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映画鑑賞

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2023年6月の記事一覧

小劇場系演劇ファン必見の映画~映画『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』~

もしかしたら、「心残り」をたくさん残して死んだ方がいいのかもしれない。

映画『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』(猪股和磨監督、2023年。以下、本作)を観ながら、そんなことを考えた。
本作は、「なかないで、毒きのこちゃん」という劇団が2021年に上演した舞台『7丁目のながふじくん』を、劇団の主宰者であり作者の鳥皮ささみこと猪股氏自らがメガホンをとって映画化したものだ。

静岡県に住む30歳・ニ

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"本当"って何?~映画『レンタル×ファミリー』~

「嘘だから本当じゃない」とは言い切れない。
「本当のことだから嘘じゃない」とも言い切れない。
「劇映画(フィクション・創作)だから本当じゃない」とは言い切れず、だから、人はフィクションの中に「本当」を見出す。
「ドキュメンタリーだから嘘じゃない」と言い切れないことは、ドラマ『ドキュメンタリーは嘘をつく』(2006年、テレビ東京)で、ドキュメンタリー作家の森達也氏が鮮やかに暴いてみせた。
それは映画

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映画『プチ・二コラ パリがくれた幸せ』

小説やマンガ・アニメ、舞台、映画……
「物語」はいつだって、私たちをこの嫌な現実から引き離し、全然違う世界へと連れ出してくれる。この現実を乗り切るために、人々は「物語」に救いを求める。
「物語」に救われるのは、読者や鑑賞者だけではない。それらの作者たちもまた、自身が生み出したものに救われている。

映画『プチ・二コラ パリがくれた幸せ』(アマンディーヌ・フルドン、パンジャマン・マスブル監督、202

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2020年4月22日をどう過ごしていましたか?~映画『東京組曲 2020』~

2020年4月、最初の緊急事態宣言発出時に軽めのネットニュースで「今までの価値観が変わった」という人やSNS投稿が増えたという記事を読んで、違和感を抱いた。

それは「価値観」という言葉を、あまりに曖昧かつ軽く扱っていることに対する違和感だった。
確かにコロナ禍(特に初期段階における)は全世界的であって、その大きな衝撃と戸惑いを「価値観が変わった」という言葉で表現しているのだろうと察することはでき

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映画『渇水』

じゃぁ、俺はどうすればよかったんだ?

映画『渇水』(高橋正弥監督、2023年。以下、本作)で、「用足しに」と言って実家に行ったまま戻ってこない妻と息子に会いにゆき、結局何もできないまま独り長いトンネルの中を車で走っているシーンを観ながら、主人公の岩切(生田斗真)の心の戸惑いが聞こえたような気がした。

岩切は市の水道局員として、料金滞納者に督促し、それでも納付されない場合に水道を止めるという作業

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映画『ジョゼと虎と魚たち』(新宿東口映画祭2023 上映)

やっぱり映画は映画館で観るものだ。

「新宿東口映画祭 2023」のプログラムとして上映された映画『ジョゼと虎と魚たち』(犬童一心監督、2003年。以下、本作)で、主人公恒夫(妻夫木聡)のモノローグの後、流れてきたオープニングテーマ(音楽・くるり)を聴いて、鳥肌が立った。
こんなにいい音だったなんて。
繰り返し家で見ている間に、その音に慣らされていた私は、改めて映画館で映画を観る醍醐味を感じた。

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