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マルジェラのタグを切るか切らないか問題の結論。どうでもいい。[ファッションリベラルアーツvol.10]

「マルジェラの“四つタグ”は切るために四隅を縫い止めただけの簡易的な仕末になっているのだから、切ることが正統だ!」と、ある人が主張する。

一方「四つタグの白い糸は、遠くから見たときにマルジェラの洋服であることがすぐわかるようにするためのデザインである。だから、そのままつけておいた方がいいんだ!」という説もどこからか耳にする。

わたしはこの議論自体がデザイナーであるマルタン・マルジェラが最も望んでいないことなのではないかと考えています。

なぜなら、あまりに本質的からかけ離れているからです。

今回は「マルジェラのタグを外すべきか外さないべきか」という論争を皮切りに、洋服とその解釈をめぐる問題について考えていきます。


Ⅰ. 作品がどう解釈されるかは、受容する我々の問題である

少しだけ、マルジェラや洋服から離れた話にお付き合いください。
作品とその解釈をめぐるとても重要な話です。

恋愛ソング−例えば、小さな恋のうた、366日、クリスマスソング、マリーゴールド…−を聴いて、あなたの脳裏を掠める記憶はなんでしょう。

初恋の甘酸っぱい記憶や失恋の悲しさでしょうか、あるいは、現在のパートナーとの出会いや新しい出会いへの希望かもしれません。
いずれにしても、それぞれの恋愛ソングの主語は必然的に“わたし”になっている場合が多いのではないでしょうか。少なくとも、その恋愛ソングの作り手である、backnumberのボーカル清水依与吏さんやあいみょんさんの恋愛に照らして曲を聴いている人はそう多くないはずです。

「♩広い宇宙の数ある一つ 青い地球の広い世界で
  小さな恋の思いは届く 小さな島のあなたのもとへ」
「♩恐いくらい覚えているの あなたの匂いや しぐさや 全てを」
…という歌詞の「あなた」はそれを聴いた自分の中で大切な人を思い浮かべるでしょう。HY仲宗根泉さんの過去の恋愛で経験した「匂いやしぐさや全て」を知る由もありませんから。

詰まるところ、「音楽という媒体においては、それを受容する我々の自己都合で解釈することが一般的である」ということです。
そこに作者やボーカルの意図を汲み取ろうという姿勢はあまり見られず、音楽というメディアを通じて、感情を共有しているというのが実際です。しかもそれが当たり前であり、そこに議論は生まれません。

「366日で言及されている“匂い”はマルジェラのレイジーサンデーモーニングに違いない。」
「いや、ディプティックのフルール ドゥ ポーに決まってるだろ!」
なんてやり取りがいかに不毛であるかは言うまでもなく、各々が経験した匂いこそがその“匂い”に他なりません。

しかし、どうでしょう。こと服においては度々この種の議論が勃発します。
代表的なものが今回取り上げている、
「マルジェラのタグは外すべきか外さないべきか問題」です。

タイトルから申し上げている通り、筆者のスタンスはどちらでもいい。
仮にも、デザイナーのマルタンが外すことを前提にデザインしていたとしても、そのデザインが消費者である我々にどう解釈されるかは消費者個人に委ねられているはずです。

タグを外す“べき”か外さない“べき”かという二元論に持ち込むまでもなく、好きなように解釈し、好きなように扱えばいいじゃないですか。

Ⅱ. マルタンは理解ではなく、解釈を求めていたはず

そもそも、この議論の根底にはデザイナーの意図を理解しようという姿勢が滲んで見えますが、マルタン・マルジェラはそんなことを望んでいたのでしょうか。
以前こちらの記事でも言及しましたが、マルタンは自身の作品が世に認められた時「理解されすぎて苦しい」と感じていたそうです。

彼の行った服作りは既存の美意識に対するカウンターです。
美しいと思われているものが、本当に美しいのか?
あるいは、美しくないとされているものは、本当に美しくないのか?
そういった問いかけを服というクリエーションを通じて、私たちに投げかけています。

それなのに、マルジェラの作り出した世界観の中のほんの一部分だけをつまみ出して「やれタグがどうだ」という議論だけが先行してしまうのは、あまりに本質を欠いています。そもそも、ファッションの歴史を何十年分も前に進めた彼のクリエーションを理解しようなどという試み自体が慢心なのかもしれません。

答えがないような哲学的な問いかけをしているのに、そこに世論を生み出そうとしては元も子もありません。

あの四つタグが一体なんなのか、その真意がよくわからないから魅力的なのです。

なので、これっきり、この議論をやめにしませんか?
もっと純粋な気持ちで洋服を楽しみましょうよ。


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