古着が流行している本質的な理由[ファッションリベラルアーツvol.08]
2000年前後で巻き起こった“第1次古着ブーム”がファストファッションの台頭により鎮静化した2010年代。“古着ブーム”の反動かの如く、ノームコアを基調としたファッショントレンドがその後、数年間展開されることになりました。
時計の針は刻々と進み、現在-2020年代-。
「Z世代を中心に第2次古着ブームが到来!!」という見出しの記事が散見されるようになり、SNSを開けば「#古着ファッション」が軒を連ね、街にも随分と古着屋さんが増えたな、と実感しています。
では、一体なぜ「今、古着ブームなのか」。
当然これまでも古着市場は存在したわけですが、トレンドに敏感な若者にまで古着が波及するに至った要因を考えていきます。
今回は、よく古着ブームの理由として解説される
という3つの論点からは視点をズラして考えていきます。
Ⅰ. 飽和状態に至った「いいね」されるためのファッション
ファストファッションとほとんど時を同じくして普及した、個人発信のメディア“SNS”。
多くの若者にとって、SNSで世界中とつながり、自らの発信に「いいね」されることが大きな喜びの形になりました。2017年の流行語が「インスタ映え」だったことはその象徴だといえます。
SNSがここまで普及した背景には、どこか閉塞的になりつつある社会の中で「誰かに自分自身を認識してほしい」という想いが人々の心を通底していたからでしょう。
この頃から、ファッションに対する姿勢も「着たいものを着る」というよりも「いいねされるものを着る」に偏重していき、服を着るという行為が「個人的なこと」から「世間に晒されるパブリックなもの」としての側面を強くしていったように思えます。
「これを着たらモテる!」だとか「垢抜ける服装」だとか「二度見されるコーディネート」だとか…。そもそも自分が思っているほど周囲は自分を見ていないのに、SNSという異空間に錯覚して、衆人環視の中で生きているかのような「いいねされるための服装」が乱造されました。
しかし、どれだけ「いいね」の求心力が強くとも、他者ありきの欲求であることは変わらず、「いいね」のために次々量産されるファッションに疑問を覚える若者が顕在化し始めます。
少しずつ、“規格化されたファッション”から他の人とは明らかに違う“個性的なファッション”を求める若者が現れるようになるのです。
では、他の人とは明らかに違う服装を求めた若者はどこに辿り着くでしょうか…。
Ⅱ. 個性を求め出した2020年代ファッション
踊り場に達した「いいね」されるためのファッションから個性を求めたファッションへの移行が始まります。
もうお分かりいただけたかもしれませんが、前述の流れから、他に同じものがひとつも存在しない「古着」へと注目が集まるようになったのです。
古着の市場には、同じデザインのものが存在しても、同じ状態のものは一つも存在しません。何を買い、どう組み合わせるかで、着用者の個性が無限大に表現できることが魅力といえます。
当然、このほかにも古着ブームの背景には、上記した
①ファッションブランドの二極化(低価格化と高価格化)が進み、古着が最も購入しやすく、おしゃれだから
②若者の間で注目されるY2Kトレンドとの親和性が高いから
③メルカリをはじめとしたフリマアプリが普及したから ……などの
要因が複雑に関係しあっていることは言うまでもありません。
しかし、どれだけ「個性を求めたファッション」であれ、その素地-土台-の部分は「いいねされるためのファッション」であり、SNSでいかに個性的であるかにフォーカスされている現状に変わりはありません。
あくまで古着の流行などから、服装の多様化が見られるようになったというだけで、その根底にある「いいねされたい」というマインド自体は共通しています。
「個性的だからいいね」されるのと、「いいねされるために個性的である」のは、結果的に同じことですが、全く質の異なることです。
まずは、自分の個性から先行して服選びをしたいものだなとつくづく思っています。
Ⅲ. 今、ファッションには哲学が必要だ
「個性的だからいいね」されるファッションをつくるためには、服装に哲学が必要です。
ここでいう哲学とは、自分が服を選ぶ時の“個人的な基準”のことです。
そこに他者やSNSが介入する余地はありません。
こんなことをいうと「ファッションは他人に見られるものなのだから、他者目線も必要だ!」とか「自分が着たいものを着るのがファッションなら、服装を何も気にせず、外に出てもいいはずだ!」とか言われそうですが…。
私はそういった極論を言いたいのではなく、ファッションにはもっと素直に自分が着たいものを着る“ playful ”な姿勢があってもいいんじゃないかという一つの提案です。
「他者にこう見られたいから」ではなく「自分がこうありたいから」という視点を持つことで、古着は今より何倍も魅力的なものになるでしょう。
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