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生成AIによる脚本朗読のイベント中止

今回も生成AIの話題です。

生成AIにより創作された脚本を人気声優が朗読するイベントが中止になりました。未だに生成AIによる創作には批判が強いようです。

これは、有料版のChatGPTにアイディアを出し、脚本を書かせ、これを人気声優が読み上げるイベントでした。しかし、AIによる創作は「盗作」「ただ乗り」という批判が強く、このイベントを決行すると声優にも迷惑がかかるということで、中止を決行したそうです。

この事件は、今後、AIによる脚本や小説をドラマ化すると、俳優や声優もダメージを受ける場合があることを示しています。

しかし、脚本家は生成AIにより著作物を模倣される側になるだけでなく、生成AIを用いて創作する側にもなり得ます。つまり、「明日は我が身」です。

日本シナリオ作家協会からは著作権法改正を求める声が上がっていますが、生成AIについてあまり著作権法を厳しくしてしまうと、今度は自らが著作権侵害と言われかねない事態となります。

ところで、俳優や声優は著作権においてどのような立場の人たちでしょうか?
彼らも著作権者ですが、脚本家、小説家とは異なり、著作隣接権者と呼ばれます。つまり、小説や脚本という著作物の周辺にいる著作者です。
例えば、ある声優の声や口調を真似てAIに演じさせることも著作権侵害になり得ます。「AIに学習させるなど、情報解析の用に供する場合は著作権侵害にならない」(著作権法30条の4)は著作隣接権にも適用されるからです(著102条1項)。

しかし声自体には著作権は認められないので、声優が何かを朗読し、その口調をAIに学習させた場合に著作権の問題が発生します。

このように、脚本家、俳優、声優などは生成AIにより著作権侵害をされる可能性がある人達ですが、他人の脚本や小説、実演を参考にするために、生成AIを使用して著作権侵害をする側にもなり得ます。

AIがあまりに便利であるため、皆が著作権侵害され、著作権侵害する立場にもなり得るという状況が起こっており、今後もますます大きな問題になるでしょう。生成AIによる創作を一律に著作権侵害とするのではなく、どのラインまで認められるかの線引きを決めるための改正や法整備が必要と思われます。

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。