ジャケットの袖についてるボタン、意味なくない?
仕事や冠婚葬祭の際に着用する“ジャケット(スーツ)”。
日常的に着用される方と、シーンを選んで着用される方がいるかと思いますが、ふとこう思ったことはないでしょうか。
“ジャケットの袖の部分のボタンいらなくない?”
特別にこだわりを持って作られたジャケットや高級な仕様のジャケットには本切羽(本開き)で実際にボタンとして機能するものがあるのも事実です。
しかし、一般に多く流通するジャケットの袖口のボタンといえば「ただついているだけ」の謂わば“デザイン”の一つになっています。
みなさんのお手持ちのジャケットを確認してみてください。
ね?ボタンがくっついていて、開かないのではないでしょうか?
ただのデザインならまだしも、このボタン、デスクワークをしてる際に結構干渉してきませんか?
パソコンを打っている時など、ボタンがデスクに当たって邪魔だったりしません?(あれ、もしかしてわたしだけか…)
いずれにしても、開かないボタンなんて、
履き口のないシューズ、袖口のないシャツ、バックルのないベルトのようなもので、なんの意味もありません。
今回は、そんな何の意味のないジャケットの袖のボタンの由来を踏まえて、あまり知られていない“形骸化した服のデザイン”をいくつか紹介したいと思います。
知ってるわ!と早計せず、ぜひ最後まで読んでください。
ジャケットのボタンは開かなくてよかった!
ジャケットの袖のボタンは通称“飾りボタン”と呼ばれ、前述のとおりほとんどボタンとしての機能を有していません。
この袖口のボタンがついている理由として、時折“雑誌の端っこ”に示されている見解がおよそ2つ。
1点目は、ナポレオンがロシア帝国に侵攻しようとした時代にまで遡ります。ナポレオン率いる隊員たちがロシア帝国に向かう極寒のさなか、その寒さに耐えきれず、ツーと垂れてきた鼻水をジャケットの袖口で拭っていたそう。
その様子を見かねたナポレオンは、隊員が袖口で鼻水を拭うのを防ぐためにボタンをつけたのだそう。
確かに、鼻水を拭った袖口は見るに耐えかねますよね。また、そのだらしない仕草自体もロシア帝国に対する威権にも関わってきそうです。
これは、雑学的にも少し有名な説です。
そして、2つ目の説としては、お医者さんがジャケットを着ながら、袖を捲ってすぐに診療できるようにするためというもの。
うーん。なんか弱くないですか?2つ目の説。
お医者さんが着ていたジャケットのディテールが現在のほとんどのジャケットのベースになっているとは考えにくいです。
仕事や冠婚葬祭などのフォーマルな場で着用されるジャケットには袖口の飾りボタンが付いているものの、ワークジャケットと呼ばれる、よりカジュアルな文脈のジャケットではあまり飾りボタンが採用されていないことからも“威権”を示すためのボタンだったのでしょう。
この場合の“威権”とは、例えば「仕事できるぞ!」とか「式典に際して、しっかりとした格好で望んでいるぞ!」みたいな姿勢を示すものでしょう。
今回の記事は“ジャケットの飾りボタン”から派生させて、過去には意味を有していたけれど今となっては“形骸化してしまったデザイン”をこの他に2つ紹介します。
【形骸化したデザイン①】スウェットの首元についてるV型のやつ
スウェットといえば、家でよく着るイメージがありますが、このスウェットにもまた、よくわからないデザインが施されています。
そのよくわからないデザインとはこの首元のV型のやつ。
通称Vガゼットなんて呼ばれたりしています。
このデザインを見て、なんの意味があるんだろう?と思ったことはありませんか?
このVガゼット、実は“汗止め”としての機能と“伸縮性補強”のために取り付けられているとされています。
当ブログの他記事でもスウェットのデザインについては言及していますが、その歴史を遡ると、スポーツウェアとして着用されていたことがわかります。
スポーツウェアというその成り立ちから“汗を止めるためのもの”と“すぐにへたれないようにするためのもの”という機能をこのVガゼットに込めたのでしょう。
しかし、どうでしょう。
現在スウェットは多くの場合、家着や街着として用いられており、その機能性を発揮する場面はほとんどありません。
スポーツウェアもより高機能なものが出現し、挿げ替えられている現状です。
この“スウェットのVガゼット”も形として残されているだけの“形骸化したデザイン”の一つといえるでしょう。
【形骸化したデザイン②】デニムジャケットの謎のヒダ
デニムジャケットは、時代や流行を超越したアイテムの一つとして長年愛されています。
製造された年代ごとに異なるデザインのディテールが落とし込まれていることから1st、2nd、3rd、4thに分類されていますが、今回取り上げたいのはGジャンの元祖ともいうべき1stモデルの“とあるデザイン”です。
そのデザインというのが、このボタンの両サイドに施されたヒダ。
専門的にいえば「アクションプリーツ」と呼ばれるものですが、このヒダにはデニムジャケットが開発された当初、とても重要な役割がありました。
デニムジャケットは当初、アメリカでゴールドラッシュの際に作業着として着用されていました。
ゴールドラッシュには多くの作業員が関わり、作業着を大量にかつ、誰でも着用できるサイズで製造する必要がありました。
しかし、当然、体格は人によってばらつきがあります。
そこで、可能か限り体格の大きい人から華奢な人までをカバーするためにサイズを調整する機能を有したヒダをボタンの両サイドに施すことにしたのです。
具体的には、このヒダのところの糸を切ると、身頃(体の胴まわり)を少しだけ広げることができます。
しかし、今となっては適正サイズを簡単に買える時代ですから、このヒダを利用して見頃を調整するということはほとんどないでしょう。
“形骸化したデザイン”から本質が聞こえてくる
このように日頃、我々が身につけている洋服のデザインには、至る所に歴史と意味が詰め込まれており、その一部は現在では機能を有さないものがたくさんあります。
何かと“意味”ばかりが求められる時代ですが、本質的なことは意外と意味を有していなかったりしますね。
ここから何か特筆すべき学びがあるわけではありませんが…。
今、あなたが着ている服はどんなものでしょうか?
どんなものであれ、その服のデザインにはきっと、あなたの知らない世界が広がっているはずです。
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