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ファッションを“理解しよう”という慢心[ファッションリベラルアーツvol.15]

最近はファッションを“解説”するコンテンツが増えたように感じます。
試しに『🔍 ファッション 解説』で検索してみたところ、
「おしゃれ上級者は知っている」「ブランド解説」「着こなし解説」等…それはたくさんの“ファッション解説コンテンツ”が溢れていました。

一見すると、確かにどれも明快で、一本筋が通ったものばかりに思えます。
ただ、この“解説コンテンツ”がファッションにもたらした誤謬が幾分かあるな、とも感じています。一つ事例を取り上げてみます。

ハトとカエルのバッグをめぐる理解

2022年に“とあるバッグ”が発売されファッション界を賑わせました。
そのバッグがこちら。

ピジョン クラッチバッグ

これは現在のファッション界を牽引するブランドJW Andersonが発表したアイテムです。右羽根の部分が開閉式になっており、列記とした“バッグ”の様相。鳩の胴の部分を手に持てば、クラッチバッグそのものです。
この鳩バッグに対して「これがバッグ?」と思った方はこちらの記事をご覧ください。その考えが覆ります。

この鳩バッグが発表されると、ファッション界隈では「なぜ鳩をモチーフにしたのか?」という議論が巻き起こり、「幸福」を象徴するものとして用いられたのではないか…という理解に落ち着いていました。

続く翌年、発表された新作のバッグがこちら。

フロッグ クラッチバッグ

そうです、カエルのクラッチバッグです。
当然このバッグにも「なぜ数ある動物の中でカエルなのか?」という疑問の声が多数寄せられました。
JW Andersonでは以前から「ジェンダー」に対する問題提起が度々みられたことから「種類によって、生まれた時の性別から分岐(性転換)がある生物の象徴としてカエル」なのではないかと噂されました。

その後、この鳩やカエルをめぐる話題についてインタビューされた デザイナーの[ジョナサン・アンダーソン]は極めて痛快な回答を示します。

鳩やカエルなど、コレクションの中に動物が数多く登場する理由は?
ジョナサン:分からないです(笑)。特に理由があるわけではないですが、動物はユーモアを感じさせるし、かわいいですからね(笑)。

ジョナサン・アンダーソンにインタビュー かなえたかった夢や日本の好きなところは?FASHIONSNAP

鳩は「幸福」、カエルは「ジェンダーフリー」の象徴としてモチーフにされたのではないか、というファンの理解とは裏腹に、このモチーフには「特に理由があるわけではない」と語ったのです。

ハトとカエルからわかるファッションの“理由のなさ”

多くの人が、[ジョナサン・アンダーソン]が何らかの意味を持ってデザインしたであろうと考えていた“ハトとカエルのバッグ”は単に「ユーモアとかわいらしさ」から製作されたものでした。

そう、ファッションとは本来こんなものなのです。
それにも関わらず、デザイナーの頭の中を解剖するかの如く、そのデザインのルーツや意味を必要以上に“理解”しようとするのは、ナンセンスです。
この「ファッションを理解しよう」とする傾向はまさに、“ファッション解説コンテンツ”が生んだファッションに対する偏った思考なのではないかと感じます。

前提として「ファッションは“理解するものではない(できるものではない)”」。たしかに、“デザイン”領域のレベルでは意味や文脈を理解することができます。例えば、デニムパンツの小さいポケットはコインや懐中時計を入れるためのものや、シャツの裾が長いのは下着の代わりに着用されていたため、のようなデザインレベルの話です。
一方、“アート”領域のファッションにはそれらが用意されておらず、問題提起があるだけ。「この鳩やカエルのバッグをあなたはどう観ますか?」と。
本来、ファッションはもっと直感的な気づきや刺激に目を向けるべきです。

だからこそ、わたしは“解説”ではなく“解釈”の重要性を一貫して説いています。
個人レベルの解釈の結果、鳩は「幸福をイメージしていそう」カエルは「ジェンダーフリーの象徴かも」と“解釈”するのは結構ですが、それを理解したものと履き違えて物知り顔で“解説”するのは、ファッションとの思考的対話を縮小させてしまいます。

だからわたしは、ファッションを“理解しよう”という試みはあまりに慢心であり、より内省的な気づきや解釈がファッションを面白くするのだと思っています。“誰かが決めた正しさ”なんてファッションの対義語です。
そんなの元々ないんですから、自由に捉えていいはず。

「ファッション解説コンテンツ」は面白いのでわたしも見ますが、その一方で、自分なりの視点でファッションを直視する重要性も忘れたくないものです。
自戒の意味を込めて−。


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