思う。

 その中でまたロナウドにつながりができたら最高だし、別に最終目標にしなくていいじゃんって、まさに今年、行き着いたところです。

(終わり)

※画像はすべてPixabay

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?