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5年前、あんなにも熱かった君は今どうしてる?|根本宗子「夢と希望の先」

5年前に書いた記事が出てきた。根本宗子さんの舞台を観て感じた当時の自分への後悔と、未来への決意が綴られていた。

当時は29歳。恥ずかしいことに読んでいて、再び後悔の念が沸き上がってくるのと同時に、奮い立たされた気持ちになった。

今、5年前の自分がやりたかったことはできているだろうか?
あのときほどの焦燥感を持っているだろうか?
熱かった気持ちも冷めてしまってはいないだろうか?
まだ立て直せるだろうか?

5年前の自分からのメッセージだと思ってここに載せようと思う。

心が揺さぶられるものに触れ続けていたい 根本宗子『夢と希望の先』を観て|2016年6月

10年後、すでに毎日が同じことの連続で、何かに心が動かされることもなく、ただ生きているだけの状態。

「自分は本当はエンタメの世界で生きるはずだったのに」と思いながら、普通に仕事をして生きていく。

そんなのは死んでるのと同じだ。惰性で生きているような状態。それは嫌だと思った。僕は10年後でも、心が揺さぶられるものに触れ続けていたい。そう思ったのは、先日観た舞台がきっかけだった。

劇作家・根本宗子の舞台「夢と希望の先」。僕はこの芝居を観て、ひどく心が揺さぶられる経験をしたのだ。自分でも驚くほどに。

夢を捨てて愛を選んだ、はずが

本作に出てくる2人の登場人物、橋本愛演じる主人公の女の子と、その彼氏。愛のために役者になるという夢と才能を捨てた主人公と、才能がないのと薄々気付いていたのに、表現者として何者かになることを諦めきれずに才能があるふりをして生きている彼氏。10年が経ち、2人は夢も希望も失い、ただ惰性で生きている。

10年前、夢を捨てた彼女の心はたしかに彼への愛で満たされていたし、才能がなかった彼の心もやはり彼女への愛と、わずかな根拠のない自信があったことだろう。きっと毎日が新しく、楽しかったにちがいない。

だけど愛を選んだ選択は間違いだった。10年という月日が経ち、2人の心を錆びつかせてしまった。彼女は夢を捨てて彼氏を選んだことを後悔しながら、毎日、惰性のようにOLとして働いている。しかし、後悔しながらもその生活から抜け出すことができない。彼氏は結局、何者にもなれなかった。ただ、死んだように生きているだけだ。

もし、彼女が夢を捨てずに進んでいたらどうなっていたのだろうか。あるいは、彼が何かひとつでも最後までやり遂げて、それを愚直に続けていたらどうなっていたのだろう。

劇中、この彼氏と対照的な人物が登場する。主人公の女の子がかつて所属していた劇団の座長だ。彼は決して才気あふれるような人物ではなかった。だけど、10年後、彼はB級ドラマながらも、主役級として出演している。それをテレビで見た彼氏は「まだ続けてたんだ…」と呟く。彼は10年ものあいだ、自分が信じたものを愚直に続けてきたのだ。

「バカ」になれず、先を想像して諦めてきた

彼氏と座長の関係を見て、ふと思い出した。僕が高1のとき、担任の先生が4月の一番はじめの挨拶で僕達に言ったことだ。

「君たちはバカになりなさい。君たちはちょっと頭が良いから、すぐに先を想像してしまって、無理だとかなんとかいって諦める。結局何もできずに終わってしまう。成功するのはバカなやつだ。バカなやつは自分の能力の限界がわからないから、愚直にそれを続けて、気付いたら目標に到達している。だから君たちはバカにならないといけない」

この話を聞いたときから既に13年近く経った。結局僕は、先生の言っていた“先を想像して諦めて何もしないやつ”になってしまった。13年も前に先生は警鐘を鳴らしてくれていたのに。

根本宗子の舞台を観たあと、彼女が出演しているパルコのCMを観た。そのCMでは、彼女は自分自身について「自分が才能がないと思っていて、努力で手に入れた才能」だと語っている。

そう語る裏では、彼女の芝居が流れていて、「芝居をはじめて8年、必死でやってきて、誰にも負けないと思ってやってきた」「次の10年後の私に良いバトンを渡せるように、演劇の力を信じて生きていきます」と彼女は演技する。

ああそうか、根本宗子もあの座長のように、自分が信じた道を愚直に突き進んできたのだ。

根本宗子の舞台とパルコのCM、そしてふいに思い出した高校の先生の言葉。僕はなにか大事なことを思い出したような気がした。

既に僕は、あの才能のない彼氏と同じ状態なのかもしれない。心が動くようなことに出会うことも、徐々に減ってきている。それでもまだ、僕にはこのまま惰性で生きていくのは絶対に嫌だと思っている。まだかろうじて、そんな気持ちは残っているのだ。

だから僕は、自分のやりたいこと、エンタメの世界に挑戦しようと思う。20代の最後にもう一度だけ、本気でバカになってみようと思う。

あの舞台の座長のように、自分が信じた道を愚直に進んで行こうと思う。

あの彼氏ができなかったことをやってみようと思う。

2人を生み出した根本宗子が、演劇の力を信じて必死でやってきたよう僕も生きてみよう。そうやって生きることで、僕は僕の心を揺さぶり続けたい。

きっとそうしなければ、生きる意味なんてない。

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